カラダから、はじまる。

佐倉 蘭

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Epilogue

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「さぁ、また……先刻さっきみたいに、気持ちよくなってもらいましょうか?」

   ゆっくりと、高木が腰を前後に動かしだした。とたんに、わたしの「中」で落ち着きを取り戻していた「彼」が、ぐんっと「質量」を増す。

「ちょ、ちょっと⁉︎ ……やだ……あっ、あ……っん……っ」

   抵抗しようとしたが、どこをどう突けばわたしが悦ぶのかを、高木は確実に把握していた。
   わたしの「奥」から、じっとりと湧き出てくるのを感じた。すっかり、わたしのカラダは見極められている。

「あなたたちの…同期で……将来…事務次官に…上り詰めるのは……諒志さん…だろうね……あの人と…同期だったのは……不運だったね……きっと……本宮さんも…判ってる……」

   彼の腰の動きに合わせて、彼の声も揺れる。わたしのくちびるからは、もう甘ったるい媚声しかこぼれない。

   総合職キャリアには、同期が事務次官になれば退官する、という不文律があるのだが、それまでにも見合った役職ポストにありつけない者は「淘汰」されて辞めざるを得なくなる環境なのだ。
   定年まで在職できるキャリアなんて、ほとんどいない。

「だから……僕の従姉妹いとこの…見合い相手として……彼を…『紹介』したんだ……家元とは……絶縁状態だけど……側近の…者たちとは……まだ…連絡が取れるから……」

   たとえ金融庁役所を去ることになっても、後ろ盾のない状況から道がひらけるのだ。
   本宮にとって、決して悪い話ではない。

——もしかしたら……今、本宮は「お嬢サマ」と逢ってるのかもしれない……

   高木の心地よいリズムからもたらされる甘美な刺激に、わたしは心まで揺さぶられながら、そんな気がしてならなかった。

「僕は……諒志さんに…このまま……付いて行くよ……なんだか……興味深い仕事が…できそうだしね……」

   一般職ノンキャリは「ガラスの天井」があるため、就ける役職ポストには限りがあり出世ルートラインには乗れないが、却って彼らの方が「淘汰」されることなく、定年まで在職できるのだ。

   だけど——田中あいつのことだ。
   もしかしたら、いつか「権力」を手中に収めた暁には、ノンキャリでも実力次第でとんでもない役職に登用するかもしれない。
   だから、高木は田中に『付いて行く』のだろう。

「七瀬さんのことだから……そんなことには…ならないと…思うけど……もし…あなたが…退官して…再就職先が……見つからなくても……」

——いやいやいや、このご時世、キャリア官僚が再就職するとなると、世間は「天下り」と見做みなすからね。なかなか難しいと思うわ。

「……僕が……あなたを…養うから……」

——はい?

   わたしはきょとんとした顔で、すっぽりと自分を包み込んでいる高木を見上げた。

「これからは…あなたを…見るだけじゃなく……危なっかしくて…目が離せない……あなたのことを……僕が…守っていくから……」

   その顔は相変わらず、美しい笑みをたたえて続けている。

「水野局長に……あなたの妹を…諒志さんの見合い相手に……勧めたのは…僕だけど……彼女のことを……人生の伴侶に…選んだのは……諒志さん自身だから……」

   思わず、目を見開いて息をのんだ。

「だから、もう……いいかげんに…観念して……七瀬さん……」

——わ、わたしのこと、どこまで知ってるの⁉︎

   だけど——心なしか、彼の声がせつなげに聞こえるのは気のせいだろうか?

「だから……七瀬さん……早く……僕に……堕ちてきて……」


——これって……もしかして、プロポーズ⁉︎

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