カラダから、はじまる。

佐倉 蘭

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【Extra Secret】あなたは知らない

Confidential 1 ②

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   自分にこんな「探偵」のような真似ができるなんてな、と思いながらも、高木が与えられた任務ミッションを遂行した結果——

   水野 七瀬に「特定の男」はいなかった。

   毎日、赤坂見附の自宅マンションと霞ヶ関コ◯ンゲートにある合同庁舎会社との間をただ往復する日々を彼女は送っていた。
   若手官僚キャリアは激務だ。国会の会期中は庁舎の仮眠室から「通勤」するのもめずらしくない。

   だが——ある週末の夜。リーダー研修のメンバーが、各部署で正式に発表された週のことだ。

   赤坂見附のマンションから出てきた彼女は、庁内社内でいつも目にするダークグレーのパンツスーツではなく、幾何学模様が踊る鮮やかな色のワンピース姿だった。ピンヒールを履いて一七〇センチ以上になった彼女は、まるで女優かモデルのようだ。

   彼女はタクシーで——高木はすぐ後ろを流していたタクシーをつかまえて、運転手に『前のタクシーを尾けてください』とまるで二時間ドラマの刑事のようなことを告げた——外国人たちが集まる六本木のクラブへと繰り出した。

   「クラブ」と言っても、少し奥まったところにある隠れ家的な感じの店だった。年齢層はアラサー中心で、二十歳はたちそこそこの子供ガキはまったくいない。

   それでもクラブなので、重低音が身体の芯まで響く大音量の中、ダンスを楽しむでもなく一人カウンターに座って酒を呑む彼女に、男が近づき隣を陣取る。

   高木は少し離れた場所で、日本のクラフトビール・銀◯高原ビールをっていた。
   やはり彼の顔をよく覚えていないのか、彼女にはまったく気づかれていない。(それよりも、隙あらば話しかけてくるオンナたちが鬱陶しかった。)

   彼女は父親譲りの「酒豪」だった。庁内で知らぬ者はいない。
   瓶の口にライムが刺さったコ◯ナビールに始まり次にスピリッツァグラスとなり、いつしかショットグラスに変わって黄金こがね色に輝く100%アガヴェデ・アガヴェを豪快にあおりだした。

   それに伴って、隣の男との「距離」がぐっと縮まる。

   その後、彼女はその男と連れ立ってクラブを出た。店を変えてもう一軒、今度はバーにでも行くのかと思いきや、彼らはタクシーでいきなりホテル街へ乗りつけて、適当に選んだラブホテルへ吸い込まれるように入って行った。

   傍目には、テキーラデ・アガヴェが回って酔っ払い、すっかり理性をブッ飛ばしたオンナが、あっさりとオトコに「お持ち帰り」されたように見えるかもしれない。

   だが、高木の見解は違った。

   相手の男が気づいているのかどうかは知らないが——いかにも後腐れのなさそうな軽い男だった——「主導権イニシアティブ」は完全に彼女の方にあった。


——あれは、彼女の方が……「お持ち帰り」したのだ。

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