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【Extra Secret】あなたは知らない
Confidential 2 ②
しおりを挟む『僕の方は、気になさらなくて構いませんよ。おかげさまで、国家公務員の職がありますし。それに、ちょうど申し込んでいた新宿にある公務員宿舎に空きが出たというので、近日中にそちらに移ろうと思っています』
すかさず、畳みかけるように高木は告げる。
『確かに、華子さんがいきなりこの華山院を動かしていくことは難しいと思います。なので、彼女が慣れるまではお手伝いしますよ』
『それならば……』
家元は思い立ったように告げる。
『おまえが華子と結婚して、華山院を盛り立ててくれればいいではないか』
しかし、高木は首を左右に振った。
『それでは権藤さんの方がご納得にならないと思いますね。あちらはあちらで、政治家としての『後継者』が必要でしょうし』
華子はどちらの家にとっても「跡取り」なのだ。
『実はですね……僕なんかよりも、華子さんに最適な方が、金融庁にいるんですよ。T大出身のキャリア官僚なんですが、彼ならきっと政治家としてもやっていけるに違いないと思いましてね。……ただ残念ながら、親が地方の公務員らしく『後ろ盾』がなくて』
『歳はいくつだ?』
家元のぴしりと伸びた背筋が、心なしか前傾しているように見える。
『僕の直属の上司と同期なので、三十一だと思います』
泥藍の大島を身に纏った家元が、懐手をして考え込む。敢えて普段着にして、何年もかけて着熟したその紬は、彼の組んだ腕にしっとりと寄り添っていた。
『そのくらいの歳の男なら、あのワガママ放題に育った華子でも、手綱を引いて御することができるか。……で、その男の名前は?』
家元の問いに高木は答えた。
『本宮 秀喜といいます』
そのあと、高木は「華道家元・華山院」から、次期家元の座を放り出した廉にて、当代家元より「破門」されることとなった。
『……なんで、おまえを「破門」せにゃならんのだ?』
家元はどうにも腑に落ちぬ顔をした。しかし、高木は平然と答える。
『もし、僕を担ぐ勢力でも出てきたら、流派を二分する「御家騒動」になってしまうではありませんか』
かつて、当代家元と高木の父親が次期家元を巡って争いを繰り広げたが、当人同士よりもむしろ、脇を固めた者たちの方が苛烈であった。
『それに権藤家にしてみても、いきなりやってきて、次期家元を蹴落として後釜に座った、とは思われたくないでしょう?それよりも、次期家元になるべき者が突然出奔して窮地に立たされているのを、見るに見かねて手を差し伸べた、という態の方が、きっとお喜びになると思いますよ?』
『……だがなぁ……おまえがいないことには、もうこの華山院は立ち行かぬからなぁ……』
家元は泥藍の大島を懐手したまま、思わず本音を漏らした。
『表向きは「破門」ということですので、家元との関係は断つことになりますが、側近の方々とは連絡を取り続けますから、ご心配なく』
高木は「話はこれまで」とばかりに、最後に平伏した。
゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚
水を張った立花瓶の中央にある剣山に、極楽鳥花の最後の一本を垂直に挿し、すーっと斜めに傾けた。
そして、すっ、すっ、と膝だけで後退りし、全体のバランスを確認する。どこからどう見ても「一本の花」にしか見えない。
——完成だ。
高木は満足げに微笑んだ。
生け上がった極楽鳥花の南国色のオレンジの花弁とブルーの萼が、禍々しいまでに鮮やかな色彩を放っている。
それでいて、すらりとした立ち姿は凛としていて、孤高を保っていた。
——なんだか「あの女」に似ているな。
目を眇めつつ、その花を眺める高木は、さらに微笑みを深めた。
すべては……「あの女」を手に入れるために画策したことであった。
だが、まさかこの短期間で、ここまでうまく「厄介払い」できるとは、彼自身ですら予想だにしなかった。
——僕の人生は、すっかり変わってしまったけれどもね。
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