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この恋心にそっと蓋をしましょう
画面の中にいるあなたを、どうしても救いたい
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「生きづらい」
物心ついたときから、
常にこの言葉がつきまとった。
「メロディーて、
なんか見てて腹立つんだよね」
覚えているなかで、一番最初の記憶だ。
どうやら私は周りの子達いわく、
根っからのいじめられっ子体質らしい。
集団というものは、誰か仲間外れをつくりたがる。自然の原理だ。
自信がなく、おどおどしていて、
思ってることがあっても意見を言えない私はきまってターゲットにされた。
その上気も弱く臆病だから、
何も言い返せずにいるうちに、
どんどんイジメは酷くなった。
「どうかここから救い出してください」
変わり映えしない中庭の景色を横目で見ながら、狭い箱庭に閉じ込められているように感覚を覚えた。
きっと私はこの苦しみから一生逃れられない。
そんな私にはお構いなしに太陽は昇ってまた夜が訪れて新しい一日がスタートする。
唯一幼馴染みのミクは私の味方でいてくれたが、
いじめられっ子の私のせいで大切な友人に迷惑はかけられない。
ミクは私と違っていつもクラスの中心にいる人気者で、
私のような子とも仲良くしてくれるくらい性格も良く、美人で成績も優秀。
全てに恵まれた子だ。
たまに廊下ですれ違うと、
多くの仲間たくさんの友達に囲まれて楽しそうに笑っていて、
私とは別世界の子のように遠く離れた存在に感じる。
私もこんな子になりたかった…と
彼女を見ると嫉妬さえも覚える。
私の人生は、終わりのない暗闇をひたすら彷徨っているようで、
いつしかかすかな希望も消えた。
私はどこに行ってもみんなから煙たがられる、惨めな存在でしかないんだ。
それからは、好かれることも集団に馴染むことも諦めて、
身を潜めるようにして教室の隅で過ごすようになった。
だが生きることは苦しみが伴うと信じていた私だったが、ついにその呪縛から解放された。それもあっさりと。
心がひどく満たされて眠りについたのは初めてだった。
幸せとはほど遠い存在だと思っていた自分はちゃんと些細なことでも幸せと感じられる才能をもった子だった。
もっと早く気づきたかったな。
心からそう思う。
神様はちゃんといたようで、
幸せになることを諦めなかった私にご褒美をくれた。
ぽっかり空いた穴を一瞬で埋めてくれた。
生きる希望をくれたアルファン様…。
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「ねぇ、ミクちゃん」
静かな放課後。
心地良い日の光に、
まぶたが重くなってくる。
生徒達はもうほとんど帰宅しており、
運動部の声だけが威勢よく聞こえてきた。
『うん~』
ゲームから目を離さずに空返事をする彼女は、
先程からずっとこんな感じだ。
ゲームの世界に相当入り込んでるらしい。
もちろん、そのゲームとは彼女が愛して止まない【破滅プリンス】
昨日のことを気にしている様子はなく、
ほっと胸を撫で下ろす。
「あのっ、その…ミクちゃんの推しのアルファン王子ってどんな人なのかな?」
ちょっと聞にくいなと、最後の方はボソボソと小声になった。
『……』
返事がないのを不思議に思い振り返ると、
体ごとこちらを向いて目をキラキラさせた彼女がいた。
『え、なになに?!
メロディーがゲームについて聞いてくるのなんて、
初めてじゃない?』
前のめりな彼女に、思わず引き気味になる。
「うん……ちょっと気になって」
満面の笑みを浮かべて彼女は話し出した。
また興奮しすぎていつもの早口になっているが、
今回はすんなりと頭に入ってくる。
彼女の話をまとめると、
アルファン王子は舞台となる国の王位継承権第一位を持つ次期国王。
現王の嫡男で、正義感が強く、
勤勉で真面目な性格をしている。
剣の達人でもあり、その道でも将来を期待されている若き実力派エリート。
女性関係は、全くと言っていいほど
浮いた話がないらしい。
さすが乙女ゲーム!現実には絶対存在しないでしょってくらい全てが完璧…!
と思っていたが…
「え…どのルートでも死亡フラグが立ってるの?!」
思わず大きい声を出してしまったが、
外にいる運動部の声でかき消されるだろう。
『ええ…主人公と恋に落ちるんだけど、
実は彼女、次期国王の座を狙う弟と手を組んで、
密かに彼を陥れようと策略してるのよ。
魔法で心を操られて虜になってる彼は彼女の意のままだから、どのルートになってもバッドエンドが待ってるわ』
「そんな……」
頭の中が一瞬で真っ白になり、息を呑んだまま唖然となった。
『でも、私はそこが一番の魅力だと思ってるの!
今までにない新感覚のシナリオじゃない?
むしろハッピーエンドより、ドロドロの愛憎劇のほうがゾクゾクするわ!!!ふふっ』
彼女は「うっとりしちゃう」とばかりに
頬に手を当て、目をキラキラと輝かせた。
「はぁ…」
ミクはこうゆうところが、昔から少し変わっている。
そういえば、小さい頃のお気に入りの映画は、
どれもバッドエンドか悲恋ものだったっけ。
到底純粋な子供が好むものとは思えず、
ミクが少し不気味に感じていた。
人気者の裏の顔は、かなりの変わり者だ。
普通に見えるように彼女も周りに合わせているのかと思うと、意外と苦労しているのかもなと少し親近感が湧く。
「なんとかして、ハッピーエンドにできないのかな…」
『それは無理よ、メロディー。もうシナリオで決まっているんだから。それが王子の運命なのよ!』
ミクはそんなの当たり前でしょ!とハッキリ言い放った。あんなにアルファン王子で騒いでたのに、意外とあっさりしている。
『それに、世界に入り込む気持ちは分かるけど、これはリアルじゃなくてゲームだからね』とも付け加えてくれた。
「運命か。変えられないのかな・・・」
私のいじめられっ子人生も、
王子と同じように『運命』と言うものなのだろうか。
そうだとしたら悲しい。
「救いたいな・・・」
胸の奥から熱いものが込み上げてくるのがわかった。
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