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March
お花見デート Side 翠葉 03話
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一時間ちょっとかけてお弁当を食べ、食後のお茶を飲んでいるとき、
「午後もハープ弾いてたほうがいい?」
「いや、翠の部分はほとんど描けたから、午後は好きに過ごしてもらってかまわない。ただ、俺の写真だけは先に撮ってもらっていい?」
「うん、いいよ」
私が席を立とうとしたら、手首を掴まれ引き止められた。
「ん?」
「どうせなら翠も写れば?」
「え?」
「ハープは抱えててもどっちでもいいけど、ふたりで写ってる写真少ないし、セルフタイマーなら笑って写れるんだろ?」
「うん……」
「なら、これからは三脚使って写真も残していこう」
まさかツカサにそんな提案をされるとは思ってもみなくて、嬉しさがこみ上げてくる。
ツカサが支倉へ移ってしまったら、会える回数は必然と減る。そのときに備えて写真が欲しいと常々思っていたこともあり、本当に嬉しい申し出だった。
「じゃ、カメラのセッティングだけしてくるっ!」
私は三脚とカメラを持って、ツカサがイーゼルを立てた場所へ向かった。
イーゼルの前まで来てはっとする。
「ツカサ、同じ場所から写真撮ろうとすると、絵が見えちゃう」
振り返って指示を仰ぐと、ツカサはクスクス笑って「大丈夫」と言った。
何がどのように大丈夫なのか、意味がわからずツカサを見ていると、
「絵は見えないようにしてあるから」
その言葉にそっとイーゼルの向こう側を覗き込む。と、キャンバスの上にデッサン用のノートが置かれていて、絵が見えない状態にしてあった。
ちょっと残念なようなそうでもないような……。でもやっぱりちょっと見てみたかったかも?
私はイーゼルの隣に三脚を立てるとカメラをセットして、ディスプレイに映し出される景色はどんな構図が理想的かを考える。
上から三分の一くらいに桜の花を写しこみ、その下に緑の原っぱやツカサがバランスよく収まる構図を探る。
「三脚をもう少し高くして――もうちょっと下……もうちょっと左……あ、でも私があそこに入るからこのくらいでいいのかな?」
セルフタイマーをセットすると、私は早歩きでツカサのもとまで戻った。
「テスト写真! あと少しでシャッター落ちるよ」
そのニ秒後にシャッターが落ちた。
まさか二秒でシャッターが落ちるとは思っておらず、ふたりともカメラの方は向いていなかった。
そんな状況にふたり笑みが零れる。
「セルフタイマーって何秒なの?」
「二秒と十秒しか選べないの」
「それなら、俺が押してくるほうがよくない?」
「お願いできる……?」
ツカサはくつくつと笑いながら請合ってくれた。
「スマイルシャッターならどっちかが笑えばシャッター勝手に落ちてくれるんだけど……。今度、遠隔操作できるリモコン買おうかな?」
「それ、高いの?」
「ううん、そんなに高くない。それに、静さんからいただいている写真のお代、レッスン代以外ではほとんど使うことがないから、お小遣いにはあまり困っていないの」
そんなふうに言うと、ツカサはまた笑った。
最近、普通に笑うツカサをよく見るようになった気がする。
出逢ったころは無表情がデフォルトで、たまに見られる笑顔は絶対零度の笑みばかりだった。
いつか普通に笑うところを見てみたいと思っていたけれど、本当だ……。一緒にいる時間が長くなると、色んな表情を見られるようになるのね。
あとどのくらい――あと何種類くらい私の知らない表情があるのだろう。
じっと見つめていると、セルフタイマーをセットしたツカサが走って戻ってきた。
それがまるで、自分めがけて走ってきてくれてるように思えて、思わず笑顔になる。
あくまでも錯覚なのだけど、嬉しいから勘違いしたままでいよう。
そう思っているうちにシャッターが切られた。
ツカサと一緒にテスト写真を見に行くと、今までにないような笑顔で自分が写真に写っていてびっくりした。それはツカサも同じ。
「セルフタイマーだと本当に笑えるんだ?」
それはちょっと違う。
これは笑おうと思って笑ったわけじゃなくて、嬉しくなって笑っちゃっただけだから、どちらかというならツカサのお手柄だ。
でも、そうとは言えず、「そうみたい」となんとも白々しい返事をすることになった。
もう一度プレビュー画面に目をやると、ツカサもいつもより優しい顔つきで写っていた。
この写真なら、間違いなく寂しさを紛らわせてくれるだろう。
満足していると、
「翠、これ、少し構図変えてもいい?」
「うん、いいよ。でもどうして?」
「自分の絵の構図と同じ写真を撮っておきたい」
「無人でいいの?」
「無人と有人の両方」
「じゃ、ツカサのいいようにして?」
私はカメラから下がってツカサの作業を眺めていた。
なんて幸せな一日なんだろう。
一緒に桜を見て、一緒にお弁当を食べて、一緒に写真に写って、絵を描いてもらって――
幸せすぎてちょっと怖くなる。
ずっとこんな時間が続いてほしいけれど、今まで色んなものが「有限」だっただけに、これにも限りがあるんじゃないか、と思ってしまうのだ。
不安に思うたび、ツカサからもらった指輪に視線を落とす。
指には「未来」を象徴する指輪がはまっている。それはまるで、「有限」を恐れる私にツカサがくれた「安心」であったり「未来の約束」のように思えた。
「だいじょうぶ……」
ツカサとの未来は続く――続かせる。そのために私にできることはなんだろう……。
ツカサの背を見ながら考えていると、不意にツカサがこちらを向いた。
「有人の写真撮りたいからラグに戻って」
「了解!」
私はゆっくりと立ち上がりラグまで戻った。
すぐにツカサも戻ってきて、ラグに座るなり私の方を見るから不思議に思う。
「なんでこっち見てるの?」
「翠がハープを弾いてたら、俺は翠を見てると思うんだけど」
「あ、なるほど……」
そういう絵を描いてくれるのだろう。
やっぱりすっごく楽しみだし、すっごく嬉しいし、すっごく幸せだ。
これが夢だったら、私泣いちゃうかも。
すべての写真を撮り終えると、ツカサは画材が入っていたバッグとは別のトートバッグからノートパソコンを取り出し、デジカメのデータを取り込み始める。それが終わると、今度はパソコンから自分のスマホへと写真の転送を始めた。
お願いして私のスマホにも転送してもらうと、私は早速ホーム画面の設定に取り掛かった。
画像編集アプリで一緒に写ってる写真のツカサだけを切り取り、桜をバックにしたツカサをホーム画面に固定する。と、それに気づいたツカサが、
「それ、俺のスマホでもやりたい」
「あ、ちょっと待ってね」
自分のスマホから今編集したばかりの写真をツカサのスマホに転送すると、その画像を見たツカサが、
「あのさ、俺のスマホに俺の画像固定してどうするの……」
静かに指摘されてはっとした。
「えっと――」
「翠の写真をホーム画面に固定したいんだけど」
「あ、ハイ……」
これはちょっと恥ずかしい……。
自分の写真を自分で編集して、好きな人に送るのだから……。
少しの抵抗を感じながら編集作業を済ませ、新たに写真を転送する。
ホーム画面に設定し終わったツカサが私のスマホと自分のスマホを並べて見せた。
「あっ……」
スマホをふたつ並べると、ふたつの画像がぴったりと合わさりふたりが一緒にいるように見えるのだ。
「こういうのも悪くない」
そう言うと、ツカサはふわりと優しく笑う。
「これも写真に撮っていい?」
ふたつ並んだスマホを指差してたずねると、「どうぞ」と許可が下りた。
私はカラーとモノクロで一枚ずつ写真に収めた。
「午後もハープ弾いてたほうがいい?」
「いや、翠の部分はほとんど描けたから、午後は好きに過ごしてもらってかまわない。ただ、俺の写真だけは先に撮ってもらっていい?」
「うん、いいよ」
私が席を立とうとしたら、手首を掴まれ引き止められた。
「ん?」
「どうせなら翠も写れば?」
「え?」
「ハープは抱えててもどっちでもいいけど、ふたりで写ってる写真少ないし、セルフタイマーなら笑って写れるんだろ?」
「うん……」
「なら、これからは三脚使って写真も残していこう」
まさかツカサにそんな提案をされるとは思ってもみなくて、嬉しさがこみ上げてくる。
ツカサが支倉へ移ってしまったら、会える回数は必然と減る。そのときに備えて写真が欲しいと常々思っていたこともあり、本当に嬉しい申し出だった。
「じゃ、カメラのセッティングだけしてくるっ!」
私は三脚とカメラを持って、ツカサがイーゼルを立てた場所へ向かった。
イーゼルの前まで来てはっとする。
「ツカサ、同じ場所から写真撮ろうとすると、絵が見えちゃう」
振り返って指示を仰ぐと、ツカサはクスクス笑って「大丈夫」と言った。
何がどのように大丈夫なのか、意味がわからずツカサを見ていると、
「絵は見えないようにしてあるから」
その言葉にそっとイーゼルの向こう側を覗き込む。と、キャンバスの上にデッサン用のノートが置かれていて、絵が見えない状態にしてあった。
ちょっと残念なようなそうでもないような……。でもやっぱりちょっと見てみたかったかも?
私はイーゼルの隣に三脚を立てるとカメラをセットして、ディスプレイに映し出される景色はどんな構図が理想的かを考える。
上から三分の一くらいに桜の花を写しこみ、その下に緑の原っぱやツカサがバランスよく収まる構図を探る。
「三脚をもう少し高くして――もうちょっと下……もうちょっと左……あ、でも私があそこに入るからこのくらいでいいのかな?」
セルフタイマーをセットすると、私は早歩きでツカサのもとまで戻った。
「テスト写真! あと少しでシャッター落ちるよ」
そのニ秒後にシャッターが落ちた。
まさか二秒でシャッターが落ちるとは思っておらず、ふたりともカメラの方は向いていなかった。
そんな状況にふたり笑みが零れる。
「セルフタイマーって何秒なの?」
「二秒と十秒しか選べないの」
「それなら、俺が押してくるほうがよくない?」
「お願いできる……?」
ツカサはくつくつと笑いながら請合ってくれた。
「スマイルシャッターならどっちかが笑えばシャッター勝手に落ちてくれるんだけど……。今度、遠隔操作できるリモコン買おうかな?」
「それ、高いの?」
「ううん、そんなに高くない。それに、静さんからいただいている写真のお代、レッスン代以外ではほとんど使うことがないから、お小遣いにはあまり困っていないの」
そんなふうに言うと、ツカサはまた笑った。
最近、普通に笑うツカサをよく見るようになった気がする。
出逢ったころは無表情がデフォルトで、たまに見られる笑顔は絶対零度の笑みばかりだった。
いつか普通に笑うところを見てみたいと思っていたけれど、本当だ……。一緒にいる時間が長くなると、色んな表情を見られるようになるのね。
あとどのくらい――あと何種類くらい私の知らない表情があるのだろう。
じっと見つめていると、セルフタイマーをセットしたツカサが走って戻ってきた。
それがまるで、自分めがけて走ってきてくれてるように思えて、思わず笑顔になる。
あくまでも錯覚なのだけど、嬉しいから勘違いしたままでいよう。
そう思っているうちにシャッターが切られた。
ツカサと一緒にテスト写真を見に行くと、今までにないような笑顔で自分が写真に写っていてびっくりした。それはツカサも同じ。
「セルフタイマーだと本当に笑えるんだ?」
それはちょっと違う。
これは笑おうと思って笑ったわけじゃなくて、嬉しくなって笑っちゃっただけだから、どちらかというならツカサのお手柄だ。
でも、そうとは言えず、「そうみたい」となんとも白々しい返事をすることになった。
もう一度プレビュー画面に目をやると、ツカサもいつもより優しい顔つきで写っていた。
この写真なら、間違いなく寂しさを紛らわせてくれるだろう。
満足していると、
「翠、これ、少し構図変えてもいい?」
「うん、いいよ。でもどうして?」
「自分の絵の構図と同じ写真を撮っておきたい」
「無人でいいの?」
「無人と有人の両方」
「じゃ、ツカサのいいようにして?」
私はカメラから下がってツカサの作業を眺めていた。
なんて幸せな一日なんだろう。
一緒に桜を見て、一緒にお弁当を食べて、一緒に写真に写って、絵を描いてもらって――
幸せすぎてちょっと怖くなる。
ずっとこんな時間が続いてほしいけれど、今まで色んなものが「有限」だっただけに、これにも限りがあるんじゃないか、と思ってしまうのだ。
不安に思うたび、ツカサからもらった指輪に視線を落とす。
指には「未来」を象徴する指輪がはまっている。それはまるで、「有限」を恐れる私にツカサがくれた「安心」であったり「未来の約束」のように思えた。
「だいじょうぶ……」
ツカサとの未来は続く――続かせる。そのために私にできることはなんだろう……。
ツカサの背を見ながら考えていると、不意にツカサがこちらを向いた。
「有人の写真撮りたいからラグに戻って」
「了解!」
私はゆっくりと立ち上がりラグまで戻った。
すぐにツカサも戻ってきて、ラグに座るなり私の方を見るから不思議に思う。
「なんでこっち見てるの?」
「翠がハープを弾いてたら、俺は翠を見てると思うんだけど」
「あ、なるほど……」
そういう絵を描いてくれるのだろう。
やっぱりすっごく楽しみだし、すっごく嬉しいし、すっごく幸せだ。
これが夢だったら、私泣いちゃうかも。
すべての写真を撮り終えると、ツカサは画材が入っていたバッグとは別のトートバッグからノートパソコンを取り出し、デジカメのデータを取り込み始める。それが終わると、今度はパソコンから自分のスマホへと写真の転送を始めた。
お願いして私のスマホにも転送してもらうと、私は早速ホーム画面の設定に取り掛かった。
画像編集アプリで一緒に写ってる写真のツカサだけを切り取り、桜をバックにしたツカサをホーム画面に固定する。と、それに気づいたツカサが、
「それ、俺のスマホでもやりたい」
「あ、ちょっと待ってね」
自分のスマホから今編集したばかりの写真をツカサのスマホに転送すると、その画像を見たツカサが、
「あのさ、俺のスマホに俺の画像固定してどうするの……」
静かに指摘されてはっとした。
「えっと――」
「翠の写真をホーム画面に固定したいんだけど」
「あ、ハイ……」
これはちょっと恥ずかしい……。
自分の写真を自分で編集して、好きな人に送るのだから……。
少しの抵抗を感じながら編集作業を済ませ、新たに写真を転送する。
ホーム画面に設定し終わったツカサが私のスマホと自分のスマホを並べて見せた。
「あっ……」
スマホをふたつ並べると、ふたつの画像がぴったりと合わさりふたりが一緒にいるように見えるのだ。
「こういうのも悪くない」
そう言うと、ツカサはふわりと優しく笑う。
「これも写真に撮っていい?」
ふたつ並んだスマホを指差してたずねると、「どうぞ」と許可が下りた。
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