光のもとで2

葉野りるは

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October

紫苑祭二日目 Side 翠葉 03話

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 学校へ着くと、桜林館の中に本部を作るところから準備が始まる。それでも、昨日と比べると競技に必要とされる用具が少ないこともあり、それほど時間はかからず準備が整った。
 手の空いた生徒は組の観覧席へ向かう人もいれば、桜林館の出入り口に設置されている投票機に向かう人もいる。
 私は後者だった。
 昨日行われた応援合戦やモニュメントの投票を八時半までに終えなかった場合、無投票と見なされてしまうのだ。
 黒組が一位であることを祈りながらタッチパネルの操作をしていると、ディスプレイに影が差した。
 不思議に思って顔を上げると、
「黒組へのご投票、誠にありがとうございます」
 投票機の傍らに王子スマイルの朝陽先輩が立っていた。
 きっと、投票機に不具合がないか見て回っていたのだろう。
「投票率もいい感じ。職員の投票は全員終わってるから、あとは生徒オンリー」
 タブレットを見ながら話しているということは、そこに順位も表示されていたりするのだろうか……。
 タブレットに釘付けになっていると、
「……気になる?」
 私はコクコクと首を縦に振る。
「見る?」
「……だめじゃないです?」
 朝陽先輩はクスクスと笑い、
「生徒会メンバーにまで秘密にする必要はないよ」
 朝陽先輩はテラスへ出るとタブレットを見せてくれた。そこには投票状況が表示されていて、数秒ごとにグラフや数値が変化する。
 モニュメントへの投票はどこが抜きん出ている、という感じは受けないものの、応援合戦の投票は黒組がダントツ一位。
 ほっとした私は胸を撫で下ろす。と、
「あれ? 赤組の応援はいいの?」
「……えぇと、赤組の応援はしているのですが、黒組の応援はもう一度見たくて……」
「ふ~ん。司、格好よかったもんね?」
 にっこり笑顔を向けられ、うっかり「はい」と答えてしまった自分に慌てる。
「あはは、相変わらず翠葉ちゃんは正直だね」
 朝陽先輩はテラスの手すりにもたれかかるようにして笑いだす。
「……今の、内緒にしてくださいね?」
 辺りに誰もいないか見回すと、
「ご心配なく。あっちもこっちも浮き足立っててそれどころじゃないよ」
 朝陽先輩が視線を向けた先には男女の姿。
 ふたりとも顔を真っ赤にして俯いたまま話している。
「たぶん、後夜祭の申し込み。ほら、あそこもそうじゃない?」
 振り向くと、十数メートル先にも真面目な顔で話をする男女がいた。
「たいていは前日までに申し込むものなんだけど、当日駆け込み組もちらほらいるよね。じゃ、俺は仕事に戻るね」
 朝陽先輩は軽く手を上げ桜林館へと戻っていった。
 私は改めて辺りを見回し、なんとなしに空を見上げる。
「……みんなが登校するまではもつといいのだけど――」

 組の観覧席へ行くと、風間先輩に声をかけられた。
「御園生さん、おはよ」
「おはようございます」
「さっき美都と一緒にいたよね?」
「はい」
「応援合戦、どこの組が優勢か聞いた? 噂だと黒組だけど、やっぱ当たり?」
 私は苦笑を返すことで質問に応じた。
「そっか~……うちもいい線いってたと思うんだけどなぁ……」
「それも当たりです。うちの組は二位につけてましたから」
「マジで? くっそ~……藤宮に負けたと思うと悔しいんだよなぁ」
 ツカサと言えば……。
「あの、黒組のワルツ、ツカサは出ないみたいです」
「……マジでっ? そっちの噂も本当だったのかよ……」
「え? 風間先輩はご存知だったんですか?」
「いや、あくまでも噂だし、黒組の連中一切口割らなかったから事実確認はできなかったんだよね……」
 口を濁す風間先輩の後ろから静音先輩が現れた。
「どうやら、ダンスメンバーの選出を例年どおりにしなかったのはうちの組だけじゃなさそうよ。桃組は三組とも三年で固めてるっていう話だし、ほかの組も一年は選ばず二、三年から選出してるところが多いみたい。何にしても、藤宮くんがいるのに彼を出さないなんて大バカ者ねっ。こっちは勝率が上がって助かるけど」
 静音先輩がこうも言い切るほど、ツカサのダンスは評価されているのだろう。事実上手だし、何よりも優雅で美しい。
 そんなツカサのダンスを見てみたいと思う反面、自分以外の人と踊る姿を見たら複雑な気持ちになるだろうかとも思うし、どっちにしろ自分もワルツに出るのだからツカサが踊っているところは見られないではないか、と頭の中で言い合いが始まる。
 あれこれ考えながら観覧席を眺めていると、テラスから駆け込んだ一年生たちが目についた。そのうちのひとりと視線が合うものの、わかりやすく逸らされる。
 その視線のやり取りに気づいた人がふたり。
「……谷崎サン、ありゃ、まだ心の整理はついてないっぽいな」
「そうみたいね……。御園生さん、大目に見てあげてもらえるかしら?」
 私は愛想笑いを返すことしかできない。
「大目に見る」と言えるほど自分が上に位置しているわけではないし、「気にしていません」などと言ってしまったら谷崎さんに申し訳ない気がする。
 言えることがあるとしたら、
「もし謝りに来てくれたなら謝罪は受け入れます。でも、私は謝罪を望んでいるわけではないので……」
 風間先輩と静音先輩は顔を見合わせ、
「穏やかな顔してるけど、実は結構怒ってる?」
 言われたことに驚いて、私は声を立てて笑った。
「確かに、昨日はムッとしたりもしましたけど、そんなに尾を引くものではないです。……私はただ、認めてほしいだけ。組に選ばれた代表者として、認めてほしいだけです。でもそれって、競技で結果を出すのが一番の近道だと思いませんか? だから、今日のワルツをがんばります」
 言い終わると同時にチャイムが鳴り、放送が入った。
『ただいまを持ちまして、応援合戦並びにモニュメントの投票を打ち切ります。生徒は組ごとに整列を始めてください』
「よっし、二日目! 赤組っ、フロアに下りて整列っっっ!」
 風間先輩の言葉があたりに響き、皆が一斉に移動を開始した。
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