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October
紫苑祭二日目 Side 翠葉 08話
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お昼休みを挟めば午後はほとんどが個人競技。
フェンシング、柔道、空手、合気道、剣道――
これらは体育館をふたつのスペースに区切り、ふたつの競技を同時進行で行っていく。
フェンシングの召集がかかると、桜林館の一箇所が急激に沸き立った。
理由はすぐに判明する。朝陽先輩だ。
剣を携えマスクを小脇に抱える様は、さながら中世の騎士のよう。
「いつもに増してすごい声援……」
そんな言葉を漏らすと、桃華さんがクスリと笑った。
「朝陽先輩、インターハイは逃しているけど、県でのランキングは上位なのよ?」
「本当の王子様みたい……」
「確かに。あの格好で微笑まれたらファンの子たちはたまらないわね。しかも、闘う姿も優雅ときてるわよ」
その言葉のとおり、試合は「美しい」の一言に尽きた。
「桃華さん、インターハイは逃してるけど……って、朝陽先輩、フェンシング部なの?」
「そうよ。知らなかった?」
「うん……」
部活が強制参加であることは知っていたけど、まさか運動部に所属しているとは思いもしなかった。
なんというか、部活で汗を流しているところが想像できないし、ESSとか演劇部と言われたほうがしっくりっくる。
そういえば、一年のときにいただいたブロマイドの一枚がフェンシングをしている写真だったっけ……。
あぁ、あれが部活姿なのか……と今さらながらに納得する。
「あ、翠葉ちゃん、右のフロアで藤宮先輩の試合が始まるよ!」
美乃里さんに言われてそちらへ視線を向ける。と、白い胴衣に黒い袴を履いたツカサが立っていた。
またしてもメガネなしの姿。
メガネをかけていないツカサを見たのは何回目だろう。たぶん数え切れる程度だ。
ほかの女の子たちの目にも新鮮に映っているのかもしれない。
近くで騒ぐ女の子たちに視線を向けたけれど、ツカサが競技に出る際静かだったためしなどなく、今もうるさいくらいの歓声が起こっている。
「盛り上がっている」といえば聞こえはいいけれど、甲高い声の集合体に頭がくらくらしてくる。
桜林館左側には朝陽先輩ファンが集い、右側にはツカサファンが群がる。
フロアに下りて観戦している人もいれば、ほかの組の観覧席であるにも関わらず、手すり沿いの通路を埋め尽くす勢いで女の子たちが集まってきていた。
かくいう私たちは、自組に割り当てられた観覧席の手すり沿いに並び階下フロアを見下ろしている。
ツカサの試合が始まるなり、
「憎たらしい……。あの男、合気道を始めたころから身体捌きがきれいだったのよね」
桃華さんはぞんざいな視線を送りつつもそんな言葉を漏らす。
でも、桃華さんがそう言う気持ちもわからなくはない。
技やルールは知らないけれど、ツカサの動きはとてもきれいだと思うから。
流れるような動作は「洗練されている」という言葉が妙にしっくりくる。
弓を持ったツカサを初めて見たときにも美しすぎる所作に釘付けになった。
もっとも、所作の美しさは弓道や合気道に留まらない。
ワルツを躍らせれば優雅だし、食事の際の箸使いもきれいなら、口を開く様まで美しい。
焼き魚を食べているところは見たことがないけれど、ツカサのことだ。魚の骨を芸術品か何かのようにお皿に残すに違いない。
それにしても、メガネをかけていないツカサは新鮮だ。
メガネをかけているからインテリっぽく見えるのかと思っていたけれど、メガネをかけていなくても知的な雰囲気は損なわれない。「端麗」という言葉が恐ろしいほどしっくりくる顔だと思う。
やっぱり、格好いいな……。
サラサラの黒髪ストレートが好きだし、一見して冷ややかに見える切れ長の目も好き。
すっと通った鼻に薄い唇。陶器のような白い肌――
うっかりさっきの半裸姿を思い出して頬が熱を持つ。
思わず視線を逸らしてしまったけれど、めったに見られない合気道姿はじっくりと見ておきたい。
そろそろと視線を戻したけれど、直視することはできず、控えめに窺い見るのがやっと。
まだ触れたことのないあの頬に、いつか触れることができるだろうか。
きっと、すべすべなんだろうな……。
自分の頬はどうだろうか、とふと思い立ち頬に手を添える。と、キスのときに添えられたツカサの手を思い出した。
……私、ツカサの手も好きだ。
考えてみたら、私、ツカサの手しか触ったことないかも……?
あとは腕、くらい……?
いつか、私も頬に手を伸ばせるだろうか。
自分がツカサの頬に手を伸ばす様を想像したら、あまりにも恥ずかしくてハタハタと手で顔を仰ぐ始末。
私、何考えてるんだろう……。ちゃんと応援しなくちゃ。
深く息を吸い気を取り直したときにはツカサの試合は終わり、対戦相手と礼をしているところだった。
顔を上げたツカサと視線が合ってびっくりする。
大好きだけど、あの目はちょっと心臓に悪い。
何を考えていたのか見透かされてしまう気がして。
咄嗟に視線を逸らしてしまったけれど、はたと気がつく。
目が合った――?
赤組の観覧席からツカサのいる場所までざっと見積もっても三十――いや、四十メートル近くは離れている。なのに、目が合った……? メガネをかけてもいないのに……?
「翠葉、どうかしたの?」
「今、ツカサと目が合った気がして……」
「まさか。ここからあそこまで三十メートルちょっとはあるわよ?」
「……そうだよね。私の勘違いかも……?」
美乃里さんと香月さんにも「勘違い」だと笑われてしまったけれど、でも――と思う自分がいる。
だって、本当に目が合った気がしたのだ。
個人競技が終わると、最終競技であるダンスへ移行する。
一番最初はヒップホップダンス。
うちの組は各学年から男女ひとりずつ。
ほかの組が女子のみ、男子のみと編成する中、赤組は男女混合のメンバーだった。
私たちの学年からは空太くんと美乃里さん。
「がんばれ!」とところどころから声がかかると、ふたりは「がんばってくる!」と笑顔で請合った。
そんなふたりを見送ると、
「そこ邪魔」
「あ、ごめんなさいっ」
振り返ると赤いTシャツを着た飛翔くんが立っていた。
「そのTシャツ……飛翔くんもヒップホップに出るの?」
「見ればわかるだろ」
言うと、スタスタと歩いて階段を下りて行く。
「飛翔の態度は相変わらずだな。御園生さん、大丈夫?」
風間先輩の声に振り返ったそのとき、
「え……?」
風間先輩の十メートルほど向こうに見えるのは――
「ん? なんかあった?」
風間先輩も振り返りる。
そこには黒いTシャツに細身の黒いジーパン、黒いキャップ帽をかぶった一向がいて、その中のひとりがツカサだったのだ。
「げっ……聞いてねーよっ、藤宮がヒップホップっ!? しかも、美都もっ!?」
気づいた人は皆が唖然として動作を止める始末。
結果、ツカサたちが歩く場所は自然と道ができるわけで、余計に視線を集めることとなる。
ツカサは注目されていることなどものともせず階段を下りていくし、朝陽先輩は「応援してね」などと笑顔を振りまいて下りていく。
「あんのふたり、ワルツに出ないかと思ったらこっちかよ……」
「これはやられた感半端ないわね」
静音先輩が会話に加わりワルツメンバーみんなが唸る中、私はひとりツカサの姿を追っていた。
呼吸が止まってしまったことにも気づけなかったし、ツカサたちに気づいた女の子たちが狂喜乱舞しているのも目に入らない。
これからどんなツカサが見られるのか、とドキドキする胸を押さえ、ただひたすらにツカサを目で追っていた。
ヒップホップダンスは決められた曲を一組ずつ順番に踊っていく。
ノリのいい曲に合わせて人が動くわけだけど、ダンスというものがこんなにも見て楽しめるものだとは思わなかった。そして、次か次か、と黒組の出番を待ち望む。すると、
「御園生さん、写真撮らなくていいの?」
真咲くんに言われて座席下にしまっていたカメラを思い出した。けれど、
「残念ながら、応援合戦の写真を撮る許可しかもらっていないの。それに――」
写真を撮るよりも見ていたい。見ること以外に神経を使いたくない。
さらには、静止画よりも動画の記録が欲しいし、素人の自分が録るものではなくプロが録ったものが欲しい。
しかも、それは何をせずとも紫苑祭が終わって編集が済めば全校生徒に配られるのだ。
ダンス競技の順番は、それまでの競技で最下位だった組から行われる。
桃組から順に踊っていき、ラスト二組で赤組の出番。
男子のみで編成されている組はダイナミックな動きやステップが多く、女子のみで編成されている組は女性らしさを前面に出す動きが組み込まれていた。男女混合だった青組は、女子をエスコートするようなプログラム。対して赤組は、男女混合の編成だけれど男女関係なく同じ動きをするプログラム。
ただし、男子と女子の身長は揃えてあって、男子は一八〇センチ以上、女子は一六〇センチ前後。完成度の高いユニゾンを披露し、高得点が狙えそうな気がしていた。しかし、黒組のダンスを見て叩きのめされた気がしたのは私だけではないと思う。
黒組は男子のみの編成だったものの、身長も体型も揃ってるうえ、うちの組を上回るシンクロを見せた。
「揃う」とはこういうことを言うのか。
タイミングが揃っているのは最低限の項目で、手を上げる高さから角度、ステップを踏む歩幅からジャンプする高さ、何から何まで皆が同じ動作をする。「個」をまったく感じさせない動き。
逆に、同じ動きに個性を盛り込んだ組もあったけれど、黒組はなんというか――「格好いい」などという言葉だけでは済まされない。緻密なまでに神経が張り巡らされた演技だった。
応援団の練習もあっただろうし、ほかの競技の練習だってあったはず。黒組のこのメンバーは、ダンスにどれだけの時間を費やしてきたんだろう。
「キャー」とか「ワー」とか女子の黄色い声も凄まじかったけれど、感嘆のため息をついた人も多々いるはず。
この数分間、何度瞬きができたか怪しい限りだ。
目の渇きを感じつつも目を離すことはできなかったし、目深にかぶるキャップ帽を恨めしく思うほど、どんな表情で踊っているのかが知りたかった。
フェンシング、柔道、空手、合気道、剣道――
これらは体育館をふたつのスペースに区切り、ふたつの競技を同時進行で行っていく。
フェンシングの召集がかかると、桜林館の一箇所が急激に沸き立った。
理由はすぐに判明する。朝陽先輩だ。
剣を携えマスクを小脇に抱える様は、さながら中世の騎士のよう。
「いつもに増してすごい声援……」
そんな言葉を漏らすと、桃華さんがクスリと笑った。
「朝陽先輩、インターハイは逃しているけど、県でのランキングは上位なのよ?」
「本当の王子様みたい……」
「確かに。あの格好で微笑まれたらファンの子たちはたまらないわね。しかも、闘う姿も優雅ときてるわよ」
その言葉のとおり、試合は「美しい」の一言に尽きた。
「桃華さん、インターハイは逃してるけど……って、朝陽先輩、フェンシング部なの?」
「そうよ。知らなかった?」
「うん……」
部活が強制参加であることは知っていたけど、まさか運動部に所属しているとは思いもしなかった。
なんというか、部活で汗を流しているところが想像できないし、ESSとか演劇部と言われたほうがしっくりっくる。
そういえば、一年のときにいただいたブロマイドの一枚がフェンシングをしている写真だったっけ……。
あぁ、あれが部活姿なのか……と今さらながらに納得する。
「あ、翠葉ちゃん、右のフロアで藤宮先輩の試合が始まるよ!」
美乃里さんに言われてそちらへ視線を向ける。と、白い胴衣に黒い袴を履いたツカサが立っていた。
またしてもメガネなしの姿。
メガネをかけていないツカサを見たのは何回目だろう。たぶん数え切れる程度だ。
ほかの女の子たちの目にも新鮮に映っているのかもしれない。
近くで騒ぐ女の子たちに視線を向けたけれど、ツカサが競技に出る際静かだったためしなどなく、今もうるさいくらいの歓声が起こっている。
「盛り上がっている」といえば聞こえはいいけれど、甲高い声の集合体に頭がくらくらしてくる。
桜林館左側には朝陽先輩ファンが集い、右側にはツカサファンが群がる。
フロアに下りて観戦している人もいれば、ほかの組の観覧席であるにも関わらず、手すり沿いの通路を埋め尽くす勢いで女の子たちが集まってきていた。
かくいう私たちは、自組に割り当てられた観覧席の手すり沿いに並び階下フロアを見下ろしている。
ツカサの試合が始まるなり、
「憎たらしい……。あの男、合気道を始めたころから身体捌きがきれいだったのよね」
桃華さんはぞんざいな視線を送りつつもそんな言葉を漏らす。
でも、桃華さんがそう言う気持ちもわからなくはない。
技やルールは知らないけれど、ツカサの動きはとてもきれいだと思うから。
流れるような動作は「洗練されている」という言葉が妙にしっくりくる。
弓を持ったツカサを初めて見たときにも美しすぎる所作に釘付けになった。
もっとも、所作の美しさは弓道や合気道に留まらない。
ワルツを躍らせれば優雅だし、食事の際の箸使いもきれいなら、口を開く様まで美しい。
焼き魚を食べているところは見たことがないけれど、ツカサのことだ。魚の骨を芸術品か何かのようにお皿に残すに違いない。
それにしても、メガネをかけていないツカサは新鮮だ。
メガネをかけているからインテリっぽく見えるのかと思っていたけれど、メガネをかけていなくても知的な雰囲気は損なわれない。「端麗」という言葉が恐ろしいほどしっくりくる顔だと思う。
やっぱり、格好いいな……。
サラサラの黒髪ストレートが好きだし、一見して冷ややかに見える切れ長の目も好き。
すっと通った鼻に薄い唇。陶器のような白い肌――
うっかりさっきの半裸姿を思い出して頬が熱を持つ。
思わず視線を逸らしてしまったけれど、めったに見られない合気道姿はじっくりと見ておきたい。
そろそろと視線を戻したけれど、直視することはできず、控えめに窺い見るのがやっと。
まだ触れたことのないあの頬に、いつか触れることができるだろうか。
きっと、すべすべなんだろうな……。
自分の頬はどうだろうか、とふと思い立ち頬に手を添える。と、キスのときに添えられたツカサの手を思い出した。
……私、ツカサの手も好きだ。
考えてみたら、私、ツカサの手しか触ったことないかも……?
あとは腕、くらい……?
いつか、私も頬に手を伸ばせるだろうか。
自分がツカサの頬に手を伸ばす様を想像したら、あまりにも恥ずかしくてハタハタと手で顔を仰ぐ始末。
私、何考えてるんだろう……。ちゃんと応援しなくちゃ。
深く息を吸い気を取り直したときにはツカサの試合は終わり、対戦相手と礼をしているところだった。
顔を上げたツカサと視線が合ってびっくりする。
大好きだけど、あの目はちょっと心臓に悪い。
何を考えていたのか見透かされてしまう気がして。
咄嗟に視線を逸らしてしまったけれど、はたと気がつく。
目が合った――?
赤組の観覧席からツカサのいる場所までざっと見積もっても三十――いや、四十メートル近くは離れている。なのに、目が合った……? メガネをかけてもいないのに……?
「翠葉、どうかしたの?」
「今、ツカサと目が合った気がして……」
「まさか。ここからあそこまで三十メートルちょっとはあるわよ?」
「……そうだよね。私の勘違いかも……?」
美乃里さんと香月さんにも「勘違い」だと笑われてしまったけれど、でも――と思う自分がいる。
だって、本当に目が合った気がしたのだ。
個人競技が終わると、最終競技であるダンスへ移行する。
一番最初はヒップホップダンス。
うちの組は各学年から男女ひとりずつ。
ほかの組が女子のみ、男子のみと編成する中、赤組は男女混合のメンバーだった。
私たちの学年からは空太くんと美乃里さん。
「がんばれ!」とところどころから声がかかると、ふたりは「がんばってくる!」と笑顔で請合った。
そんなふたりを見送ると、
「そこ邪魔」
「あ、ごめんなさいっ」
振り返ると赤いTシャツを着た飛翔くんが立っていた。
「そのTシャツ……飛翔くんもヒップホップに出るの?」
「見ればわかるだろ」
言うと、スタスタと歩いて階段を下りて行く。
「飛翔の態度は相変わらずだな。御園生さん、大丈夫?」
風間先輩の声に振り返ったそのとき、
「え……?」
風間先輩の十メートルほど向こうに見えるのは――
「ん? なんかあった?」
風間先輩も振り返りる。
そこには黒いTシャツに細身の黒いジーパン、黒いキャップ帽をかぶった一向がいて、その中のひとりがツカサだったのだ。
「げっ……聞いてねーよっ、藤宮がヒップホップっ!? しかも、美都もっ!?」
気づいた人は皆が唖然として動作を止める始末。
結果、ツカサたちが歩く場所は自然と道ができるわけで、余計に視線を集めることとなる。
ツカサは注目されていることなどものともせず階段を下りていくし、朝陽先輩は「応援してね」などと笑顔を振りまいて下りていく。
「あんのふたり、ワルツに出ないかと思ったらこっちかよ……」
「これはやられた感半端ないわね」
静音先輩が会話に加わりワルツメンバーみんなが唸る中、私はひとりツカサの姿を追っていた。
呼吸が止まってしまったことにも気づけなかったし、ツカサたちに気づいた女の子たちが狂喜乱舞しているのも目に入らない。
これからどんなツカサが見られるのか、とドキドキする胸を押さえ、ただひたすらにツカサを目で追っていた。
ヒップホップダンスは決められた曲を一組ずつ順番に踊っていく。
ノリのいい曲に合わせて人が動くわけだけど、ダンスというものがこんなにも見て楽しめるものだとは思わなかった。そして、次か次か、と黒組の出番を待ち望む。すると、
「御園生さん、写真撮らなくていいの?」
真咲くんに言われて座席下にしまっていたカメラを思い出した。けれど、
「残念ながら、応援合戦の写真を撮る許可しかもらっていないの。それに――」
写真を撮るよりも見ていたい。見ること以外に神経を使いたくない。
さらには、静止画よりも動画の記録が欲しいし、素人の自分が録るものではなくプロが録ったものが欲しい。
しかも、それは何をせずとも紫苑祭が終わって編集が済めば全校生徒に配られるのだ。
ダンス競技の順番は、それまでの競技で最下位だった組から行われる。
桃組から順に踊っていき、ラスト二組で赤組の出番。
男子のみで編成されている組はダイナミックな動きやステップが多く、女子のみで編成されている組は女性らしさを前面に出す動きが組み込まれていた。男女混合だった青組は、女子をエスコートするようなプログラム。対して赤組は、男女混合の編成だけれど男女関係なく同じ動きをするプログラム。
ただし、男子と女子の身長は揃えてあって、男子は一八〇センチ以上、女子は一六〇センチ前後。完成度の高いユニゾンを披露し、高得点が狙えそうな気がしていた。しかし、黒組のダンスを見て叩きのめされた気がしたのは私だけではないと思う。
黒組は男子のみの編成だったものの、身長も体型も揃ってるうえ、うちの組を上回るシンクロを見せた。
「揃う」とはこういうことを言うのか。
タイミングが揃っているのは最低限の項目で、手を上げる高さから角度、ステップを踏む歩幅からジャンプする高さ、何から何まで皆が同じ動作をする。「個」をまったく感じさせない動き。
逆に、同じ動きに個性を盛り込んだ組もあったけれど、黒組はなんというか――「格好いい」などという言葉だけでは済まされない。緻密なまでに神経が張り巡らされた演技だった。
応援団の練習もあっただろうし、ほかの競技の練習だってあったはず。黒組のこのメンバーは、ダンスにどれだけの時間を費やしてきたんだろう。
「キャー」とか「ワー」とか女子の黄色い声も凄まじかったけれど、感嘆のため息をついた人も多々いるはず。
この数分間、何度瞬きができたか怪しい限りだ。
目の渇きを感じつつも目を離すことはできなかったし、目深にかぶるキャップ帽を恨めしく思うほど、どんな表情で踊っているのかが知りたかった。
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