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November
初めてのライブハウス Side 秋斗 01話
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ピンポーン――
場にそぐわない暢気な呼び鈴に、俺と唯が顔を上げる。と、
「あぁ、いいです。私が出ます」
席を立った蔵元は、モニターを前に首を傾げていた。
「秋斗様、司様に何かご依頼するものがあおりですか?」
「いや、今のところ何もないけど……」
「ですよね……」
「何、司なの?」
「えぇ……」
そんな会話をしていると、急かすように二度目の呼び鈴が鳴らされた。
「蔵元、俺が出る」
インターホンには応じず直接玄関へ向かうと、ドアを開けた途端に突飛な質問が投げられた。
「秋兄、人の指見て指輪のサイズわかる?」
勢いに任せて――そんな訊き方。
でも、藪から棒過ぎるだろ?
思わず「は?」とか言っちゃうくらいには唐突。
司は苛立たしげに、
「だからっ、人の指を見て指輪のサイズがわかるか知りたいんだけど」
くっ……やば、かわいい……。
「……まぁ、女の子のサイズならだいたい当てられるかな。それが何?」
誰の指のサイズを知りたいのか――そんなことは訊かなくてもわかっているわけだけど、これはあえて言わせることに意味がある。
「翠の指のサイズ、知りたいんだけど……」
「ふ~ん……司、人にお願いするときにはどんな言葉を添えなくちゃいけないか知ってる?」
司は俺を睨みつけ、「お願いします」と渋々口にした。
お願いされているはずなのに、まるでそんな気分にならない何か。
この場に唯が居たら、面白おかしく司をいじるんだろうなぁ……。
そんなことを考えながら、
「頼まれてやるよ。ちなみに、右手? 左手? 何指?」
「……左手の薬指」
「右手じゃなくて?」
「左手でお願い。婚約前のプレリングとして渡すつもり」
「でも、なんで急に指輪? 俺、司は婚約するときまで指輪は贈らないと思ってた」
「そのつもりだったんだけど……」
司は言いづらそうに言葉を濁す。
「どうせだから全部話しちゃえよ」
「……なんかいやな予感がするから」
「いやな予感?」
「今日、翠がどこへ行っているか聞いてる?」
「え? あぁ、レッスンのあと、ライブハウスに行くって聞いてるけど、それがどうかした?」
「それ、芸大祭で知り合った男たちに渡されたチケットだから」
あぁ、なるほど……。虫除け代わりに指輪を持たせたいのね。
「理解した」
「それと車……」
「車?」
「翠を迎えに行くのに貸して欲しい……」
「くっ、何? 涼さんに断わられたか何か?」
「断わられるのをわかっていて訊いたりしない」
むすっとした司がかわいすぎた。
「司なら、次は楓を頼りそうなものだけど?」
笑いをこらえながら尋ねると、
「夜勤でいなかった……」
小さな声で悔しそうに零す。
そんな従弟をかわいく思いながら、
「わかったわかった。車は貸してやるし、翠葉ちゃんの指のサイズも見てやる。その代わり、翠葉ちゃんのお迎えには同乗させてもらう」
「はっ!?」
「だって俺、司の運転する車に乗ったことないし。どんな運転するのかもわからない人間に翠葉ちゃんを任せられるわけないだろ? それから、ライブハウスまでは俺ひとりで翠葉ちゃんを迎えに行かせろよ。このくらいの報酬はあってしかるべき。だろ?」
「……わかった」
「でも、さすがにちょっと見たくらいじゃわからないからね。彼女の手をとるくらいの許可は欲しいところ」
「……それ以上は許さない」
「わかってる。何時に出る?」
「八時には支倉駅に着いていたいから、七時過ぎには出たい」
「了解。そのくらいにロータリーで落ち合おう」
「わかった」
「このあと御園生家に行くから、迎えに行く件は俺から話しておくよ。翠葉ちゃんにもこっちから連絡入れておくから、おまえが行くのはサプライズにしておけば?」
「……ありがと」
場にそぐわない暢気な呼び鈴に、俺と唯が顔を上げる。と、
「あぁ、いいです。私が出ます」
席を立った蔵元は、モニターを前に首を傾げていた。
「秋斗様、司様に何かご依頼するものがあおりですか?」
「いや、今のところ何もないけど……」
「ですよね……」
「何、司なの?」
「えぇ……」
そんな会話をしていると、急かすように二度目の呼び鈴が鳴らされた。
「蔵元、俺が出る」
インターホンには応じず直接玄関へ向かうと、ドアを開けた途端に突飛な質問が投げられた。
「秋兄、人の指見て指輪のサイズわかる?」
勢いに任せて――そんな訊き方。
でも、藪から棒過ぎるだろ?
思わず「は?」とか言っちゃうくらいには唐突。
司は苛立たしげに、
「だからっ、人の指を見て指輪のサイズがわかるか知りたいんだけど」
くっ……やば、かわいい……。
「……まぁ、女の子のサイズならだいたい当てられるかな。それが何?」
誰の指のサイズを知りたいのか――そんなことは訊かなくてもわかっているわけだけど、これはあえて言わせることに意味がある。
「翠の指のサイズ、知りたいんだけど……」
「ふ~ん……司、人にお願いするときにはどんな言葉を添えなくちゃいけないか知ってる?」
司は俺を睨みつけ、「お願いします」と渋々口にした。
お願いされているはずなのに、まるでそんな気分にならない何か。
この場に唯が居たら、面白おかしく司をいじるんだろうなぁ……。
そんなことを考えながら、
「頼まれてやるよ。ちなみに、右手? 左手? 何指?」
「……左手の薬指」
「右手じゃなくて?」
「左手でお願い。婚約前のプレリングとして渡すつもり」
「でも、なんで急に指輪? 俺、司は婚約するときまで指輪は贈らないと思ってた」
「そのつもりだったんだけど……」
司は言いづらそうに言葉を濁す。
「どうせだから全部話しちゃえよ」
「……なんかいやな予感がするから」
「いやな予感?」
「今日、翠がどこへ行っているか聞いてる?」
「え? あぁ、レッスンのあと、ライブハウスに行くって聞いてるけど、それがどうかした?」
「それ、芸大祭で知り合った男たちに渡されたチケットだから」
あぁ、なるほど……。虫除け代わりに指輪を持たせたいのね。
「理解した」
「それと車……」
「車?」
「翠を迎えに行くのに貸して欲しい……」
「くっ、何? 涼さんに断わられたか何か?」
「断わられるのをわかっていて訊いたりしない」
むすっとした司がかわいすぎた。
「司なら、次は楓を頼りそうなものだけど?」
笑いをこらえながら尋ねると、
「夜勤でいなかった……」
小さな声で悔しそうに零す。
そんな従弟をかわいく思いながら、
「わかったわかった。車は貸してやるし、翠葉ちゃんの指のサイズも見てやる。その代わり、翠葉ちゃんのお迎えには同乗させてもらう」
「はっ!?」
「だって俺、司の運転する車に乗ったことないし。どんな運転するのかもわからない人間に翠葉ちゃんを任せられるわけないだろ? それから、ライブハウスまでは俺ひとりで翠葉ちゃんを迎えに行かせろよ。このくらいの報酬はあってしかるべき。だろ?」
「……わかった」
「でも、さすがにちょっと見たくらいじゃわからないからね。彼女の手をとるくらいの許可は欲しいところ」
「……それ以上は許さない」
「わかってる。何時に出る?」
「八時には支倉駅に着いていたいから、七時過ぎには出たい」
「了解。そのくらいにロータリーで落ち合おう」
「わかった」
「このあと御園生家に行くから、迎えに行く件は俺から話しておくよ。翠葉ちゃんにもこっちから連絡入れておくから、おまえが行くのはサプライズにしておけば?」
「……ありがと」
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