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葉野りるは

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April

キスのその先 Side 翠葉 07話

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 この短時間で、ツカサはどこに触れると私が声をあげるのかを把握してしまったらしい。さっきから、私の脇腹や背中ばかりにキスをしてくる。
「ぁんっ……」
 恥ずかしく思いながらも身体を捩ったり反らしたりしていると、体勢を仰向けに直された。
 今度は何をされるのか――
 キスだったらいいな、と思いながら少し身構える。と、ツカサは両膝に手を置き、ゆっくりと力を加えて広げていく。
「やっ、ツカサ――恥ずかしいっ」
 今までだって散々恥ずかしいことをされてきたけれど、これだけは無理っ――
 そんな思いで抵抗をしてみせると、
「恥ずかしいだけなら我慢して」
 今日二度目の言葉に一刀両断にされる。けれど、私だってそう簡単には引き下がれない。
「でもっ――」
 反論途中で言葉に詰まってしまったのは、自分の脚の間にツカサの頭があったから。
 脚を広げた恥ずかしさを凌ぐ羞恥が襲ってくる。
 いったい何をするつもりなのか――
 はっとしたときには遅かった。ツカサの厚ぼったい舌が秘部を舐めあげる。
「きゃっ――」
 一瞬にして頭が真っ白になった。何も考えられないし、どんな反応をしたらいいのかすらわからない。それは放心に近い状態だったと思う。
 刺激に一番弱い部分を舌先でつつかれると、私の身体は意思と無関係に飛び跳ねる。するとツカサは、私の身体が逃げないよう腰を押さえ、音を立てて膣口を啜り始めた。その音に我に返った私は、
「ツカサっ、やだっ――本当に、やだっ……シャワーも浴びてないのに……」
 必死に懇願する。
 人間、恥ずかしすぎると涙しか出てこないのだと知る。手で防御するとかそういうの、一切思いつかなかった。
 顔を上げたツカサは、涙を吸い取るようにキスをしてくれる。
 それでも涙は止まらなかった。
「えっちって、こんなことまでするの……?」
 学校で性教育は受けた。でも、愛撫の仕方や愛撫の種類、そんな授業はなくて、どんなことをするのか、またどんなことをされるのかまでは知らなかった。
 そんな自分にとってはものすごく衝撃的な行為だったのだ。
「する……。言っただろ? 翠のすべてに触れたいって」
「でも――」
「……じゃ、慣れるまでは口でしない。それでいい?」
「……慣れたら、するの……?」
 そういう問題なの……? っていうか、みんなこんなことしているの?
 戸惑う私をよそに、
「したい」
 ツカサはきっぱりと口にした。
「……でも、全然慣れる気はしないよ?」
「それ、させないって言ってるの?」
「そういうわけじゃないのだけど……」
 あまりにも自信がなくてつい言葉尻を濁してしまう。
 すると、ツカサはいいように解釈したのか、
「ならよかった。慣れるまでは我慢する」
「我慢」という言葉を使われてしまうと、ついつい謝罪の言葉が口をつく。
 今までだって散々待ってもらって「我慢」させてきたから余計に。
 ツカサは「謝らなくていい」と言ったけれど、すぐに何か思い立ったように口を開いた。
「シャワーを先に浴びてれば問題ないの?」
「っ……シャワーは必要最低限の条件っ! これは別っ」
 ツカサは渋々「わかった」と了承してくれた。
 ツカサが目を見て話してくれるのはいつものこと。でも、裸な今はじっと見られるのが恥ずかしい。恥ずかしすぎてどうにかなってしまいそうで、私はツカサのメガネに手を伸ばした。
「何?」
「メガネ……。メガネ、外して?」
 懇願しつつ、私はすでにメガネのテンプルを持って外しにかかっていた。
 素顔のツカサを見るのはひどく久しぶりだった。たぶん、紫苑祭の合気道のとき以来。
「別にいいけど……なんで?」
「だって、じっと見られてるのは恥ずかしいんだもの……」
 メガネを外して幾分かほっとしたのも束の間。この数秒後に爆弾が投下されるとは予想だにしていなかった。
「俺、言ってなかったっけ?」
「何を……?」
「それ、伊達だけど?」
「えっ……?」
 だて、ダテ、伊達……――伊達っ!?
「かけてみればいい。度が入ってるわけじゃないから」
 ツカサは口端を上げて、
「両目とも二・〇。メガネがなくてもまったく生活に支障はない」
 そんなっ――
 やっと落ち着き始めた心臓が再度フル稼働。
 私は咄嗟に腕で胸元を隠したけれど、至近距離――しかも視力二・〇の人の前でいったい何をしているのか……。
 顔がひどく熱を持ったのを感じていると、
「翠……今さらだから。本当、もう諦めて」
 悔しく思いながら顔を上げると、戦慄く唇にちゅ、と挨拶みたいな――「視力二・〇の俺もよろしくね」みたいなキスをされた。そして、
「また指入れるけど、痛かったらすぐに言って」
 ツカサはそそくさと秘部に手を伸ばした。
 ツカサの話だと、どうやら膣の中をほぐす必要があるのだとか。
 海斗くんはその工程を踏まなかったから、飛鳥ちゃんが痛がったんじゃないか、という話だった。
 でも、膣の中とはそんなに簡単にほぐれてくれるものなのだろうか。不安に思っていると、
「ストレッチだと思えばいい」
「ストレッチ……?」
「ある程度身体が硬くても、二、三十分ストレッチするだけでだいぶ変わるだろ? それと同じ」
 そのたとえはとてもわかりやすかった。わかりやすかったけど、婦人科の先生にしか触れられたことのない場所をツカサにずっと触られているのは全然慣れないし、ものすごく恥ずかしくて死んでしまいそうな心境だ。
 ツカサを辱めるにはどんな方法があるだろうか、なんて方向へ考えをシフトしようと思ったけれど、考えようとすると私が一番感じるところをピンポイントで弄られて思考が中断させられる。
 それに、指一本はそこまでつらくなかったけれど、二本目三本目は相応に質量があって、恥ずかしさに加えて初めて感じる圧迫感や違和感に気がおかしくなりそうだった。
「少し休む?」
 本当は、少し休憩したかった。でも、時間をおいてせっかくほぐれたものがもとに戻ってしまったら、と思うと中断することはできなくて……。
「痛かったら我慢しなくていいんだけど……」
 ツカサは心配そうに私の顔を覗き込む。
 抗議しても、容赦なく却下されてしまうこともある。けれどツカサは、私の気持ちや身体を気遣って、順序を踏んで進んでくれている。
 もし相手がツカサじゃなかったら、もっと男性本位な行為になって、つらい思いをしたのかもしれない。たとえば飛鳥ちゃんがそうだったみたいに……。
 そう思うと、感謝せざるを得ないし、相手がツカサでよかったと心から思う。
「ゆっくり、してくれてるから、かな……? 痛くは、ないの……。ただ、何かが入ってる感じが慣れなくて……」
 ツカサは少し黙ってから、
「翠」
「ん……?」
「翠の中に入りたい……」
 直接的すぎる表現にゴクリと唾を飲み込む。その数秒後、私は覚悟を決めてコクリと頷いた。
「でも、その前に――」
 重だるい身体を起こし、ツカサへ近づく。
「キス、して……?」
 気持ちのこもったキスをされたら、これからする行為もがんばれる気がするから。
 ツカサの目を見ていると、覆いかぶさるようにツカサが迫ってきて、まるで大切なものに触れるようなキスをしてくれた。そのあと、深く口付けられ口蓋を舌先でなぞられる。
 キスの気持ちよさには馴染みがあって、安心して身を任せていたら、脚を押し広げられた。
 咄嗟に閉じると、
「閉じたら入れないだろ」
 容赦なく却下される。
 恥ずかしさを伴いながら脚を開く。と、ツカサは身体のあちこちにキスを施し、十分に潤っている秘部を愛撫し始めた。
 恥ずかしい……でも、それだけではないことには気づき始めていた。
 恥ずかしいし何をされるのかわからない怖さもある。でも、ツカサに触れられて気持ちがいいと思う瞬間が確かにあって……。
 怖いだけじゃない。痛いだけの行為じゃない――
 そう何度も心の中で唱える。
 ツカサが膝立ちになった次の瞬間、感じたことのない痛みが自分を襲った。
 ツカサが中へ入ろうとしているのはわかる。でも、少し入れられただけで膣口が裂けてしまうように痛む。
 裂けて出血したらどうしよう――
 そんなことになったら婦人科へ行かなくてはいけないのだろうか。そこで、裂けてしまった理由も話さなくちゃいけないの?
 色んなことが頭をめぐり、痛みと不安で身体が硬直しては涙が止まらなくなる。
 ツカサとつないだ手を力いっぱい握り締めることで痛みに耐えていると、
「翠、平気……?」
「んっ……」
「つらい?」
 正直、返答する余裕もないくらいにはつらかった。でも、去年の八月だ。去年の八月からずっと待ち続けてくれたツカサに、ここまできて「つらいからやめて」とはどうしても言えない。
 これ以上入れられたらどうなるのか――
 飛鳥ちゃんや果歩さんから初めてのときは痛いと聞いていたけれど、これほどまでに痛いとは思いもしなかった。
「痛み」には免疫があるほうだと思っていたけれど、この痛みは今までに感じた痛みとは種類が違いすぎる。
 考えてみたら、切り傷というものには小さいころからあまり縁がなかった。
 もうやめてしまいたい。やめてほしい。でも、ここでやめるのはツカサにとっては苦しいことではないのか。
 そう思うと、やっぱり何も言えなかった。
「翠、呼吸……。呼吸が止まると身体も硬くなる。ほら、吸って……」
 呼吸するのも一苦労。なんか、どこかに力を入れてないと張り詰めたものが途切れてしまいそうで……。
「あと、どのくらい……?」
 やっとの思いで声を発す。と、
「あと半分くらい」
「……あの、ね」
「うん」
「切れたり、しない……?」
 耐えるとか我慢云々より、そのことばかりが気になる。
 不安で涙が零れる程度にはそのことが頭を占めていた。
 ツカサは何を言われているのかわからないような顔で、
「切れる……?」
 話すのも恥ずかしい。でも、今訊ける相手はツカサしかいないのだ。
 私は思い切って口を開いた。
「ツカサが入ってるところ、切れる、というか、裂ける、みたいに痛くて……切れちゃったら、病院、行かなくちゃ、だめ?」
 ツカサはすぐに安心できる答えをくれた。
「粘膜は意外と柔軟性があるものだけど、もし切れたとしても、俺が薬を塗るから問題ない。病院へ行く必要はない。安心していい」
 病院へ行かなくても大丈夫という言葉にはほっとした。でも、ツカサに薬を塗られるという下りは恥ずかしさを伴う。
「翠、身体から力抜ける?」
 力を抜けと言われても、
「ど、したら、力、抜けるのか、わかんない……」
 むしろ、力が抜けたらどうなってしまうのか恐怖でしかない。
 不意につないでいた手を離されびっくりする。
 やめるの……? やめちゃう、の……?
 そんな視線をツカサへ向けると、
「心配しなくていい。まだ動いたりしないから」
 その言葉に、次なる行為を察する。
 そうだった……。ツカサのを手でしたとき、律動運動で達すると言っていた。そこからすると、この中で動く、というのが最終的な行為になるのだろう。
 私、大丈夫かな……。身体、壊れちゃったりしないかな……。
 不安に思っていると、ツカサの手が額の生え際の髪を優しく梳いてくれた。
 何度も何度も繰り返し梳いてくれる手がとても優しい。その優しさに縋りたくて、私は自分の手をツカサの手に添えた。
 つながっている部分は未だひりひりしていて気が気ではない。けれど、ツカサがしてくれる優しい雨のようなキスに、不安や痛みは少しずつ少しずつ和らいでいくように思えた。
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