光のもとで2+

葉野りるは

文字の大きさ
94 / 123
August

夏の思い出 Side 翠葉 21話

しおりを挟む
 話が一段落すると、桃華さんの矛先は雅さんへ向いた。
「雅さんは? 人の色恋沙汰聞いてばかりなんてずるいですよっ!」
「えっ? ずるいと言われても、私、お付き合いしている方なんていないし……」
「片思い上等、お付き合い未満上等ですっ。こうなったらとことん恋バナしましょうっ! 雅さん、蔵元さんのこと気になっていらっしゃいますよねっ?」
「「えっっっ!?」」
「……ちょっと待って、どうして雅さんも翠葉も同じ反応をするの……?」
「だって……雅さん、蔵元さんのこと、お好きなんですか?」
 思わず左隣に座る雅さんに詰め寄ってしまう。
 雅さんが蔵元さんとお話しするとき、顔を赤らめることが多いのには気づいていた。でも、きちんとした人付き合いが初めてのことで、同僚や部下との距離のとり方がまだわからないとメールで話していたから、赤面するのもその延長線なのかと思っていたのだ。
 雅さんは私と同じくらい動揺していて、
「あのっ、桃華さんはどうしてそう思われたのかしらっ?」
「どうしてって……。蔵元さんとお話しされてるときはいつも嬉しそうですし、頬を染めてますし、頻繁に目で追いかけてますし……むしろ、それでどうしてばれてないと思えるのかが謎でしかないというか……」
「っ――私、そんなでしたかっ!?」
「そんなでしたね……」
「やだ、恥ずかしい……」
 雅さんが両手で顔を隠す様子を見ながら考える。
 私も雅さんたちと共に行動していたら、雅さんの恋心に気づけたのだろうか、と。
 緑山に来てからというもの、私とツカサはみんなと別行動をとってばかりで、ほかの人たちが何をして過ごしているのかという情報が耳に入っても、個人がどんな動きをしているのか、そこまでは及ばず……。
 そう思うと少し残念な気持ちが芽生えはするけれど、こんなにすてきな場所でツカサとふたりきりで過ごせたことはとても幸せなことで……。
 私、どれだけ貪欲になれば気が済むのかな……。
 自分の貪欲さに呆れ、または貪欲さに恐れを感じていると、それを遮るように、 
「確かに、蔵元さんのことは尊敬してますし、今までお会いしてきた男性の中でも好感の持てる方ですけれども――」
「それ、もう恋の始まりだと思うんですけど、違うんですか?」
「「っ!?」」
「そこで翠葉まで驚かない! もう……ド天然がふたりとか、私ひとりで捌けるかしら……」
 そんな会話をしていると、キッチンの窓から蒼兄の声が割り込んだ。
「ヒートアップしてるところアレなんだけど……。ここ、窓開いてるんだよね」
「蒼兄っっっ、そういうことは早く教えてっっっ」
「蒼樹さんっっっ、そういうことは早く教えてくださいっっっ」
 私と桃華さんは窓際に詰め寄り、雅さんはテーブルに突っ伏して死亡確定。
 すると、蒼兄がキッチンの網戸を開けてトレイをこちらへ差し出した。
「ごめん……。盗み聞きするつもりはこれっぽっちもなかったんだけど……。あまりにも話し込んでるから、なかなか声かけられなくて……。これ、淹れたてはとても熱かったハーブティー。今はそれなりに飲みやすい温度になってると思う。それと、俺以外はみんなリビングで話し込んでるから、話を聞いちゃったのは俺だけ。雅さん、安心してください」
 そう言うと、蒼兄は窓を閉めて部屋の奥へと見えなくなった。
「そ、蒼樹さん……できた殿方だと思ってましたのに……」
「雅さん、大丈夫ですっ! 蒼兄、絶対口外したりしないのでっ」
「そうですよ! 蒼樹さんに限ってそんなことあり得ないのでっ」
 雅さんを慰めていると、カラカラとリビングの窓が開く音がして、
「そろそろ九時半回るんだけど、簾条たちいい加減帰れば?」
「うるっさいわねっ! 今帰るわよっ」
 あああ……ツカサと桃華さんが揃うとどうしてこうなるんだろう……。
 性質的にはとても似ていると思うのだけど……。
 そういえば以前秋斗さんが、「同属嫌悪」って言ってたっけ……。
 それが今ならよくわかる気がした。
 でも、今は今でタイミング的にはちょうどよかったのかも……?
 私たちは飲みやすい温度になったハーブティーを一気に飲み干し、屋内へ戻った。
 雅さんが部屋へ足を踏み入れたとき、
「雅さん、顔が真っ赤ですが……泣きました? それとも発熱なさってる、とか……?」
 今にも雅さんの額へ手を伸ばしそうな蔵元さんの手を、うっかり掴んでしまって呆然とする。
「翠葉お嬢様? どうかなさいましたか?」
「いえ、あの――……あの、具合が悪いとかそういうことではないので……その――」
 どうか今は何も訊かず、それ以上近づかないであげてください、とまではどうしたって言えそうにない。
 そんな空気を悟るのはいつだって唯兄なのだ。
 唯兄はセンサーが反応したかのごとくぴょこんと立ち上がり、
「さ、司っちに追い出される前に帰ろ帰ろっ!」
 そう言って座ってる秋斗さんを立たせ、みんなを急かして星見荘を出て行った。

「まるで台風が去った感じ」
 そう言うツカサの気持ちはわからなくもない。
 八人いたのが急にふたりになって少し寂しい気もするけれど、雅さんに声をかける蔵元さん、という心臓に悪い図を見ずに済んで少し胸を撫で下ろしたい気持ちでもある。
 でも……桃華さんが気づいていたということは、きっと唯兄も秋斗さんも気づいているのだろうし――
 そこまで考えて、空港まで雅さんを迎えに行くようにと蔵元さんに指示を出したのが秋斗さんだったことを思い出す。
 相変わらず気が回る人というか、策士だなぁ……。
「翠、ボート出す?」
「っ……カメラ持っていってもいい?」
「そのつもりで誘った。ただ、もう少しあったかい格好してくれないと無理」
「えぇと、長袖Tシャツの上にパーカ着て、その上にウィンドブレーカー着たらいいっ!?」
「ひざ掛けもプラスして」
「わかったっ! 準備してくるっ」
 夜気に備えた格好で外に出てふと思う。
「ボートって揺れるよね……?」
「そりゃ揺れるだろ?」
「……揺れたら写真撮れないかも?」
「どういうこと?」
「夜はただでさえ光が少ないから、シャッタースピードが落ちるの」
「シャッタースピードが落ちると何が不都合なの?」
「つまり、シャッターが落ちる間ずっと同じ場所で固定できていないと、手振れ写真になる」
「なら、ボートから写真撮るのは無理じゃない?」
「うん、そうっぽい……。ひとまず、ウッドデッキからこの光景を撮れないかチャレンジしてみる」
 夜の撮影は初めてで、設定ひとつとっても手こずってしまう。
 三脚を使って夜景モードにしたらそれなりの写真は撮れたけれど、もっとこう、星空と星鏡の泉がうわーーーって感じの写真にしたいのに、どれをとってもいまいちな仕上がりだ。
 途中で久先輩にアドバイスを求めたけれど、私がイメージしている写真は今のレンズでは難しいとのこと。
「そっか、こういうときに広角レンズを使うといいんですね? あと魚眼でも面白い絵が撮れそう」
『そうそう。今度そういうところに行くときはシゲさんに連絡入れて、レンズを貸し出してもらうといいよ』
 そのあと、久先輩に言われて少しツカサと代わり、ふたりは二、三言葉を交わして通話を切った。
「ボートはどうする?」
「写真は諦めて、カメラ置いて行くっ!」
「了解」
 私たちは昨日と同じ様に真っ暗な泉に漕ぎ出した。
 ボートの中にはLEDランタンがひとつ。
 泉の中央まで来ると、ランタンの光も消す。
 月明かりでツカサの姿は見えるけれど、あまりの暗さに少し不安になり、ボートを這って移動し、ツカサの足元にたどり着いた。
「どうかした?」
「月明かりでツカサの姿は見えるのだけど、少し不安になる暗さで……」
 そう言うと、ツカサはオールを漕ぐ台から下り、私の隣に腰を下ろして手を握ってくれた。
 ツカサの手のあたたかさにほっとして、
「何度見てもすごい光景ね?」
「あぁ……」
 ステラハウスで見たのとは比べ物にならない光景に言葉を失っていた。
 圧倒的で神秘的な光景を目にすると、人は何も言えなくなるのかもしれない。
 ふたり無言で空や泉に映る星を見ていると、
「何かインストないの?」
「え? あ、スマホの中にオルゴールの曲ならいくつか入ってるけど……」
「それ、かければ?」
「っ……! 珍しい、ツカサから曲かけようなんて」
「星とオルゴールって相性良さそうだから」
 少し照れくさそうに話すツカサがかわいく思えた。
「ツカサ、とてもロマンチストな一面があるよね?」
「ロマンチストって……俺からはかけ離れた言葉に思えるけど?」
「そんなことないよっ!? 去年のクリスマス、屋上の演出を見たときに絶対ロマンチストだと思った」
「あれは翠が喜びそうだと思ったからやっただけで……」
 私はクスリと笑みを零し、
「そういうことにしておいてあげる。でも、すっごく嬉しかった」
 そんな会話をしながらスマホをいじり、オルゴール曲をランダムに流す。
「オルゴールも星空も、空気も何もかもがきれいだね」
「あぁ」
「あ……あれ、天の川?」
「そう。ここへ来れば、天候にさえ恵まれればいつでも見られる」
 私たちは言葉少なに三十分ほどボートで過ごし、星見荘へ戻ることにした。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

『続・聖パラダイス病院』

菊池昭仁
現代文学
『聖パラダイス病院』の続編です。こんな病院なら入院生活も悪くはありません。

百合短編集

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される

けるたん
青春
「ほんと胸がニセモノで良かったな。貧乳バンザイ!」 「離して洋子! じゃなきゃあのバカの頭をかち割れないっ!」 「お、落ちついてメイちゃんっ!? そんなバットで殴ったら死んじゃう!? オオカミくんが死んじゃうよ!?」 県立森実高校には2人の美の「女神」がいる。 頭脳明晰、容姿端麗、誰に対しても優しい聖女のような性格に、誰もが憧れる生徒会長と、天は二物を与えずという言葉に真正面から喧嘩を売って完膚なきまでに完勝している完全無敵の双子姉妹。 その名も『古羊姉妹』 本来であれば彼女の視界にすら入らないはずの少年Bである大神士狼のようなロマンティックゲス野郎とは、縁もゆかりもない女の子のはずだった。 ――士狼が彼女たちを不審者から助ける、その日までは。 そして『その日』は突然やってきた。 ある日、夜遊びで帰りが遅くなった士狼が急いで家へ帰ろうとすると、古羊姉妹がナイフを持った不審者に襲われている場面に遭遇したのだ。 助け出そうと駆け出すも、古羊姉妹の妹君である『古羊洋子』は助けることに成功したが、姉君であり『古羊芽衣』は不審者に胸元をザックリ斬りつけられてしまう。 何とか不審者を撃退し、急いで応急処置をしようと士狼は芽衣の身体を抱き上げた……その時だった! ――彼女の胸元から冗談みたいにバカデカい胸パッドが転げ落ちたのは。 そう、彼女は嘘で塗り固められた虚乳(きょにゅう)の持ち主だったのだ! 意識を取り戻した芽衣(Aカップ)は【乙女の秘密】を知られたことに発狂し、士狼を亡き者にするべく、その場で士狼に襲い掛かる。 士狼は洋子の協力もあり、何とか逃げることには成功するが翌日、芽衣の策略にハマり生徒会に強制入部させられる事に。 こうして古羊芽衣の無理難題を解決する大神士狼の受難の日々が始まった。 が、この時の古羊姉妹はまだ知らなかったのだ。 彼の蜂蜜のように甘い優しさが自分たち姉妹をどんどん狂わせていくことに。 ※【カクヨム】にて編掲載中。【ネオページ】にて序盤のみお試し掲載中。【Nolaノベル】【Tales】にて完全版を公開中。 イラスト担当:さんさん

光のもとで2

葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、 新たな気持ちで新学期を迎える。 好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。 少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。 それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。 この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。 何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい―― (10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)

彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。

遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。 彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。 ……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。 でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!? もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー! ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。) 略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)

処理中です...