天使と悪魔~私は世界を終わらせはしない~

深谷芙美 sintani_fumi

文字の大きさ
2 / 2
世界の終焉~序曲~

魔女狩り

しおりを挟む
 目が覚めたら、私はこの格好で埃だらけの部屋に横になっていた。それ以前の記憶はない。

 カインが壁に掛けてあったタペストリーを持ってきて、私に歌の詩を教えた。全部知っていた。でも、欠けた歌詞があることに気が付いた。

 私は歌って見た。辺り一面は静かになり、懐かしくも悲しい光景が瞼の裏に広がった。それはカインの声にかき消された。

 カインは変な歌と言っていたけれど嫌な気はしなかった。だってこの詩をカインは歌にして歌っていたのだもの。


///////


 審問官という人がドアを物々しく叩いて訪ねてきたのは、カインと私がくだらない話をしていた時だった。

「やば、まずいな。審問官だ、姿を見なくてもわかるぞ」
「審問官? 何それ」
「魔法使いを見つけては、片隅から捕まえて火あぶりにするやつらだよ」
「魔法使い? 何それ」

 記憶の破片がまた一つの絵のように合わさった。私は思い出した。”聖書”というものを。そして散らばった記憶の欠片が一つのタペストリーとなって私の脳裏に歌となって流れた。

「魔法使いは悪い人なの? 」
「そんなことないさ、ただ悪魔様を信仰しているってだけさ」
「”聖書”では悪魔は悪い存在なんじゃないの? 」

 そんなこと聞かないでもわかっていたけれど、聞かなくては私の居場所はあやふやなままだ。

「ああ、俺は”聖書”というものを読んだことはないが確かにサタン様とかは蛇に化けて人間を騙したと聞いたことがあるな。だが俺たちの先祖はサタン様は人間に自由の選択を与えたということになっている」
「というより、その役目を果たしただけだわ」


 そこまで言って、また激しくドアをたたく音がしたので私は階段からその音のするほうに降りて行った。後ろから制止する声が聞こえるけれど大丈夫、私ならきっと無事でいられる。

 謎の確信だった。

「そんなにドアを強く叩く人は誰? 」

 ドアをたたく音がやんだ。

「審問官だ、ここに異端者が住み込んでいると聞いてな」

 私はドアを開けずにまた訊ねた。

「あなたは異端者だからといって魔法を使う人たちを火あぶりにするの? 」
「当然だ、悪魔の使いだからな」
「あなたたちって、心が狭いのねー」

 沈黙が続いて、しばらくしてからドアが開いた。審問官が開けたのではない。私が”魔法みたいなもの”で開けたのだ。

 風が審問官の顔に当たり、審問官は面食らったような顔をしたけれど鼻をフンと荒げて私に近づいてきた。

「なんでそんなニコニコしているのだ」
「だって、あなたをからかうの面白いんだもん」
「ふん、こいつか例の不気味な歌を歌うというやつは」

 そういうと、私の腕を無理やりつかんで連れて行こうとする。私は大声で叫ぶ代わりに、頭の上に大きな黒い鳥を呼び寄せて審問官を捕えさせた。大きな鷲みたいな爪で持ち上げて、翼を大きく振るう。

「なんだこれは、だ、だれか!悪魔だ!悪魔!」

 私は笑った。だってこの子は私の友達だから。つまり、悪魔だから。

「久しぶりね、カミオ」
「そうだな、久しぶりに見た気がするぞ」

 カミオは空高く審問官を投げ飛ばして、口ばしを動かす。審問官のうめき声が聞こえて、カミオの背中にしがみつくのが見えた。


「こいつか、天界で噂の悪魔を信仰するものを火あぶりにする輩は」
「あら、そんな噂になってたの。残念ながらここに生まれる前にずいぶんと時間がかかってしまったわ」
「そうだな、お前が落書きした石ころが地に落ちてそれが神の逆鱗に触れた」
「そうして私は異端な天使から悪魔になったのね」


 昔話をしている間に、審問官はどこかへ逃げ出してしまったようだった。

「そうだ、リリン。ここでは天使のふりをしたらどうだ」
「私が天使? 面白そう」
「もとは天使だったんだから、簡単だろう」

 そんな企みをしていると、後ろにカインがいるのがわかった。

「盗み聞き? カインたら」

 振り向くとカインが顔を赤く染めていた。

「そ、そんなわけないだろ。話しかけるのに戸惑っただけだ。ところで、そいつは.......? 」
「カイムよ、これでも序列53番の大総裁なんだから」
「こいつは、われらの信仰者のようだなリリン」

 悪い顔で笑うカイムを小突くと、押し殺すように彼は笑う。それより、カインが私のほうを見て驚愕している。

「リ、リリン? 」
「何よ、そんなに足をガクガクさせて。そうよ、私はサタンの娘リリン。内緒だからね」

 笑うと、カインは地面に顔を伏せた。

「リリン様、数々の御無礼をお許しください」
「頭をあげて頂戴、カイン。貴方は友達なんだから」

 カインは慌てて両手を横に振った。

「滅相もない、俺なんかがそんな立場には」
「いいえ、貴方は私に気に入られた特別な人よ。私の婚約者なんだから。そういえばカイン、あなたは私を見たとき天使と言ったわね」
「なんかいろいろと話が展開されてるけど......、とりあえず許してください。俺の目は節穴でした」

 私は地面に伏せるカインの前にしゃがみこんで、じっと見つめた。

「ううん、謝ることなんてないの。貴方は私を天使だと言ってくれた初めての人だもの」


 私は生まれてきてから今まで異端の子と言われて誰も私を天使と呼ぼうとはしなかった。私は善を智とする天使とは全く正反対の性格をしていたからだ。私は人に善い行いをしようとする天使の姿が醜く見えた。人を見下しているように見えたから。一人でさみしくしている子を見れば可哀相だなんていう天使が嫌いだった。そんな私は創造主である神に愛されなかった。悪魔と呼ばれるのはむしろ好きだったけれど、忌み嫌われるのは寂しかった。そんな私を、悪気なく天使と言い表わしたカインが尊い存在だということは言うまでもない。

「エバ......いやリリン様。俺なんかで良いんですか」
「同じことを言わせないでカイン。貴方だからこそいいのよ」



しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

スパークノークス

おもしろい!
お気に入りに登録しました~

2021.09.29 深谷芙美 sintani_fumi

ありがとうございます。頑張りますね

解除

あなたにおすすめの小説

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

王家も我が家を馬鹿にしてますわよね

章槻雅希
ファンタジー
 よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。 『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。

神に逆らった人間が生きていける訳ないだろう?大地も空気も神の意のままだぞ?<聖女は神の愛し子>

ラララキヲ
ファンタジー
 フライアルド聖国は『聖女に護られた国』だ。『神が自分の愛し子の為に作った』のがこの国がある大地(島)である為に、聖女は王族よりも大切に扱われてきた。  それに不満を持ったのが当然『王侯貴族』だった。  彼らは遂に神に盾突き「人の尊厳を守る為に!」と神の信者たちを追い出そうとした。去らねば罪人として捕まえると言って。  そしてフライアルド聖国の歴史は動く。  『神の作り出した世界』で馬鹿な人間は現実を知る……  神「プンスコ(`3´)」 !!注!! この話に出てくる“神”は実態の無い超常的な存在です。万能神、創造神の部類です。刃物で刺したら死ぬ様な“自称神”ではありません。人間が神を名乗ってる様な謎の宗教の話ではありませんし、そんな口先だけの神(笑)を容認するものでもありませんので誤解無きよう宜しくお願いします。!!注!! ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇ちょっと【恋愛】もあるよ! ◇なろうにも上げてます。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜

日々埋没。
ファンタジー
​「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」  ​かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。  その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。  ​レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。 ​ 地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。 ​「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」  ​新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。  一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。  ​やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。  レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。

卒業パーティーのその後は

あんど もあ
ファンタジー
乙女ゲームの世界で、ヒロインのサンディに転生してくる人たちをいじめて幸せなエンディングへと導いてきた悪役令嬢のアルテミス。  だが、今回転生してきたサンディには匙を投げた。わがままで身勝手で享楽的、そんな人に私にいじめられる資格は無い。   そんなアルテミスだが、卒業パーティで断罪シーンがやってきて…。

ヒロインは修道院に行った

菜花
ファンタジー
乙女ゲームに転生した。でも他の転生者が既に攻略キャラを攻略済みのようだった……。カクヨム様でも投稿中。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。