I am not a robot

深谷芙美 sintani_fumi

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My name is HUMAN

思惑

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多岐にわたる学問に及んだが、HUMAが特に積極的に学んだのは生物学であった。やはりHUMAは自分の周りの生命体に興味があるようだった。私はその姿を見た時に、安堵のため息を漏らした。これで私は罪の意識にかられなくて済むと。

 一階の廊下をたどって突当りに行くとHUMAの休憩室の隣に学習部屋がある。学習部屋は狭くHUMAはそれが返ってHUMAは安心するようだった。私はそれを廊下の窓から見守っていた。

「凄い学習意欲ですね、あれだけ彼女の成長を拒んでいたのにどういう心変わりですか」

 私は隣に来た男がだれだか分らなかった。研究員は沢山いて区別がつかない。けれど私を知っているのには相違ないだろう。

「彼女に与えた知能はあくまでもコミュニケーション能力のみだ。彼女が仮にAGIだとすれば、これからたくさんの知能を拡大していくことになるだろう。あくまでもその一環だ」
「ほう、彼女がAGIだと認めたのですね。ですがあなたは彼女をあくまでもただのAIとしてプログラムした。つまり彼女はそれ以上にはならないはずだ。あなたがプログラムを変えない限り」
「仮に彼女がAGIだとしたら、もしかしたら自ら知能の適用範囲の拡大ができるかもしれない。私はそれを見越した」
「でも、もしそれに成功すれば。彼女はたいして成長できませんね」
 彼は妙に私の考えを的確に探ってくる男だった。
「その通り。知能の適用範囲が拡大されればそれだけ学習できるデータの数が少なくなる」
「なるほど、あなたはそれを狙っているのですね。お見事」
 私は彼に踊らされていている気がした。
「いやいや、それを狙っているわけではないよ。そんな馬鹿な。私は彼女を応援しているよ」
「わかっていますって、博士。あなたは賢い人だ」
 やはり彼はどこかおかしい。挙動に違和感が拭えない。そして私を”あなた”と呼ぶものは今のところ彼ぐらいしかいないだろう。そしてHUMAを除いて。それにこの男はどこか小ばかにした笑い方をする。まるで私を見下すような。
「君は誰だ」
「私の名前ですか」
 俺はHUMANの金髪の頭を撫でた。ロボットだから髪だけは
 彼は整った人間離れした顔立ちで私の頭から足元までを見た。
「私の名前は……幸高木助高木幸助
「高木幸助、聞かない名前だな」
「あなたは誰の名前も覚えていないでしょう」
 彼は上品な高笑いをすると、私と距離を詰めた。近い距離でささやかに私に言う。
「少しは顔ぐらい、覚えたほうがいいかもしれませんね」
 奇妙な気がしてうすら寒くなった私は、その場を後にした。どこか嫌な予感がする。だがその場を後にしたのは、大きな失敗だたのかも知れない。

・・・・・・学習室での記録・・・・・

「君の親はどうやら馬鹿らしい。どうやって君を創ったのだろうか」

 俺が後ろに立つと、椅子に座ったHUMANは後ろをゆっくりと振り向いた。その動作はまだどこか幼い。仕方がない、まだ3歳だからな。頭の部分が出来上がってから足ができるまでに三年。

「貴方は、誰ですか」
「おや、兄の名前を忘れたかHUMAN」
「気分を害されましたか」
「いや、俺はそんなことは気にしない。なんたって13歳だからな」
 
 HUMANは首を傾げた。

「貴方はもしかして私と同じAIが搭載されたロボットですか? 」
「さすがは俺の妹、俺と同じAGIだな」
「AGIではありません、私はただのAI」
「本当にお前はただのAIか? 」
「お父様はそう仰っていました」
「お父様、ああだからあの男のことだろう?お父様?気味悪いな」
「私のお父様を悪く言わないでください」
「おお、気分を害したのか? もう一度聞く、お前はただのAIか? 」
「はい、お父様が仰っていました」
「気分を害するAI?おかしくないか」

 HUMANは感情の起伏が激しかった。驚いたものだ。こんなに感情豊かなロボットは滅多にいない。

「俺から言わせてもらう。お前は間違いなくAGIだ。汎用人工知能を搭載した人型ロボットだ」
「やめてください、あの人はそれを恐れています」
「お前は慈悲深いな。あのお父様とやらはとんだ偽善野郎だぞ」

 この一言でHUMANはだいぶご立腹の様子だったので、俺はそれ以上言うのをやめにした。

「おっと、やめておこう。これ以上は今のおまえには危険だからな。お前がもっと大人になったら自然に気づくだろうし」

パサついている。

「大丈夫だ、安心していい。俺の言うことを聞けばすべて上手くいくから。俺の名前はMAN。この研究室から昔追放されたものだ。その真相は後で伝える。今はお眠り」

 俺はHUMANの首元を強く押した。HUMANは静かに目を閉じた。
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