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【第一部 きみいろ ~君と僕がみている世界の色は~】

番外編 魑魅魍魎

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【※第一話より少し前の話】

 カーテンから光が差し込み、小鳥たちの合唱がはじまる。
 今日も朝がやって来た。

 おはよう。

 おはようってコトバは朝がはじまるコトバで、未来がはじまるコトバ。
 私の父と母がそういっていた。
 けど毎日、未来がはじまるのが憂鬱だ。

 今日も窓から見えるあの木には、大いびきをかく大柄の妖モノが大の字になって寝ている。窓を開けると耳をふさぎたくなるほどの大きな音。みんなこの音が聞こえないとか本当に羨ましい。

 朝起きて、父に挨拶をするがいつものように無視。ご飯の用意も自分の分だけで、私の顔を見ようともしない。感情がないかのように無口で無表情の父。まるで生き人形のよう。

 さて、朝ごはんも食べたし、今日も行きたくもない学校へ行きますか。ドアを開けると大いびきが聞こえてくる。いつまで寝ているんだろう。妖モノは時間に余裕があるようで幸せそうですね。

 ちなみにこの妖モノは私の基準からすると“良い妖モノ”に分類される。なぜ良いかというと危害を加えてこないから。とはいうものの人が通る時に木を揺らして虫を落としたりくらいの悪戯をしているのはたまに見かけるけど。それくらいの悪戯はかわいいと思っている。

 家から学校までの道のりだけでも“悪い妖モノ”はそれなりに見かける。圧倒的に多いのは“ただそこにいるだけの妖モノ”だけどね。
 
 
 家を出ると最初にタマゴくんに出会う。タマゴくんは小動物くらいの大きさをしていて全身ツルツルの異形のモノ。とある家の塀でいつも犬に悪戯をしている。犬は悪戯をされる度に吠え、吠え続けると飼い主に怒鳴られる。そのやり取りを見て、楽しそうにケラケラと笑っている。

 次にみかける妖モノは、綿あめくん。綿あめくんは今にも崩れそうなおんぼろのアパートに住む瘦せ細って青白い小学生のランドセルにいつも乗っている。綿あめくんは、まるで綿あめを作るかのようにその少年の幸気のような虹色のオーラを割りばしでクルクルと巻き取り食べている。こういう人間に害を与える妖怪もたまに見かける。

 そして、どの日も時間帯もずっと同じ場所にいる風鈴おじいさん。いつも同じ桜の木の上に胡坐をかいて座り、手に風鈴を持ち、子供たちがその風鈴を鳴らすのを只管待っている。その妖モノは子供たちに気が付いてもらえるようにと子供が近くに来ると風鈴の高さを変え、音を鳴らす。子供たちがそれに気づき、何度も風鈴を鳴らす。そんな子供たちの楽しそうな笑顔を見て風鈴おじいさんは嬉しそうに口を大きく開けて笑う。

 他にもドブのような濃い色が混ざったオーラを纏った女性に蛇のような異形のモノが人に巻き付いて耳元で何か囁いていたり。お酒に吞まれた派手な化粧をした女性を抱える尻尾と耳を生やした男性のような妖モノがいたりする。


 たった数十分の時間歩いただけでも多くの妖モノや異形のモノをみかける。


 そして学校に着くと色んな想いや悩みを抱えた青春を送る人たちのオーラが入り混じりっている。正直、気持ちが悪い。

 登校中は纏ったオーラが濃くなることも大きくなることもないようで、この学校をいう狭い空間がストレスや不安や息苦しや妬み辛みを生み出し、そのオーラを纏うことで自分を守っているように感じる。話す内容と纏うオーラの感情が異なるのをよく見かける。

 口数が多い者や「しんどい、辛い、頑張った」などと言う者は実際にはオーラが小さく、口数が少ない者や常に笑顔でいる者ほどオーラは大きい。空気を読み、気を遣い、我慢している者ほど抱えている者が大きいのがよくわかる。

 表に出す感情と心にある裏の感情を切り離しコントロールするのができるのが器用にもみえる。別にココロが読めるわけではないけれど、そのギャップ的なものが少し怖くて私は人が少し苦手だったりする。それに私の場合、異形のモノがみえるということは普通の人と違う目線だし、みえないものをみた表情とかが不自然に思わることも多くて不気味悪がれることも多い。

 妖モノの中でも人の形をしているモノもいて、子供の頃は人と妖モノの区別がつかなくて妖モノと接したり、話したりを普通にしていた。当然、みえない者からしたら独り言だし、奇妙な行動なので近づこうとはしない。子供の時は友達もいなかったから人の形をした妖モノや普通の人が怖がるような異形のモノとよく話して遊んでいた。それが普通のことじゃないと当時は知らなかった。

 ある時、クラスメートの子に「彩ちゃんは誰とお話ししているの?」と言われたのがきっかけで妖モノたちと関わるのをやめた。そう。その時……妖モノたちと接していたことが人の友達がいなかった原因だったと気が付いた。

 それからは私はみないフリをして過ごしている。

 妖モノたちが悪さをしても話しかけてきてもみえないフリ、聞こえないフリをする。例えそれが危険なことや命に関わることだとしても私は目を閉じ、耳を塞ぎ、みたという記憶に蓋をする。
 
 そうやって今まで生きてきた。
 きっとこれからもそう。

 感情を無にして表情は全て演技をする。
 そう。まるで生き人形の父のように。
 
 なんのために生きているのだろう。
 幸せや楽しいってなんだろう。

 そんなことを考えていたら父から「家を出て行ってくれ」と言われた。
 何年かぶりの会話がこれか……。

 それでも私が少しでも視界に入っていてくれたなら嬉しい。
 そんなことを思った。
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