障害者の観点から読むダニエル・キイス「アルジャーノンに花束を」

星名雪子

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この作品のもう一つのテーマ

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初めて読んだ時は気づかなかったが、家族との関係、特に母親(毒親)との関係もこの作品のもうひとつのテーマである。息子に障害がある事をどうしても受け入れられず虐待ぎゃくたいする母親。チャーリィが手術をした理由「頭が良くなって皆に喜んでもらいたい」その一番の相手は母親だった。チャーリィは退行が始まると知って、自分で書いた論文(自分についての研究内容)を手に母親と妹に会いに行った。母親は認知症を患っていて精神不安定な様子だったが、天才になったチャーリィの姿を見て喜んだ。虐待を受けても子供は母親を求めるというのを聞いた事があるが、チャーリィはまさにその典型的な例なのではないだろうか。

チャーリィの妹は子供の頃、兄をうとましく思い、嫌がらせをしていたが、再会した時には心優しい女性に成長していた。チャーリィと再会出来た事をとても喜んだ。そして、認知症を患っている母親の介護に疲れていると明かし、チャーリィに救いを求めた。チャーリィはそんな妹の姿から「頼り甲斐のある兄という存在になりたいとずっと憧れており、それが今実現した」と喜ぶ。が、こうも思う。「自分が手術を受けず前と同じ低い知能のままだったらきっと会ってはくれなかっただろう」と。妹が喜んだのはあくまでも「頭が良くなったチャーリィ」なのだ。とても複雑な心境である。

私はこのチャーリィの心情に自分を重ねた。私にも妹がいる。我が家は昔ペンションを営んでいたのだが、幼い頃の妹はとてもやんちゃで積極的に客に絡みに行こうとするような子供だった。子供が好きな客は良いだろうが、中には苦手な客もいる。放っておくと部屋を飛び出して客のいる場所に行ってしまうので、両親も私もその度に「行っちゃダメ!」と首根っこを掴んで部屋に連れ戻すという感じだったし、忙しくて面倒を見られない両親の代わりに私が幼い妹の面倒を見た事もあった。

そんな妹も成長して大人になった。今では私の方が妹に自分の悩み相談に乗ってもらったり、困った時には何かと頼るようになった。ありがたいと思いつつも、いつの間にか立場が逆転してしまい「本来なら私が妹を支えなければならないのに」という申し訳なさを感じ、姉として何も出来ない自分の不甲斐なさに落ち込む事もある。だからチャーリィの「頼り甲斐のある兄」という理想に対して憧れる気持ちがよく分かる。

チャーリィは母と妹に自分が今後どうなるのかということは一切明かさなかった。「行かないで」とすがる妹に「お金を送るし、たまに会いに来るから」と言って家を出る。妹はきっとその後、チャーリィが母に渡した論文を読んで愕然がくぜんとするだろう。何故ならその論文にはアルジャーノンの顛末てんまつと自分の行く末が書かれているからだ。チャーリィが自分の知能を保てるならば二人のそばにいたいと思ったかどうかは分からないが、自分の将来を自分の口から正直に告げられない事、そして後で論文を読んで兄の将来を知る事となる妹、二人の事を考えると非常に切ない気持ちになる。
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