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危険な情事 1話
しおりを挟む「今日、凄く寒いね。待ってるから早く来て~」
「はいはい、今向かってるから!あったかいご飯一緒に食べて、暖まろうね♪」
彼からのメールの返事を読み、嬉しさのあまり思わず笑みが溢れる。私は携帯電話を畳み、ポケットにしまい込んだ。
12月の夜。もうすぐクリスマスを迎える街は華やかで、行き交う人々は皆、楽しそうな笑顔を浮かべている。
用事があるからと仕事を定時で上がり、待ち合わせ場所である最寄駅のロータリーに向かって急いだ。少し走ったので一時的に体は暖まったものの、真冬の風は冷たい。すぐに体が冷えてしまい、思わず身震いした。
「早く来ないかな……」
手袋越しに両手を擦り合わせながら「お待たせ!」と言って、笑顔で迎えに来てくれる彼の姿を想像すると胸が高鳴り、心なしか体が暖まるような気さえした。
私は7年間、彼氏がいない。元彼とは上手くいっていたけど思い描く将来がお互いに違うことが分かり、別れを選んだ。30歳を迎え、周りの同年代の友達は次々に結婚していく。私は内心焦っていた。
でも、相手を求める一番の理由は「結婚」ではない。私は自分勝手で不器用で、相手への思いやりも自分の気持ちの伝え方も何ひとつ知らなかった。その所為で相手に誤解されたり、嫌われたり、上手くいったと思ったら友達としてしか見てもらえなかったり、恋愛にはまるで縁がなかった。
元彼は唯一私を理解し、愛してくれた。とても大切な人だった。だからこそ思い描く将来がお互いに違うことはとても悲しかった。でも仕方がなかった。お互いに嫌いになった訳ではなかったから余計に悲しみは深く、別れてからしばらくは泣いて過ごした。
「もう恋なんてしない」
どこかで聞いたことのあるフレーズをひとり呟いた。そして彼を、恋を、忘れたい一心で、現実には存在しない紙の中の男に恋をした。二次元キャラに恋をするのはとても楽しかったし、気楽だった。彼らは皆、いつも同じ顔で同じ言葉で私を元気づけてくれた。このまま彼らに恋をしていれば、傷つかずに済む。そう思っていた。
しかし、私は気づいてしまった。自分の奥底にある深い孤独と寂しさに。それだけではない。
周りの友達はみんな彼氏がいる。みんな結婚していく。それなのに何で私はいつまでも一人なんだろう?私には魅力なんてないんだろうな。
そんな激しい劣等感すらあった。紙の中の男達を見て気を紛らわし、自分の心に蓋をして気づかないふりをした。でも駄目だった。その孤独感に耐え切れなくなった私はネットで出会いを探すことにした。私生活での出会いは期待できなかったし、これまでの苦い経験から上手くいく筈がないと思っていたからだ。しかし流行りの出会い系サイトに手を出す勇気はなかった。
そこで考えたのが婚活サイトだった。多少の料金はかかるが、出会い系サイトを利用するよりはずっと安全なように思えた。私は早速、人気の婚活サイトに登録した。何人かとやりとりをしたが、なかなか良い人には巡り合えなかった。そんな時に出会ったのが、今私が待ち合わせている彼だったのだ。
半月前に知り合った彼は長めの茶色い髪と爽やかな笑顔の写真が印象的だった。メールのやりとりはとても紳士的で優しく、私はすぐに好意を持った。5、6歳上で、不動産業界に勤めている彼は人生経験も豊富で、私の度重なる悩み相談にも乗ってくれた。初めはメールだったが、その内に電話番号を交換し、直接話すようになった。彼の声はメールの通り明るくて優しかった。私の悩みに的確なアドバイスをくれ、最後には「大変だろうけど頑張ってね!応援してるよ!」と必ず励ましの言葉をくれた。
まだ一度も会ったことはなかったが、気づいたら私は彼のことを心から信頼し、本気で好きになっていた。また、彼からのメールの内容は、鈍感な私にも分かるぐらい私に対して好意を持ってくれていることが分かった。
脈あり……今度こそ絶対に上手く行く!
私は彼を食事に誘った。結果はもちろんOK。お互いの仕事終わりに、会うことになった。
「車で行くからロータリーで待っててね!」
その言葉を全く疑いもせずに私は言われた通りにロータリーで彼を待った。この後、思いも寄らない悪夢が待ち受けているとも知らずに……
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