車にはねられて死んで気づいたらツンデレイケメンや新選組と共に霊界の裁判所で仕事をさせられてた話〜松山勇美の霊界異聞奇譚〜

星名雪子

文字の大きさ
37 / 49
第五章 予言

第三十七話

しおりを挟む

渡り廊下を進み、天国行きの部屋を通過するとそれまで空き地だった場所に道場があった。

「こんなものをソッコーで作るとか厩戸さんてやっぱスゴいんだな。ってか、たかむらの師匠って厩戸さんのことだったのか。今度詳しく聞いてみようっと」

大きな門を開けると、中には既に数人がいた。山崎、良順、千代、元春とハナだ。

「あっ勇美ちゃん!」

山崎にやりの使い方を教わっていた良順が手を止め、勇美の姿を見て嬉しそうに言った。

「みんな、おつかれ!調子どう?」

「これは骨が折れるよ。慣れるまで大変さね」

「どうやって力を出したらいいのか分かりません……」

山崎が珍しく上機嫌で言った。

「森久保はんはなかなか筋がええ。槍はすぐに使いこなせるはずや」

「なんか少年漫画のキャラになったみたいでめっちゃ楽しい!」

良順は嬉しそうに自分の身長ほどの長さがある槍を素早く振ると、手を止めて困惑しながら言った。

「でも、この水晶の力をどうやって出したらいいのか分かんない。やっぱ最初から上手くいくワケないか~」

「でも山崎さんは凄いわよ。少し練習しただけでもう完璧なんだから」

「マジか!さすが戦闘集団、新選組!じゃあアタシもやってみる!」

勇美は両手を前に突き出して、精一杯力を込めた。すると、水晶が淡く光って炎が出現。だが、それは炎と呼ぶにはあまりにも心もとない小さな火だった。

「ええ~これじゃあただのライターじゃん……」

勇美はがっくりと肩を落とした。他の隊員達も技を繰り出そうとするも全く上手くいかない。

「草のつるが出たけど短い。これじゃあ敵には届かないねぇ」

「俺の水晶はうんともすんとも言わない」

「私もよ」

「ボクはこの小さなカブトムシだけです……」

「千代さんは草系の技、元春くんは虫?なんかポケ●ンみたい」

「あ!俺もそう思った!」

勇美と良順の言葉に元春が不思議そうな顔で尋ねる。

「ぽけ●んってなんですか?」

「アタシ達の時代にあるゲーム……じゃなくて遊びだよ。色々な架空かくうの動物を育てて技を覚えさせて戦わせるの。スゴく面白いんだよ!」

「へぇ~!ボクもやってみたいです」

それから勇美と良順はポケ●ンの話で盛り上がり、興味津々きょうみしんしんの元春が瞳を輝かせて聞いていた。が、その様子に思い切り眉をひそめた山崎が強い口調で注意をした。

「おい!話脱線してるで!鍛錬に集中しいひんといつまで経っても覚えられへんで。実戦や思て本気にならな力なんて出せんで!」

「はーい」

あまり危機感がない補佐隊員達の姿を見て山崎はため息を吐いた。

(こら相当な時間がかかりそうや。もし間に合わへんかったら……あまり考えとうはあらへんけどその時はわいら新選組が何とかするしかあらへんか。いや、そうなったら逆にわい自身の力を試す時が来たってことか……)

***

それからしばらくして、任務を終えた勇美がたかむらに引き継ぎ道場に向かうと、土方と他の補佐隊員がいた。だが、先日の山崎の指南しなんとは全く様子が違う。

「良順!槍の構えが違う!何度も言わせんじゃねぇ!きちんとやらねぇと煙管きせるの火押し付けんぞ!」

「ヒィッ!土方副長!それオレの時代ではパワハラっていって完全にアウト発言っすよ!」

「はぁ?ぱわはら?なんだそりゃ?訳わかんねぇこと言ってねぇでさっさとやれ!」

「鬼副長、やっぱ鬼~!」

「あぁ?!なんか言ったか?!」

「な、何でもないっす!」

「千代、何で中途半端な技しか出ないのか分かるか?貴様は雑念ざつねんが多過ぎるんだよ。クソ猿はとっくに地獄に送った。仲間も天国に行った。だったら何も心配することはねぇ。ごちゃごちゃ余計なこと考えてねぇで、今は霊界を守ることに集中しろ!いいな?!」

「はいはい、分かったよ」

「元春!貴様はビクビクし過ぎだ!そんな弱腰よわごしじゃ、すぐやられちまうぞ!技を出す前にその臆病おくびょうを何とかしろ!」

「は、はい!すみません!」

「ハナ、貴様は力が足りねぇ。もっと足に力を込めろ。全身の気を足に集結しゅうけつさせ、そんでもって力一杯踏み込め」

「分かったわ」

「勇美!何ボーっと突っ立ってやがる!やる気がないなら失せろ!目障めざわりだ!」

「ひゃっ、す、すいません!すぐにやります!」

「おい!何だそのへっぴり腰は!そんなんじゃ100年経っても技なんか出せねぇぞ!」

「すいません!あ、あの、土方副長!ちょっといいですか?!」

「何だ?!」

「お、お手本見せてください!」

「甘えたこと抜かしてんじゃねえ!自力でやれ!」

「ええっ、す、すいません!自力でやります!」

(まだまだ俺達の足元にもおよばねぇがやる気は充分あるな。叩き込めば何とか形になるか……。フン、鬼の副長はとっくの昔に捨てたつもりだったが、つい熱くなっちまうのは地獄の番人やってるからってだけじゃあなさそうだな。こいつら見てると当時を思い出すからかもしれねぇ。やっぱ俺は一人よりも仲間といる方が好きだぜ)

土方は嬉しそうに微笑みを浮かべると、必死に汗を流して鍛錬に励む補佐隊員達を熱い眼差しで見つめたのだった。

***

更に数日後、天国行きの部屋で沖田が待っているとうたじろうがやって来た。

「沖田殿、お待たせ致しました」

「うたじろうさん。お忙しい中いつもすみません。ありがとうございます」

「いえ。鍛錬は大事です。ましてやあなたは新選組随一ずいいち剣客けんかく。補佐隊員の皆さんにとってあなたの御指南ごしなんを受けることは何よりの励みになることでしょう。補佐隊員の皆様の助手として僕も精一杯、留守番を務めさせて頂きます」

「うたじろうさん。あなたはどんな時も丁寧でとても優しい。私はあなたのその優しさにいつも癒されているんですよ」

沖田はとても嬉しそうに笑った。

「そ、そんな……勿体無もったいないお言葉です。僕はただ沖田殿はもちろん皆さんと仲良く過ごしたいだけですよ」

「その心構えが素晴らしいではないですか。ああ、生前療養りょうよう中にあなたのような猫さんがそばにいてくれていたら私はどんなに心強かったことでしょう」

「沖田殿……」

(なんと素直な人なんでしょう……)

うたじろうは感激のあまり言葉に詰まってしまった。沖田は腰の刀を確認すると障子を開け、振り返って言った。

「では、うたじろうさん。留守番をよろしく頼みます」

「承知致しました」

沖田が道場に向かうと、既に補佐隊員達が鍛錬を開始していた。最初に比べると明らかに上達しており、ある程度技も形になっていた。

「小林さん、とても良いですよ。もう少しつるを伸ばせば敵に届きます。あと一息です」

「ああ、頑張るよ」

「ハナさん、もう少し踏み込んでみましょうか。もっと地割じわれが深くなれば敵に致命傷ちめいしょうを与えられます」

「やってみるわ」

「浪川さん。虫ではなく動物を召喚しょうかんできるようになったのは上出来じょうできですが、うさぎとか鳥では敵を倒すことはできません。もっとこう、大きな動物を想像しましょう。例えば……ほら、猛獣もうじゅうです。獅子ししとか熊とか」

「あ!そうですね!」

「森久保さん。槍の使い方はもう完璧です。覚えが早いですね。あとはその水晶の力を最大限に引き出せるよう頑張ってください」

「はい!やってやりますよ!」

「松山さん、あなたはどうですか?順調ですか?」

「何とか火は出るようになりました!でもまだ技としては……沖田さんはどんな感じですか?」

「私はもう慣れましたよ。いつでも戦いに打って出られます」

「スゴい……!さすが天才剣士……!」

「新選組の方々は何故そんなに慣れるのが早いのですか?」

元春の質問に沖田は真剣な顔で答えた。

「生前、私達は常に死と隣合わせでした。だから、戦闘はいつも命懸けでしたし、もちろん全力でした。その経験が活きてるのだと思います」

「やっぱり死闘しとうをくぐり抜けて来た人達は違うわよね」

補佐隊員達の熱い視線を浴びながら沖田はふと思った。

(病のせいで志半こころざしなかばで前線ぜんせんから離脱りだつしなければならなかった。その悔しさが今、力になっている気がする。近藤さんや土方さんの役に立ちたいと願いながらも叶わなかったあの時の雪辱せつじょくを今こそ果たすべきなのかも……)

***

数日後、道場には近藤と補佐隊員達がいた。

「近藤局長。攻撃のは掴んだんすけど、水晶の力を使うが分かんないっす」

「うむ。おぬしの力は敵と距離があっても有利だ。槍で打撃を与え、敵が隙を見せたその時に発動すると良いだろう。その水晶には回復力以外にも力が備わっているはず」

「分かりましたっす!」

「架空の動物を出すにはどうしたらいいですか?例えば龍とか……」

「おぬしが具体的に想像するのだ。関連の書物を読んで絵や図を頭に入れておくのも良いかもしれぬ」

「ここにいる誰かと連携技れんけいわざを出すことは可能かしら?」

「その人物にもよるが……例えば元春殿なら大蛇だいじゃを召喚して動きを封じた後、ハナ殿が地割れを起こしてその中に落とす、というのはどうだろうか」

「敵の動きを封じた後はどうすればいい?私も誰かと連携技を出すべきかい?」

「うむ。その通りだな。勇美殿や良順殿が敵に致命傷ちめいしょうわせるのだ。勇美殿、技は出せるようになったか?」

「う~ん……火のいきおいが全然足りなくて。もっと豪快ごうかいな火を放つにはどうしたらいいですかね?」

「具体的に『こうすれば出る』というようなものではないゆえになかなか難しいだろう。これは勇美殿に限った話ではないが……敵を必ず倒すという強い信念を持つことが大切だ。その信念を水晶に思い切り込めれば必ず最大限の力が発揮できる。火事場かじばの馬鹿力ともいうように追い込まれた時に発揮することもある。おぬしらは皆それぞれ良きものを持っている。強大な力が自分の中にあると信じるのだ」

「火事場の馬鹿力……アタシにもあると信じて頑張ります!」

しかし、勇美を始め補佐隊員達の腕前は実戦で敵に致命傷を負わせられるとは言いがたいものだった。当の本人達はもちろん、たかむらや近藤、新選組隊士達は危機感を抱いていた。

***

裁きがひと段落した後、たかむらが言った。

「近藤局長。今のままではまた霊界がほろぼされてしまいます。もっと厳しく鍛錬をした方が良いでしょうか」

「いや。彼らはもう十分努力を重ねておる。更に厳しくするのは逆効果だろう。彼らの力を信じるしかない。彼らがまだ未熟であれば我々がその分おぎなって戦う。助け合える仲間がいてこその団結力だろう」

「仰る通りですね」

「たかむらよ。わしは近頃思うのだ。この仕事は自分に対する罰としてきたが、それだけではないと」

「……どういうことでしょうか?」

「死んでもなお、こうして信頼し合える仲間がいるのは何より幸せな事なのではないかとな」

たかむらは何も言わずに黙っていた。

「そう感じておるのはおぬしも同じではないか?いや、わしよりもそれを実感しておるのではないか?たかむらよ」

たかむらは少し間を置いた後、微かに笑みを浮かべて言った。

「あなたが私を見てそう感じるのなら、きっとそうなのでしょう」

近藤はフッと小さく笑みをこぼすと思った。

(『素直じゃない!』といきどおる勇美殿の気持ちがよく分かるものだな……)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

処理中です...