私達の春夏秋冬

星名雪子

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第4章 冬

「真っ赤なそりのサンタさん」 1話

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ねぇ、お姉ちゃん。私が小学一年生の時、クリスマスイブに起こったあのこと覚えてるかな?

私、何日か前に「お姉ちゃん、何でウチにはサンタさん来ないの?」って聞いたよね。そしたら、お姉ちゃんは心配そうな顔をしながら「どうしてそんなこと聞くの?」って。だから、私は今まで誰にも言えなかった不満を一気に吐き出した。

「今日、学校でね、サンタさんに何のプレゼントをお願いしたのか友達に聞かれたの。だから、ウチにはサンタさんが来ないんだ、って言ったらみんなに、おかしい、って言われたの……ねぇ、何でサンタさんは私のところには来ないの?みんなのところにはいつも必ず来るのに」

お姉ちゃんも知っての通り、私は昔から負けん気が強い子供だったでしょう。だから、友達に自分を否定されたことが凄く悔しかったんだ。ましてや、友達のところにはサンタさんがやって来て、自分のところには来ないっていうんだから。

でもね、大人になった今なら分かるんだ。どうしてウチにはサンタさんが来なかったのかっていうこと。当時、ウチはペンションをやってたでしょう。でも商売は必ずしも順風満帆には行かなくてずっと貧乏だったよね。だから、欲しい物があっても、私達いつも我慢してたよね。

学校ではスキー授業やクラブがあって、私達生徒へのスキー教育に力を入れてた。そんな時だったかな……世間的にスノーボードが大流行したのって。友達もみんな次々にスノーボードに挑戦するようになって、私達もスノーボードをやってみたいねって話したことあったよね。でも、当然買えるような余裕はなくて……。

安物や知り合いからのお古だったけど、お父さん、お母さんはスキー板をよく新調してくれたし、スキーウェアや帽子、手袋とかスキーに必要な小物、道具もきちんと買ってくれた。読書好きなお姉ちゃんには本を沢山買ってあげていたし、よく食べる私には料理人の父が美味しい手料理を沢山振舞ってくれたよね!今、思えば経済的に苦しい中、私達の為にお父さんとお母さんは色々なことを考えてくれていたんだろうなぁと思うんだ。

……そんな訳で、ウチには「クリスマス」が存在しなかったんでしょう?まぁあとはウチは代々熱心な仏教の家系だということも理由のひとつなんだろうけど。でも、当時私はまだ一年生だったからなのか、誰も本当のことを教えてくれなかった。まぁ仮にそんな話を聞かされたとしても、理解できるはずもなかったけど。

そういえば、この間会った時にお姉ちゃんも私と同じように「何でウチにはサンタさんが来ないのか悩んだことがあったけど、すぐに受け入れられたのは、私は友達とは境遇が違うんだろうなって割り切ってたからかもしれない」って言ってたよね?しかも達観したような表情でさ!お姉ちゃん、凄いなって思ったよ!

あっ話は最初に戻るけど、私の質問にお姉ちゃんは少し困った顔でこう答えたよね。

「……喜子ちゃん、サンタさんはね。とても忙しい人なの。だから、今まで我が家には来ることができなかったんだよ」

子供に夢を与える筈のサンタさんが忙しいからって子供を差別するなんて、よく考えれば無理あるよね。でも、まだ私は幼かったからお姉ちゃんの言う事を信じるしかなくて、正直なところとても悲しい気持ちになったよ。でも、お姉ちゃんは続けてこう言ったね。

「大丈夫だよ。サンタさんは今までのお詫びに今年のクリスマスには沢山のプレゼントを持って喜子ちゃんに会いに来てくれるから」

私が「……それ、ほんと?」って聞いたらお姉ちゃんは「うん、本当だよ。だから楽しみにしてるんだよ」って笑ってくれたね。その顔が、自信と優しさに満ち溢れててさ。私、思ったんだ。お姉ちゃんの事を信じようって。

実はね、私それまではお姉ちゃんのこと「頼りにならないなぁ」って思ってたんだ。あっごめん!この話にはまだ続きがあるんだよ。だからそんな顔しないでとりあえず話を聞いてくれる?

……周りの友達にもお兄ちゃんとかお姉ちゃんがいたけど、みんなとても頼りになる自慢の存在だったんだよ。だからそんな話を聞かされる度に私はさ「お姉ちゃんってどうしてあんなにいつも自信なさげなんだろう」って複雑な気持ちだったわけ。夏に笠原さんと蛍を見に行ったことあったでしょう?あの時のお姉ちゃんったら蛍が見られるってはしゃいでた私とは正反対で、月の明かりと懐中電灯だけの暗闇にブルブル震えちゃって「もう帰ろう」とか言い出しちゃって!あの時、私が頼りになる存在だと思ったのは笠原さんだけ。ああ、そんな顔しないでよ。まだ続きがあるんだってば!

―2話へ続く―
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