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第4章
カタリウムは人を選ぶ 4
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ルーザンヌ翁の話は更に続く。
「その父が言っておったよ。精霊は強欲な人間に愛想を尽かしこの世界から姿を消してしまった。人間と交わって生まれた葉人族は精霊から見捨てられ、今なお森の奥深くで人との接触を禁じてひっそり暮らしている。そして太古の昔から精霊、竜と共に暮らしていたカタリウムという生物もこの世界に残っている。カタリウムは地中奥深くに住み、粘土を食べて生きている透明の生き物である。精霊は月夜の晩にカタリウムを殺し、その殺されたカタリウムは新たな姿に形を変え、精霊のために身を捧げている、と……」
「カタリウム……」
ヒエンはそう呟き、
「聞いたことある?」
ユージンは首を振って否定する。
「いや、初耳だぜ」
「あのロング・ボウの弦はカタリウムからできておるとワシは推察する。……断言に近い推察じゃがな。そして、あれを盗んだ盗賊は好奇心がそうさせたかどうかはわからんが、仲間の了承を得ず勝手に葉人族の領域へと侵入しそれを盗んだのじゃろう。彼は葉人族から怒りを買い、殺されそうになったところをどうにか逃げてきたと思われる。彼は盗賊団から追放覚悟で行動を起こしたのだから、森の中ではなく海岸沿いを歩いてテフランドの国境へ、そしてワシの店へとやってきたのではあるまいか? いつ襲ってくるやもしれぬシーリザードを回避してここまで来たのだとしたら、奴は大した強運の持ち主じゃな」
「そうだとしても、だ」
ユージンはもう一度、棚のロング・ボウを手に取る。
「苦労してコイツを盗んだ理由ってのが改めてわからねえ」
「盗んだのは盗賊としてのサガだったのかもしれんぞ。純粋に葉人族の世界を見たいと思って侵入したところにたまたまその弓が落ちていた……。盗んでから後悔して、ワシのところへ置いていったという仮説は成り立たんかのう?」
ヒエンは何も言わない。
そして、二人とは全く別のことを考えている。
(月夜の晩……【あの人達】の歌……)
点と点が今まさに繋がろうとしている。
高ぶる感情を深呼吸で抑えながら、ヒエンは見事に太くてたくましい線となった構想を声に出す。
「なあ、ジジイ。一つ相談やねんけど……」
「何じゃ?」
「あのロング・ボウ、ウチに売ってくれへん?」
これにはルーザンヌとユージンは口を大きく開けて驚いた。
「オ、オメエ……弓なんて使いこなせるのかよ? コレ、結構重いぜ」
「使いこなせるワケないやん。槍や銛でも無理やのに」
そして、もう一度ルーザンヌに懇願する。
「なあ、売ってぇや。頼むわ! どうせいらんモンやろ?」
「か、金はいらん。しかし、いくら頑丈でも、あれだけの弦の長さではとてもシーリザードを捕縛できるとは思えんが……」
「あれは弓としてそのまま使わせる。そして悪いけどな、ジジイ。ウチらはまだテフランドには行かん。その前に寄るところができたんや」
「どこじゃ?」
「どこだよ?」
二人はヒエンのニッと笑う口を注視している。
ヒエンはドヤ顔で言う。
「イニアや」
「その父が言っておったよ。精霊は強欲な人間に愛想を尽かしこの世界から姿を消してしまった。人間と交わって生まれた葉人族は精霊から見捨てられ、今なお森の奥深くで人との接触を禁じてひっそり暮らしている。そして太古の昔から精霊、竜と共に暮らしていたカタリウムという生物もこの世界に残っている。カタリウムは地中奥深くに住み、粘土を食べて生きている透明の生き物である。精霊は月夜の晩にカタリウムを殺し、その殺されたカタリウムは新たな姿に形を変え、精霊のために身を捧げている、と……」
「カタリウム……」
ヒエンはそう呟き、
「聞いたことある?」
ユージンは首を振って否定する。
「いや、初耳だぜ」
「あのロング・ボウの弦はカタリウムからできておるとワシは推察する。……断言に近い推察じゃがな。そして、あれを盗んだ盗賊は好奇心がそうさせたかどうかはわからんが、仲間の了承を得ず勝手に葉人族の領域へと侵入しそれを盗んだのじゃろう。彼は葉人族から怒りを買い、殺されそうになったところをどうにか逃げてきたと思われる。彼は盗賊団から追放覚悟で行動を起こしたのだから、森の中ではなく海岸沿いを歩いてテフランドの国境へ、そしてワシの店へとやってきたのではあるまいか? いつ襲ってくるやもしれぬシーリザードを回避してここまで来たのだとしたら、奴は大した強運の持ち主じゃな」
「そうだとしても、だ」
ユージンはもう一度、棚のロング・ボウを手に取る。
「苦労してコイツを盗んだ理由ってのが改めてわからねえ」
「盗んだのは盗賊としてのサガだったのかもしれんぞ。純粋に葉人族の世界を見たいと思って侵入したところにたまたまその弓が落ちていた……。盗んでから後悔して、ワシのところへ置いていったという仮説は成り立たんかのう?」
ヒエンは何も言わない。
そして、二人とは全く別のことを考えている。
(月夜の晩……【あの人達】の歌……)
点と点が今まさに繋がろうとしている。
高ぶる感情を深呼吸で抑えながら、ヒエンは見事に太くてたくましい線となった構想を声に出す。
「なあ、ジジイ。一つ相談やねんけど……」
「何じゃ?」
「あのロング・ボウ、ウチに売ってくれへん?」
これにはルーザンヌとユージンは口を大きく開けて驚いた。
「オ、オメエ……弓なんて使いこなせるのかよ? コレ、結構重いぜ」
「使いこなせるワケないやん。槍や銛でも無理やのに」
そして、もう一度ルーザンヌに懇願する。
「なあ、売ってぇや。頼むわ! どうせいらんモンやろ?」
「か、金はいらん。しかし、いくら頑丈でも、あれだけの弦の長さではとてもシーリザードを捕縛できるとは思えんが……」
「あれは弓としてそのまま使わせる。そして悪いけどな、ジジイ。ウチらはまだテフランドには行かん。その前に寄るところができたんや」
「どこじゃ?」
「どこだよ?」
二人はヒエンのニッと笑う口を注視している。
ヒエンはドヤ顔で言う。
「イニアや」
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