人を咥えて竜が舞う

よん

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第4章

カタリウムは人を選ぶ 9

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 昼過ぎにグレンナ入りした三人は寝不足のまま、その足で"ルーザンヌの質屋"に着いた。
 この日も店は閉まっていたので、先日に合鍵を返してしまっていたユージンは扉を乱暴に蹴って勝手にズカズカ入って行く。
 すると、

「ぅおい、ナガロック! また鍵を壊しやがったな! たった今すぐ弁償しやがれッ!」

 ルーザンヌ翁は小さな鼻眼鏡を掛けて書物を広げていたところだった。

「わかってるわ! 金貨一枚ありゃ十分だろ……てか、この店はいつ開いてんだよッ! ジジイ、商売する気あんのか?」
「ないッ! 今はそれどころではないのじゃ。……何じゃ、ヒエンちゃん。目の下にクマができておるではないか。寝不足は美容の大敵じゃぞ」

……?)

 ヒエンはだるそうに手で口を押さえている。

「ユージンのドンチャン騒ぎのせいでアクビ止まらんのや。……ほら、イニアから連れてきたで。ロング・ボウの使い手を」

 ダストが前に出て、ルーザンヌにペコリと頭を下げる。

「ぅおおッ! ソヤツかッ?」

 鼻眼鏡を外し椅子から立ち上がったルーザンヌ、至近距離でダストをジロジロ観察し始めた。

「あ、あの……」

 ダストは困った顔でヒエンに助けを求めるが、ヒエンはアクビを連発させて少年のすがるような目に気づいていなかった。

「おい、妖怪! いつまで遊んでんだ! 若いエキスを吸い取ろうとしてんじゃねえッ!」

 ダストの右の手のひらを取ってクンクンと匂いを嗅いでいたルーザンヌ翁は、その発言にムッとしてユージンに向かう。

「遊ぶじゃと? 言葉を慎め。ワシはのぅ、ナガロック。オマエらがここを出て行ってからずっと気になって、商売もそっちのけで店中の埃をかぶった書物を紐解いて調べておったのじゃ。葉人族とカタリウムについて……な」

 ユージンとヒエンは思わず顔を見合わせる。
 ユージンはすまなそうに、後頭部に手をやりながら頭を下げる。

「そりゃ悪かった。オレ達のために時間を割いて調べ物を……ん、何だこりゃ?」

 ユージンはルーザンヌがさっきまで目を通していたテーブルの上の書物に目を通す。
 先人の記した貴重な古書かと思いきや、それは研究対象など全く無縁の女体がいろんなポーズで描かれた卑猥な図画集であった。

「……ジジイ、これはどういうことか説明してもらおうか?」

 振り返ったユージンが声を震わせながらすごい形相で訊ねる。
 包帯の内側には怒りの青筋が浮いていることだろう。
 ルーザンヌは少しも慌てずコホンと咳をした。

「寄り道現象じゃ」
「何やねん、それ?」

 顔を赤らめたヒエンが眉をひそめて訊く。
 あまりの落胆に睡魔などどこかへ吹っ飛んでしまった。

「オマエ達にも経験があるじゃろう。たとえば、部屋掃除の途中に思わぬ物を見つけてしまい、当初の目的を忘れてそれに没頭するということが……。是即ち"寄り道現象"じゃよ」
「その結果が商売すっぽかしてエロ本鑑賞で真昼間からギンギンかいッ! ふざけんなこの野郎ッ!」

 小柄な老人をネックハンギングツリーで軽々持ち上げるユージンを見ながら、まさしくこれは寄り道だとヒエンは思う。
 こんな無駄足を踏むとわかっていたら、このまま一気に国境を越えてテフランド入りすればよかった。

「ホンマにもう……来るんやなかったな?」

 ダストに同意を求めようとした時だった。
 その卑猥な図画集が気になるのか、ダストはチラチラと目をやっていた。

「え? ……な、何か言った?」

 今頃気づいたダストに対し、ヒエンは冷ややかな軽蔑の目を送り、

「スケベ」

 そのたった一言で思春期の少年を撃沈させてしまった。
 そしてヒエンは今更ながら、ここにいる自分以外の人間はみんな男なのだという事実に気づく。
 それは母親を集団強姦したケダモノと同じ種類だ。

 目の前の景色が一気に真っ暗になる。

 母――サナコ・ヤマトは二十歳でこの世を去った。
 母親の顔を見たことがないヒエンは、一年前に父親のタイルズが哀しそうな顔で言ったことがいまだ忘れられない。


『ヒエンは本当にサナコ似だな。ここ数年はますます似てきている。ヒエンがハタチになった時、私は父としてどのようにキミと接すればいいかわからない』


 ヒエンには父親の気持ちが痛いほどよくわかる。
 何故なら、ヒエンにタイルズの血は流れていないからだ。

(ウチにはオカンとケダモノの血が流れてる。名前も顔も知らんケダモノの血が……)

 我に返ったヒエン。
 場面は再びルーザンヌのカビ臭い質屋へと戻る。
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