人を咥えて竜が舞う

よん

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第6章

チルの会議 4

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 それから二日後のこと。
 通常ならば、ヒエンやダストのような庶民が主城の大会議場に入室することなどあり得ないのだが、それどころか二人は次期国王や宰相、様々な閣僚を差し置いて上座にいる。
 会議の召集者がチルで、二人はその従者であることを考慮しても不自然極まりない席順である。
 刺すような視線が無遠慮に二人へと放たれているが、その中でジョーイ皇子とデスプラン宰相だけは明らかに顔色が悪く、ヒエンとダストの存在を気にもしていなかった。

 ざわつく中、ヒエンとダストの間に座るチルがスッと立ち上がると、場は一気に静まり返った。
 チルは周囲を見回すと、笑顔で出席者に簡潔な礼を述べてから本題に入る。

「皆様も既に御承知でしょう。先日、捕縛したシーリザードを私はこの主城内の地下牢へ拘束しました。私の両隣りに座る者は、実際にその捕縛を実行した功労者です。彼女達以外にも捕縛に携わった英雄がいるのですが、本日は代表してこの二人に出席していただきました」
「チル臣長殿。よろしいでしょうか?」

 でっぷり肥ったダミ声の男が挙手する。
 議長はいない。
 緊急の会議なので進行役はチル自ら執り行う。

「どうぞ、ガイラ参謀」
「では」

 勲章だらけのその男がノッソリ立ち上がって発言する。

「我々はまだ事態を把握できておりません。まず、シーリザードの捕縛……これは一体どのような魂胆で事を進められたのでしょう? 軍を統括する我々にも、そうした計画は一切耳に入ってはおりません。のみならず、皇子や宰相閣下のような要人でさえも臣長殿の企図を後に知らされたとのことですが、臣長殿のこうした行き過ぎた越権行為は十分に断罪に値すると思われます。チル臣長の率直なお考えを伺いたい」

 ガイラ参謀の歯に衣着せぬ物言いにも、着席していたチルは顔色一つ変えず再度立ち上がる。

「断罪は覚悟の上で密に事を運びました。私の首が欲しければ差し上げます」

 その潔い発言に参加者はまたもやざわついた。

「静粛に願います」

 そのたった一声で静寂が訪れる。
 チルの声はよく通る。
 演説に向いているとヒエンは思ったが、会議そのものに興味はなかった。
 対照的にダストはソワソワと落ち着きがない。

「何故、私が独断でシーリザードの生け捕りを画策したか……お答えしましょう。生け捕り行為自体、これから私がする話に信憑性を加えるためのスパイスに他なりません。おそらく、生け捕りが成功しなければ誰も私の話に耳を傾けないでしょうから。つまり、

 この辺をサラッと言ってのけるあたり、チルは多くの人から恨まれるのも無理はない。
 ヒエン達が命懸けで果たしたミッションを彼女は何とも思っていないのだ。
 しかし、牙をもがれたも同然のヒエンはもはや怒りすら感じなかった。

「では、そのお話を是非とも拝聴したいものですな。勿体ぶらずにどうぞ」

 城中伯の一人が席も立たずにふんぞり返って発言する。
 彼もチルのことを快く思っていないのは明白だ。
 そんなことなど気にも留めないチルは微笑さえ返しながら口を開く。

「御年輩の皆様方なら御存知でしょう。『竜は南より飛来し、人を咥えて南へと戻る。海トカゲもまた南より渡りて人を喰らう。是即ち海トカゲもまた人なり』……古くから伝わるこの伝承は、現ザール公によって単なる迷信だと証明されました。ザール公は五体ものシーリザードの屍骸を解剖させましたが、そこに人間の痕跡は認められませんでした。……当然です。シーリザードとして死んでしまえば、それはシーリザード以外何物でもないのですから。死んだシーリザードを解剖することなど、ワインを飲んで『これはワインだ』と言ってるようなものです。エタノールと水に分ける蒸留実験すらしないならワインはワインのまま、シーリザードについても同様です」
「では、伝承のようにシーリザードが人間だという証拠を出してもらいましょうか?」

 ガイラ参謀は気難しい顔つきでチルに要求する。

「証拠ですか。それは今朝方、シーリザードが人間になった瞬間を目撃された方に喋ってもらうのが一番手っ取り早いでしょう」

 そう発言したチルの視線は、さっきから押し黙ったままのジョーイ皇子とデスプラン宰相に向けられる。
 一同がどよめく。

「ま、まさか……」

 二人の沈黙と脅えきった表情が全てを物語っていた。
 これ以上の説明はいらない。
 チルは事前に『地下牢に行けば面白いものが見られる。もし、御期待に添えなければ、私を好きなように処分してかまわない』という趣旨の手紙を、ジョーイ皇子とデスプラン宰相の二人に出していた。
 これに乗らない二人ではない。

 罠かも知れないと思いつつ、護衛の兵を十人引き連れて地下牢に足を運んだのは夜明け前のことだった。
 彼らが目当ての牢に辿り着いた時、そこに待機していた見張りの兵は既にショックのあまり腰を抜かしていた。
 まさに今、シーリザードが人へと戻ろうとしている瞬間に、ジョーイ皇子とデスプラン宰相は立ち会ったのだった。
 鱗だらけの藍色の体は謎の煙を出しながらドロドロに融けて、その中から人間の痩せ細った肌が見えている。
 頑丈に縛られたカタリウムの紐は二回りほど小さくなった体からスルリと抜け落ち、シーリザードの中から出てきた人間は意識不明のまま倒れ込んでいた。

「人化は既に済んでいます。人間に戻った男は牢から出し、今は衛生兵が世話をしています。まだ話せる状態にはありませんが、今後はその男からいろいろ証言が聞き出せるでしょう」
「……し、しかし、何故そのシーリザードは人の姿になったのです?」

 別の城中伯が声を震わせながら訊く。

「シーリザードを人に戻す唯一の方法は完全に絶食させることです。これで私が生け捕りを命じた理由を納得していただけるでしょう」

 チルはそう言い終えると、捕縛した当事者のヒエンを見た。

「……あ? ウチに発言権あんのか? ないんやったらコッチ見んな」

 庶民に過ぎない娘の暴言に勲章組は一斉に非難の言葉を浴びせたが、それを制したのは暴言を受けた当のチルだった。

「発言権はありますよ。ただ、今は黙ってなさい」

 ジョーイ皇子とデスプラン宰相のツートップを既に制圧した策士チルは、いよいよ確信に触れる。

「皆様方は思うでしょうね。『何故、あの女はそこまでシーリザードを熟知しているのか?』と。お答えしましょう。それは、
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