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introduction
climate
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オレ達の住む町――カムチャカはカスピアナ大陸最北だけあって、上着が欠かせないほど寒い。
ところが王都を境に南へ向かうにつれ、そこは常夏の領土と化すらしい。
実はこの気候差が治安に大きく関わっているという。
「清く正しく美しく」がモットー(?)であるこの世界の絶対神は、当然ながら如何なる犯罪に対しても厳格である……かと思いきや、そこに大きな盲点があった。”絶対”と謳いつつ、サーニは太陽神だ。
つまり、サーニの管轄外である太陽が昇らない夜になると犯罪率はグッと上がる。
その犯罪者の多くは悪魔と契約を交わした魔法使い(もしくは魔女)で構成されるんだけど、彼らとて弱点はある。それは短命であるということ。
悪魔自体は死なないにしても、魔法を使うには己の寿命を悪魔に捧げなければならないというハイリスク。
犯罪を犯すために己の命を削っては本末転倒……というワケで、彼らは滅多な事がない限り魔法は使わないようだ。
ところが、彼らには魔法以外にもう一つ、人間とは決定的に異なる特技があった。
それはどんな危険なヘビでも使役できるということ。
ヘビは主に温暖な気候に棲息する。
祖国イギリスにも何種類かいることはいるが、アジアやアフリカや南米に比べればその数は極端に少ない。
そう、ハワイよりも。
……よそう。
そのことを深く考えると、何故だかひどい頭痛がするから。
夜を支配するのは絶対神の不貞な妻――月神ルン。
悪魔の母であり、その”パートナー”となる者こそが暗黒蛇……つまり、ヘビの総大将である。
よって魔法使いらがヘビを自在に操ることができるのは当然の流れで、ヘビのいないカムチャカが比較的治安がいいのもそういう理由からだ。
と、町はずれのいつもの丘陵でカスピアナ国の”闇の部分”を幼馴染(今は妹だけど)に説明してやったところ、エリスは目を爛々と輝かせつつ、
「これでフラグが立ったっ!」と叫び出した。
「……何が?」
「え、わかんないっ? ボク達さ、ママのおなかにいる時、サーニ様からある贈り物をもらったよねっ? 覚えてるっ?」
貴様らは今後どんなヘビに咬まれても絶対に死なないのだ!
忘れてた。
あまりにくだらないスキルだから、頭に残らなかったんだ。
「言ってたな、そんなこと。……で、改めて訊くけど、どんなフラグが立ったって?」
「まだわかんないっ? ボク達、どんなヘビに対しても無敵な体持ってんだよっ?」
「だから?」
「『だから』っ? そこまで言わせるのっ? 職業だよっ。職業”正義の味方”! ヘビに対して無敵なんだから、みんながピンチの時に颯爽と現れていくらでもカッコイイセリフ言えるじゃん。『ボクの戦闘力は530000だよっ』とかさっ! くぅぅ~、ボク達TUEEEEE! チート最高っ!」
どこからきたんだ、その途方もない数字……。
「ヘビに対してソレ言うのか?」
「そうだよっ! 何か不満でもっ?」
何だろう。ハワイのことを考えてなくても頭痛がする。
オレはこめかみを押さえながら言ってやる。
「あのさ、その場にいる敵がヘビのみならヒーロー・ヒロイン気分に浸ってもいいよ。だけど、ヘビを使役してる魔法使いや大元の悪魔とはどうやって戦う積もりなんだ?」
「へ……?」
やっぱり硬直したか。
「オレ達はチートでも何でもないよ。それどころか今の体力のまんまじゃ、オレとエリスが二人掛かりで挑んだところで、半ニートのダル兄にさえ勝てやしないぞ。……何かオレ、全然背が伸びてないし」
本当にそうだ。
向こうでイギリス人やってた時の方がまだマシだった。
この世界の成人まで残り2年を切ったってのに……。
ちょっとばかり落ち込んでいたら、ショックから立ち直ったエリスがオレを見下ろして頭を撫でてきやがった。
「よしよし。ハークお兄ちゃん、あきらめたらそこで成長終了だよっ?」
「しょうがないだろ。大体オレ、家畜の安い乳で育てられ……って、いつまで上から撫でてんだッ!」
「何だよっ、励ましてあげてるのにっ!」
「侮辱以外何物でもないって!」
「卑屈になっちゃって。……じゃあ、今からでもママにおっぱい飲ませてもらったら?」
「いや、さすがにあの女、もう出ないだろ。てか、この年齢で頼んだらそれこそヘンタイじゃないかッ!」
「今更ソレ言うっ?」
「”今更”って言うなッ! オレは一度たりともヘンタイ行為はしたことないッ!」
「どうかなぁ」
エリスのジト目攻撃にもオレは怯まない。
「天に誓ってオレは潔白だ」
「ハークってさ、昔から巨乳が好きだったよねっ?」
「何だよ、藪から棒に? ”お兄ちゃん”はやめたのか?」
「今は昔の話してるからいいのっ! ほら、あのコだって大きかったもんね?」
「……あのコ?」
「惚けてるっ! インド系のコだよっ!」
インド系ときてすぐにピンときた。
「ああ、シャンティな。父親と一緒に日本へ行って『本場のカレー屋やるんだ』って言って……いや、待て。シャンティは巨乳じゃないぞ。寧ろMOSQUITO BITESの部類だよ。エリスほどじゃないけど」
「ふわああっ? ついに禁断の俗語を言ってしまったっ! このエロハークめっ!」
「お、お、落ち着け、ごめん、つい口が滑ったッ! 謝るッ! てか、誰と間違えてるんだ?」
「間違えてる……?」
オレの金髪を鷲掴みのまま、首を傾げるエリス。
「そんなことないよ。ボク、覚えてるもんっ。ハークと同じ金髪でそれに褐色の肌、スタイルよくて胸だけじゃなくおしりもプリプリしてて……」
だから誰なんだよ、ソイツ?
確かにシャンティはインド系イギリス人だから褐色だけど、髪は黒かったぞ……。
ところが王都を境に南へ向かうにつれ、そこは常夏の領土と化すらしい。
実はこの気候差が治安に大きく関わっているという。
「清く正しく美しく」がモットー(?)であるこの世界の絶対神は、当然ながら如何なる犯罪に対しても厳格である……かと思いきや、そこに大きな盲点があった。”絶対”と謳いつつ、サーニは太陽神だ。
つまり、サーニの管轄外である太陽が昇らない夜になると犯罪率はグッと上がる。
その犯罪者の多くは悪魔と契約を交わした魔法使い(もしくは魔女)で構成されるんだけど、彼らとて弱点はある。それは短命であるということ。
悪魔自体は死なないにしても、魔法を使うには己の寿命を悪魔に捧げなければならないというハイリスク。
犯罪を犯すために己の命を削っては本末転倒……というワケで、彼らは滅多な事がない限り魔法は使わないようだ。
ところが、彼らには魔法以外にもう一つ、人間とは決定的に異なる特技があった。
それはどんな危険なヘビでも使役できるということ。
ヘビは主に温暖な気候に棲息する。
祖国イギリスにも何種類かいることはいるが、アジアやアフリカや南米に比べればその数は極端に少ない。
そう、ハワイよりも。
……よそう。
そのことを深く考えると、何故だかひどい頭痛がするから。
夜を支配するのは絶対神の不貞な妻――月神ルン。
悪魔の母であり、その”パートナー”となる者こそが暗黒蛇……つまり、ヘビの総大将である。
よって魔法使いらがヘビを自在に操ることができるのは当然の流れで、ヘビのいないカムチャカが比較的治安がいいのもそういう理由からだ。
と、町はずれのいつもの丘陵でカスピアナ国の”闇の部分”を幼馴染(今は妹だけど)に説明してやったところ、エリスは目を爛々と輝かせつつ、
「これでフラグが立ったっ!」と叫び出した。
「……何が?」
「え、わかんないっ? ボク達さ、ママのおなかにいる時、サーニ様からある贈り物をもらったよねっ? 覚えてるっ?」
貴様らは今後どんなヘビに咬まれても絶対に死なないのだ!
忘れてた。
あまりにくだらないスキルだから、頭に残らなかったんだ。
「言ってたな、そんなこと。……で、改めて訊くけど、どんなフラグが立ったって?」
「まだわかんないっ? ボク達、どんなヘビに対しても無敵な体持ってんだよっ?」
「だから?」
「『だから』っ? そこまで言わせるのっ? 職業だよっ。職業”正義の味方”! ヘビに対して無敵なんだから、みんながピンチの時に颯爽と現れていくらでもカッコイイセリフ言えるじゃん。『ボクの戦闘力は530000だよっ』とかさっ! くぅぅ~、ボク達TUEEEEE! チート最高っ!」
どこからきたんだ、その途方もない数字……。
「ヘビに対してソレ言うのか?」
「そうだよっ! 何か不満でもっ?」
何だろう。ハワイのことを考えてなくても頭痛がする。
オレはこめかみを押さえながら言ってやる。
「あのさ、その場にいる敵がヘビのみならヒーロー・ヒロイン気分に浸ってもいいよ。だけど、ヘビを使役してる魔法使いや大元の悪魔とはどうやって戦う積もりなんだ?」
「へ……?」
やっぱり硬直したか。
「オレ達はチートでも何でもないよ。それどころか今の体力のまんまじゃ、オレとエリスが二人掛かりで挑んだところで、半ニートのダル兄にさえ勝てやしないぞ。……何かオレ、全然背が伸びてないし」
本当にそうだ。
向こうでイギリス人やってた時の方がまだマシだった。
この世界の成人まで残り2年を切ったってのに……。
ちょっとばかり落ち込んでいたら、ショックから立ち直ったエリスがオレを見下ろして頭を撫でてきやがった。
「よしよし。ハークお兄ちゃん、あきらめたらそこで成長終了だよっ?」
「しょうがないだろ。大体オレ、家畜の安い乳で育てられ……って、いつまで上から撫でてんだッ!」
「何だよっ、励ましてあげてるのにっ!」
「侮辱以外何物でもないって!」
「卑屈になっちゃって。……じゃあ、今からでもママにおっぱい飲ませてもらったら?」
「いや、さすがにあの女、もう出ないだろ。てか、この年齢で頼んだらそれこそヘンタイじゃないかッ!」
「今更ソレ言うっ?」
「”今更”って言うなッ! オレは一度たりともヘンタイ行為はしたことないッ!」
「どうかなぁ」
エリスのジト目攻撃にもオレは怯まない。
「天に誓ってオレは潔白だ」
「ハークってさ、昔から巨乳が好きだったよねっ?」
「何だよ、藪から棒に? ”お兄ちゃん”はやめたのか?」
「今は昔の話してるからいいのっ! ほら、あのコだって大きかったもんね?」
「……あのコ?」
「惚けてるっ! インド系のコだよっ!」
インド系ときてすぐにピンときた。
「ああ、シャンティな。父親と一緒に日本へ行って『本場のカレー屋やるんだ』って言って……いや、待て。シャンティは巨乳じゃないぞ。寧ろMOSQUITO BITESの部類だよ。エリスほどじゃないけど」
「ふわああっ? ついに禁断の俗語を言ってしまったっ! このエロハークめっ!」
「お、お、落ち着け、ごめん、つい口が滑ったッ! 謝るッ! てか、誰と間違えてるんだ?」
「間違えてる……?」
オレの金髪を鷲掴みのまま、首を傾げるエリス。
「そんなことないよ。ボク、覚えてるもんっ。ハークと同じ金髪でそれに褐色の肌、スタイルよくて胸だけじゃなくおしりもプリプリしてて……」
だから誰なんだよ、ソイツ?
確かにシャンティはインド系イギリス人だから褐色だけど、髪は黒かったぞ……。
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