イルカノスミカ

よん

文字の大きさ
23 / 30
金曜日

水着で金曜日 4

しおりを挟む
 水着を干し、制服を脱いでTシャツ短パンの寝着になる。
 もうクタクタの腹ペコだ。
 それでいて眠れそうにもない。悩める脳がそれを許さないから。
 今までは学校のサイクルがあったからまだよかった。
 授業と体育祭の練習と部活が時間内にミッチリ詰まってたから、その流れで気分がまぎれた部分がある。

 でも、明日は休み。部活だけ。
 その部活にも果たして出られるだろうか?
 正念場を迎えたあたしは、もはや結論を出さないままプールで泳いでる場合じゃなくなった。
 そもそも泳げもしないし。

 いよいよリミットが近づいてる。
 いつまでもこのままじゃいられない。
 なのに、あたしの中ではこっそり家を出たあの火曜日の明け方と何も変わってない。

 あたし、優柔不断なのかな?

 例えば、ノン様があたしと同じ立場ならスパッと決断できただろうか。
 景子は? 美鈴は? 
 玲ちゃんや美智子やカオリンや渡辺ならパパパッと割り切って答えが出せるの?

 あたしは……無理だよ。

 そんなドライな性格じゃない。
 だって、父さんも母さんも大好きだったからね。
 三人で過ごしたあの空間が十七歳のあたしには全てだったんだ。
 一人でも欠けたらダメ。
 一人加わっても歪みが生じる。
 それが同時に起きた。
 分裂してそれぞれ結合した。
 しかも事後報告。
 もうあの三人家族は遠い昔。
 哀しいことに、あたしだけが何も知らずにその三人家族を愛してたんだ。
 父さんも母さんも、ブースターを切り離して宇宙へ飛んでいくスペースシャトルみたいなもの。
 勿論、あたしは役目を終えたブースター。
 二人は義務感でブースターを回収しようとしてる。
 回収しなければ不法投棄、海でプカプカ浮いたままだもん。

 あたし、ゴミだ。

「このゴミを出したのは誰だ?」

 父さんも母さんも社会的責任を問われないために、仕方なくあたしの回収に乗り出すだけ。
 大人達は父さん母さんを弁護するだろうね。子を大切に思わない親はないって……。

 そして、怒られるのはこのあたしなんだ。

 家出は反社会的行動で離婚はごくごく普通の社会現象。
 ……やっぱ納得いかないなあ。

 自分をゴミだと卑下して生きればいいの?
 回収していただいてありがとうございますって頭下げてさ……そんなの絶対にヤだよ。
 子供である自分が歯がゆい。
 早く大人になって遠いところに引っ越しして一人で生きたいな。
 家出したあたしは多くの人達に助けてもらった。
 東高の先生、みんな忙しいのにあたしのためだけに尽力をつくしてくれて……ホント感謝の言葉もない。

 でもね、彼らはやっぱり大人なんだ。

 根本的に立場が違う。
 キヅラガワを除いて直接何も言わないけれど、心の底ではあたしの誤りを正そうとしてる。
 そして、あたしは自分が誤ってるとは思ってない。
 この隔たりは大きい。


 掛け時計を見る。

 九時ジャスト。
 ちょうど四日前の今頃、父さんがあたしの部屋をノックしたんだ。
 あれから激変したあたしの生活。
 どう転んでももう元の暮らしには戻れない。
 早く電気を消さなきゃ。
 そう思いながら、あたしはスイッチに手を触れたまま木札の群れを見てる。


 どういうつもり……?


 陥れるとかそんなんじゃないのはわかるけどさ。
 そりゃ嬉しいよ。
 藁にでも縋りたいところに、これ以上ないくらいの立派な救命ボートが流れてきたんだもん。

 でも、緊張する。

 あたしにほんのちょっと勇気があったら……頑張れ、あたし!

 アイツは大人じゃない。
 あたしと同じ十七歳。あたし側の人間なんだ。
 意識するな。
 ヘンに意識するから緊張するんだよ。
 別に救命ボートに乗ったからって男女の一線を越えるワケじゃないし。

 ヤバイ……。

 また心臓がドキドキしてきた。
 こんなんじゃダメだ。救命ボートに乗る前に死んじゃいそう。 
 あんなヤツを意識してる自分自身に腹が立つ!

 何だよ!
 たかがワッシーじゃん! オスの糸目コケシじゃん!
 顔真っ赤になる対象じゃないだろ!

 いいよ、応えてあげる。

 アンタもそこそこ勇気出してこんな馬鹿なことしてくれたんだろうからさ。
 ここでスルーしたら、それこそあたしとワッシーの関係は崩れてしまう。
 ……それだけはイヤ。

 あたしはワッシーの木札を外して、それを持ったまま電気を消した。

 布団に入ってパカパカケータイを開く。
 ディスプレイの明るさでハッキリ見える。
 カリカリ君のストラップにちょっと和んだ。
 あたしは木札の裏の紙テープに書かれた十一の数字を、震える指先で慎重に入力する。

 そして、ついにプルルの呼び出し音。

 手からじんわりと汗。

 喉がカラカラ。

 息が……胸が……苦しい。


 出るな……出て……出るな……出て……出るな……出て……早く出てよ。


 出て……お願い……あたしを助けて………………




『もしもし』


(あ……)

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

旦那様。私が悪女ならば、愛人の女は何になるのかしら?

白雲八鈴
恋愛
 我が公爵家主催の夜会の最中。夫が愛人を連れてやってきたのです。そして、私を悪女という理由で離縁を突きつけてきました。  離縁して欲しいというのであれば、今まで支援してきた金額を全額返済していただけません?  あら?愛人の貴女が支払ってくれると?お優しいわね。  私が悪女というのであれば、妻のいる夫の愛人に収まっている貴女は何なのかしら?

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
【3月中ーー完結!!】 私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 二十年の裏切りの果て、その事実だけを抱え、離縁状を置いて家を出た。 そこで待っていたのは、凍てつく絶望――。 けれど同時に、それは残酷な運命の扉がひらく瞬間でもあった。 夫は愛人と共に好きに生きればいい。 今さら「本当に愛していたのは君だ」と縋られても、 死の淵を彷徨った私には、裏切ったあなたを許す力など残っていない。 「でも、子供たちの心だけは、 必ず取り戻す」 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 過去を悔い、歪な愛でもいいと手を伸ばした彼女が辿り着いた先。 それは、「歪で、完全な幸福」か、それとも――。 これは、"石"に翻弄された者たちの、狂おしい物語。

処理中です...