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第4章  心が足んない

心が足んない 3

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「拓海様はハーフ・インキュバス、人でも物でもありません。ですが……」

 花子さんは静かにそう言った。

「私は無機物をこよなく愛します。彼らの心にエゴや虚栄はありませんから」
「……」
「かつて私の愛した夫達にそれがあるとすれば、それは私の中に潜む感情が投影されただけなのです。……人は醜いです。私を含めて」

 僕は無機物じゃない。婉曲に責められてるんだ。

 目から鱗が落ちる思いだ。
 どうして気づかなかったんだろう。自分で汚してしまったズボンとパンツのその後のことを……。
 ああなった時点で、それがないものと僕は勝手に考えてた。
 でも実際、僕自身それを処分してない。無意識のまま、クリェーシェルさんに全てを委ねてしまってた。

 今、僕が穿いてるパンツとズボンはヘンリーさんがくれた物だ。
 そのヘンリーさんの好意に感謝もしないで、それどころかあの人を蔑んですらいる。

 ……最低なのはこの僕だ。
 
 少なくとも、あの人はクリェーシェルさんという素敵な女性に愛されてる。
 僕はどうだ?
 軽蔑する人はいても、好きになってくれる人はいやしない。
 それだけの魅力がないからね。
  
 僕は何も知らないおぼっちゃまだ。自分のことしか見えてない。



「ねえ、王子様。もし今日中に二人の仲間が見つかったら、やっぱりそのまま帰っちゃう?」



 それに対し、僕は何と答えた?

 ひどいな。
 初対面にもかかわらず、あれだけもてなしてくれた相手に……。
 
 僕には……そう、心が足んない。

「拓海様、どうしたにゃんか?」

 合流したばかりでうまく事態を飲み込めない猫助、不思議そうな顔で僕を見つめてる。

「うん、ちょっと自己嫌悪に陥ってた」

 彼女の髪についてる物を取り除きながら、僕は力なくそう答えた。

 このまま落ち込んでもいられない。
 早くこの世界から出たいとは思う。

 でも、それは三人目の女の子を見つけてからの話だ。
 ヘンリーさんに言われたもんな。だったら実行しなきゃ!

「花子さん」
「何でしょうか?」
「僕も仲間に加えてくれませんか? 臨時の仲間ですが。今回、リップアーマーの原材料を一緒に手に入れて、みんなと元の世界に戻るまで協力させてください」
「私の発言なら気にしないでください。拓海様は部外者のまま、ここから出てしまえばよいのです。出口をお教えしましょう。ここからすぐですよ」

 目つきがわからないのに、それでいて氷のような冷たい表情だ。

「つまり、『帰れ』と?」
「はい」
「それは命令ですか?」
「拓海様の当初の希望です。命令など致しません」
「じゃあ、帰りません。時間は流れてる。だったら考えだって変わりますよ」

 花子さんはそれ以上何も言わなかった。
 でも気のせいか、その表情が少し和らいだ気がした。ほんの少しだけど。

 何がどうなってるかわかってない猫助は小首を傾げる。

「そういや、はにゃん、もうオイルゲットしたにゃんか?」
「まだです。あの方を捜す道すがら手に入れようと思っています」

 はにゃん……花子さんのことか?

 ああ、今になって思い出した。
 クリェーシェルさんの部屋にティッシュ忘れてきちゃった。
 白いの出したくなったらどうしよう……。節分豆も全部食べちゃったし。
 
 僕の二大必須アイテムが手元にない。ものすごく不安だ。

 
 でも大丈夫だよな。

 僕の隣には花子さんと猫助がいるんだから。
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