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第12章 物足んねえ

物足んねえ 1

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 サルガタナスにもらった鍵以外、完全に手ぶらだ。

 ……今んとこな。

 俺は頭に統治の王冠クラウンを戴いている。いつまでも手で持ち歩くのは邪魔くせえ。
 これから目指すその場所にコイツが何の役にも立たねえのはわかってる。対象となる半悪魔はそこにいねえ。タダの飾りだ。
 だけど、部屋に置いていくワケにもいかねーし、異世界じゃ名刺代わりには持って来いだろ。俺、魔王トップ目指してますって自己主張、カッコよくね?

 それによ、アイツの気持ちを無駄にしたくねーしな。



 花子の魂は永遠に拓海様の元へ……我が夫と共に



 おい、ダメ亭主。
 仮にもオメーは魔具……悪魔が手掛けた道具だろ?
 だったら、少しは俺に魔力を授けやがれ! 期待はしてねーが。

 そのダメ亭主をゲットするためダンジョンに挑んだパーティから、ガラリと編成が変わっちまった。
 今回は幾分か攻撃的だ。つーより、前回のメンバーは誰一人として武装してねえし。
 ドサクサまぎれに懐中電灯投げるってどんだけヘタレだ!


 黒リータ

 ゴスロリファッションに花子の割れた眼鏡……コイツも俺同様に魔具を持ってやがる。
 挿げ替えのメス……元ケットシーの悪魔(アンドリューだっけ?)から借りパクした物だ。
 コレはコレで役立つだろう。少なくとも、俺の王冠よりはずっとな。
 それよりも着目すべき点……恐るべきことにコイツはほぼ不死身だ。
 元々、コイツは死人の寄せ集め、言うなればアンデッドだ。
 自己再生能力はないが挿げ替えのメスがある限り、コイツはいろんな姿に化けることができる。


 白衛門

 その巨体にはまだ白鬼もくっついているだろう。どんだけ残っているかは知らねーが。
 コイツには部屋の分と、小園に集めさせた屋敷中のティッシュBOXを詰め込んだ段ボールを持たせている。
 向こうの世界じゃティッシュなんてねーだろうし、そのティッシュを使用する度に増えていくんだ。ティッシュマスターに必要な弾丸がな。
 決して、エロ目的だけでオナニーすんじゃねえから。


 小園

 完全に宇宙服を脱いだその姿はスレンダーで、見るからに敏捷そうだ。
 凛としたその表情、だんだん見慣れてきたぜ。俺の命令に従い、その首からは翡翠のペンダントが外されている。
 そして、スレンダーだけあって残念ながらまたも貧乳……。
 望海と猫助はまだ14歳だから将来的に育つ可能性があるとして、割腹した花子もやはり乳がなかった。偶然だろうが俺の知る限り、岩清水家のメイドは全員そうだ。
 まあいい。巨乳より貧乳の方が絞め技が極まりそうだしな。
 黒の柔術着に紫の帯……何だ、黒帯じゃねーのかよ? そう訊いたら、基本的に19歳にならないと黒帯の資格はないそうだ。

「このストライプを一本いただくだけでも大変なのですよ?」

 16歳で柔術から距離を置いた小園、紫帯の端を摘んで俺に見せる。
 三本あるな。四本で茶帯にリーチ?
 てことはなかなか凄いじゃねーか。何でやめたんだ?
 黒の道着に紫の帯、そこまではいい。
 足元に目を移すと、どピンクのスニーカー……コイツの色彩感覚ひでえ。
 ソレあえてチョイスするか? ダサ過ぎんだろ……などと、中学校指定の上下紺ジャージ着用している俺が言えた義理じゃねーな。


 以上、俺の子分。
 俺の新たな盾だ。本気で盾として使うつもりはねーが。



「じゃあ、準備いいな? 忘れ物取りに行くなら今のうちだぜ?」

 小園がフルフル首を振る。
 荷物は黄色の小さなリュック一つだけに纏めている。生理用品とか大丈夫か……てか、原色好きだなオイ!
 白衛門や黒リータには忘れる物など最初からない。
 その白衛門が尤もな質問をぶつけてくる。

「はて? 鍵はあれど、扉はどこにも見当たらぬでござるが?」  

 実は俺もそう思っていた。

「そんなもん適当な空間にブッ刺せばいいんだろ? もしそれでダメなら、何の説明もしねーあの狸ジジイが悪いんだ。だが、ちょっと待ってくれ」

 俺は白衛門を見て、意味ありげに笑う。

「俺にはこれからやることがある」
「ま、まさか……」

 驚いてやがる。表情もねえクセに。

「オメーらに守ってもらおうとは思っちゃいねーよ。俺はそんなにひ弱くねえ。我が身くらいテメーで守るぜ」

 見てろよ、”僕ちゃん”。
 低級魔界でのオメーのヘタレっぷり、思い通りになんねえ自分の体が歯痒く腹が立ったぜ。反吐が出るほどにな!

 やっとリミッターが外れたんだ。……14年、長かったぜ。
 咲柚の足枷がなくなった今、俺はもう止まんねえぞ!







 でよ、我がしもべ! 汝、我を守護せよ!







 まじないごとを唱えると、グンニャリ時空が歪んでソイツが現れた。

 ……けっ、ビビッたか? 

 声も聞かず強引に第三のスペル魔を召喚したぜ。



 声を聞かないと主従関係に歪みが生じる?
 スペル魔に本体を乗っ取られるだと?


 馬鹿野郎がッ!


 既に乗っ取ってんだよ、



 フローリングへ垂直に突き刺さった一本の日本刀。
 刀身は勿論のこと、柄も鍔も全面ティッシュ製。俺の精子がしこたま染み込んでいる。
 つまり、俺の魂魄がここに宿っている。
 日本刀だけに、コイツがいつ俺に刃向かうか……まあ、そん時はそん時だな。

 鞘さえないその得物を力任せに抜き取ると、俺は早速ソイツに名前をつけた。



「これからオメーに目障りな豚共をタップリ斬ってもらうぜ。”白虎丸びゃっこまる”よ」


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