ティッシュが足んない ~などとサキュバスの息子のムスコが意味不明な供述をしており~

よん

文字の大きさ
175 / 176
第18章 足んねえ者同士

僕は僕

しおりを挟む
 僕は……僕だ。
 
 この尤も至極な真理に、僕は今にして漸く辿り着けた。
 咲柚さんがこの僕を産んだ瞬間から、僕は”岩清水拓海”そのものになった。
 ところが”岩清水拓海”の中には、僕とは異なる”俺”が潜在的に棲みついていた。転生でありながら僕に寄生しているグゼゲドフ――その真実を知ったのはそんなに昔じゃない。
 そして、花子さんの自害がきっかけで僕と俺は立場が逆転したんだ。

 絶望のあまり、僕は僕であること……いや、生きることを放棄した。
 自ら命を絶つ行為に及ばずとも、表裏逆転を虎視眈々と狙っていた”俺”――偽拓海によってその体を乗っ取られてしまった。僕は死ねないまま、14年も潜っていたグゼゲドフに代わって裏として燻り続けることを余儀なくされた。

 その後の偽拓海の大胆かつ打算的な行動力は、この僕じゃ到底できないことばかり。
 危険なスペル魔の召喚だって躊躇なくやってたし、黒リータに小園さんにアンドリュー……それに何人もの舵輪ラットや大鴉との激しいやり取りなんかもね。

 結果的に道は開かれ、そして”岩清水拓海”は魔王へと一歩近づいた。

 ただし、皮肉なことにそれを切に望んでいた偽拓海は今やこの世にいない。
 更には偽どころか”岩清水拓海”そのものまで消え失せてしまった。

 僕が僕を食べてしまったから。

 味なんて感じない。
 ただただ、吐き気を催しながらも僅かに残っていた鴉王の本能が最も身近な人肉を僕に食べさせたんだ。
 それは食事という観点からではなく”ティッシュマスター”の能力を手に入れるため、という意味合いも含まれていたのだろう。

 この究極のカニバリズムが済むと、その本能も完全になくなった。

 ”岩清水拓海”がこの世に存在しない以上、僕はもはや表でも裏でもない。


 僕は鴉王ぼくなんだ。


 その僕がこれからやるべきこと……いつまでも感傷に耽り血に染まる海底で考え込んでも事は何も進まない。

 統治の王冠クラウンこと花子さん

 スペル魔である白虎丸

 彼らは鴉王となった今の僕に合わせるべく、己の大きさを変えて仕えている。
 片や魔力で、片や使用済みティッシュを吸収して。


 だったら僕自身、図体だけでなく心も大きくならなきゃ。
 

 岩清水邸の地下室に潜入して以降、低級魔界、孤児院のダンジョン、そしてここ多島海アーキペラゴに至るまで……僕は常に傍観者、若しくはそれに近い存在に過ぎなかった。

 そろそろこの冒険を自らの手で幕引きさせなければならない。
 次のステージに進まなきゃね。
 非業の死を遂げた”岩清水拓海”のためにも。


 それにはまず、僕の母――咲柚さんに会って報告しなきゃなんない。
 その手段は……鴉王ぼくの育ての母――大鴉が知ってるだろう。

 ここが海でよかったよ。

 塩辛い涙を味わったら、それこそ僕は”喪失感”という水圧でペシャンコにされていただろうから。
 

  
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

王宮メイドは今日も夫を「観察」する

kujinoji
恋愛
「はぁぁ〜!今日も働くヴィクター様が尊すぎる……!」 王宮メイドのミネリは、今日も愛しの夫ヴィクターを「観察」していた。 ヴィクターが好きすぎるあまり、あますところなく彼を見つめていたいミネリ。内緒で王宮メイドになり、文官である夫のもとに通うことに。 だけどある日、ヴィクターとある女性の、とんでもない場面を目撃してしまって……? ※同じものを他サイトにて、別名義で公開しています。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

処理中です...