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第18章 足んねえ者同士
僕は僕
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僕は……僕だ。
この尤も至極な真理に、僕は今にして漸く辿り着けた。
咲柚さんがこの僕を産んだ瞬間から、僕は”岩清水拓海”そのものになった。
ところが”岩清水拓海”の中には、僕とは異なる”俺”が潜在的に棲みついていた。転生でありながら僕に寄生しているグゼゲドフ――その真実を知ったのはそんなに昔じゃない。
そして、花子さんの自害がきっかけで僕と俺は立場が逆転したんだ。
絶望のあまり、僕は僕であること……いや、生きることを放棄した。
自ら命を絶つ行為に及ばずとも、表裏逆転を虎視眈々と狙っていた”俺”――偽拓海によってその体を乗っ取られてしまった。僕は死ねないまま、14年も潜っていたグゼゲドフに代わって裏として燻り続けることを余儀なくされた。
その後の偽拓海の大胆かつ打算的な行動力は、この僕じゃ到底できないことばかり。
危険なスペル魔の召喚だって躊躇なくやってたし、黒リータに小園さんにアンドリュー……それに何人もの舵輪や大鴉との激しいやり取りなんかもね。
結果的に道は開かれ、そして”岩清水拓海”は魔王へと一歩近づいた。
ただし、皮肉なことにそれを切に望んでいた偽拓海は今やこの世にいない。
更には偽どころか”岩清水拓海”そのものまで消え失せてしまった。
僕が僕を食べてしまったから。
味なんて感じない。
ただただ、吐き気を催しながらも僅かに残っていた鴉王の本能が最も身近な人肉を僕に食べさせたんだ。
それは食事という観点からではなく”ティッシュマスター”の能力を手に入れるため、という意味合いも含まれていたのだろう。
この究極のカニバリズムが済むと、その本能も完全になくなった。
”岩清水拓海”がこの世に存在しない以上、僕はもはや表でも裏でもない。
僕は鴉王なんだ。
その僕がこれからやるべきこと……いつまでも感傷に耽り血に染まる海底で考え込んでも事は何も進まない。
統治の王冠こと花子さん
スペル魔である白虎丸
彼らは鴉王となった今の僕に合わせるべく、己の大きさを変えて仕えている。
片や魔力で、片や使用済みティッシュを吸収して。
だったら僕自身、図体だけでなく心も大きくならなきゃ。
岩清水邸の地下室に潜入して以降、低級魔界、孤児院のダンジョン、そしてここ多島海に至るまで……僕は常に傍観者、若しくはそれに近い存在に過ぎなかった。
そろそろこの冒険を自らの手で幕引きさせなければならない。
次のステージに進まなきゃね。
非業の死を遂げた”岩清水拓海”のためにも。
それにはまず、僕の母――咲柚さんに会って報告しなきゃなんない。
その手段は……鴉王の育ての母――大鴉が知ってるだろう。
ここが海でよかったよ。
塩辛い涙を味わったら、それこそ僕は”喪失感”という水圧でペシャンコにされていただろうから。
この尤も至極な真理に、僕は今にして漸く辿り着けた。
咲柚さんがこの僕を産んだ瞬間から、僕は”岩清水拓海”そのものになった。
ところが”岩清水拓海”の中には、僕とは異なる”俺”が潜在的に棲みついていた。転生でありながら僕に寄生しているグゼゲドフ――その真実を知ったのはそんなに昔じゃない。
そして、花子さんの自害がきっかけで僕と俺は立場が逆転したんだ。
絶望のあまり、僕は僕であること……いや、生きることを放棄した。
自ら命を絶つ行為に及ばずとも、表裏逆転を虎視眈々と狙っていた”俺”――偽拓海によってその体を乗っ取られてしまった。僕は死ねないまま、14年も潜っていたグゼゲドフに代わって裏として燻り続けることを余儀なくされた。
その後の偽拓海の大胆かつ打算的な行動力は、この僕じゃ到底できないことばかり。
危険なスペル魔の召喚だって躊躇なくやってたし、黒リータに小園さんにアンドリュー……それに何人もの舵輪や大鴉との激しいやり取りなんかもね。
結果的に道は開かれ、そして”岩清水拓海”は魔王へと一歩近づいた。
ただし、皮肉なことにそれを切に望んでいた偽拓海は今やこの世にいない。
更には偽どころか”岩清水拓海”そのものまで消え失せてしまった。
僕が僕を食べてしまったから。
味なんて感じない。
ただただ、吐き気を催しながらも僅かに残っていた鴉王の本能が最も身近な人肉を僕に食べさせたんだ。
それは食事という観点からではなく”ティッシュマスター”の能力を手に入れるため、という意味合いも含まれていたのだろう。
この究極のカニバリズムが済むと、その本能も完全になくなった。
”岩清水拓海”がこの世に存在しない以上、僕はもはや表でも裏でもない。
僕は鴉王なんだ。
その僕がこれからやるべきこと……いつまでも感傷に耽り血に染まる海底で考え込んでも事は何も進まない。
統治の王冠こと花子さん
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彼らは鴉王となった今の僕に合わせるべく、己の大きさを変えて仕えている。
片や魔力で、片や使用済みティッシュを吸収して。
だったら僕自身、図体だけでなく心も大きくならなきゃ。
岩清水邸の地下室に潜入して以降、低級魔界、孤児院のダンジョン、そしてここ多島海に至るまで……僕は常に傍観者、若しくはそれに近い存在に過ぎなかった。
そろそろこの冒険を自らの手で幕引きさせなければならない。
次のステージに進まなきゃね。
非業の死を遂げた”岩清水拓海”のためにも。
それにはまず、僕の母――咲柚さんに会って報告しなきゃなんない。
その手段は……鴉王の育ての母――大鴉が知ってるだろう。
ここが海でよかったよ。
塩辛い涙を味わったら、それこそ僕は”喪失感”という水圧でペシャンコにされていただろうから。
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