175 / 176
第18章 足んねえ者同士
僕は僕
しおりを挟む
僕は……僕だ。
この尤も至極な真理に、僕は今にして漸く辿り着けた。
咲柚さんがこの僕を産んだ瞬間から、僕は”岩清水拓海”そのものになった。
ところが”岩清水拓海”の中には、僕とは異なる”俺”が潜在的に棲みついていた。転生でありながら僕に寄生しているグゼゲドフ――その真実を知ったのはそんなに昔じゃない。
そして、花子さんの自害がきっかけで僕と俺は立場が逆転したんだ。
絶望のあまり、僕は僕であること……いや、生きることを放棄した。
自ら命を絶つ行為に及ばずとも、表裏逆転を虎視眈々と狙っていた”俺”――偽拓海によってその体を乗っ取られてしまった。僕は死ねないまま、14年も潜っていたグゼゲドフに代わって裏として燻り続けることを余儀なくされた。
その後の偽拓海の大胆かつ打算的な行動力は、この僕じゃ到底できないことばかり。
危険なスペル魔の召喚だって躊躇なくやってたし、黒リータに小園さんにアンドリュー……それに何人もの舵輪や大鴉との激しいやり取りなんかもね。
結果的に道は開かれ、そして”岩清水拓海”は魔王へと一歩近づいた。
ただし、皮肉なことにそれを切に望んでいた偽拓海は今やこの世にいない。
更には偽どころか”岩清水拓海”そのものまで消え失せてしまった。
僕が僕を食べてしまったから。
味なんて感じない。
ただただ、吐き気を催しながらも僅かに残っていた鴉王の本能が最も身近な人肉を僕に食べさせたんだ。
それは食事という観点からではなく”ティッシュマスター”の能力を手に入れるため、という意味合いも含まれていたのだろう。
この究極のカニバリズムが済むと、その本能も完全になくなった。
”岩清水拓海”がこの世に存在しない以上、僕はもはや表でも裏でもない。
僕は鴉王なんだ。
その僕がこれからやるべきこと……いつまでも感傷に耽り血に染まる海底で考え込んでも事は何も進まない。
統治の王冠こと花子さん
スペル魔である白虎丸
彼らは鴉王となった今の僕に合わせるべく、己の大きさを変えて仕えている。
片や魔力で、片や使用済みティッシュを吸収して。
だったら僕自身、図体だけでなく心も大きくならなきゃ。
岩清水邸の地下室に潜入して以降、低級魔界、孤児院のダンジョン、そしてここ多島海に至るまで……僕は常に傍観者、若しくはそれに近い存在に過ぎなかった。
そろそろこの冒険を自らの手で幕引きさせなければならない。
次のステージに進まなきゃね。
非業の死を遂げた”岩清水拓海”のためにも。
それにはまず、僕の母――咲柚さんに会って報告しなきゃなんない。
その手段は……鴉王の育ての母――大鴉が知ってるだろう。
ここが海でよかったよ。
塩辛い涙を味わったら、それこそ僕は”喪失感”という水圧でペシャンコにされていただろうから。
この尤も至極な真理に、僕は今にして漸く辿り着けた。
咲柚さんがこの僕を産んだ瞬間から、僕は”岩清水拓海”そのものになった。
ところが”岩清水拓海”の中には、僕とは異なる”俺”が潜在的に棲みついていた。転生でありながら僕に寄生しているグゼゲドフ――その真実を知ったのはそんなに昔じゃない。
そして、花子さんの自害がきっかけで僕と俺は立場が逆転したんだ。
絶望のあまり、僕は僕であること……いや、生きることを放棄した。
自ら命を絶つ行為に及ばずとも、表裏逆転を虎視眈々と狙っていた”俺”――偽拓海によってその体を乗っ取られてしまった。僕は死ねないまま、14年も潜っていたグゼゲドフに代わって裏として燻り続けることを余儀なくされた。
その後の偽拓海の大胆かつ打算的な行動力は、この僕じゃ到底できないことばかり。
危険なスペル魔の召喚だって躊躇なくやってたし、黒リータに小園さんにアンドリュー……それに何人もの舵輪や大鴉との激しいやり取りなんかもね。
結果的に道は開かれ、そして”岩清水拓海”は魔王へと一歩近づいた。
ただし、皮肉なことにそれを切に望んでいた偽拓海は今やこの世にいない。
更には偽どころか”岩清水拓海”そのものまで消え失せてしまった。
僕が僕を食べてしまったから。
味なんて感じない。
ただただ、吐き気を催しながらも僅かに残っていた鴉王の本能が最も身近な人肉を僕に食べさせたんだ。
それは食事という観点からではなく”ティッシュマスター”の能力を手に入れるため、という意味合いも含まれていたのだろう。
この究極のカニバリズムが済むと、その本能も完全になくなった。
”岩清水拓海”がこの世に存在しない以上、僕はもはや表でも裏でもない。
僕は鴉王なんだ。
その僕がこれからやるべきこと……いつまでも感傷に耽り血に染まる海底で考え込んでも事は何も進まない。
統治の王冠こと花子さん
スペル魔である白虎丸
彼らは鴉王となった今の僕に合わせるべく、己の大きさを変えて仕えている。
片や魔力で、片や使用済みティッシュを吸収して。
だったら僕自身、図体だけでなく心も大きくならなきゃ。
岩清水邸の地下室に潜入して以降、低級魔界、孤児院のダンジョン、そしてここ多島海に至るまで……僕は常に傍観者、若しくはそれに近い存在に過ぎなかった。
そろそろこの冒険を自らの手で幕引きさせなければならない。
次のステージに進まなきゃね。
非業の死を遂げた”岩清水拓海”のためにも。
それにはまず、僕の母――咲柚さんに会って報告しなきゃなんない。
その手段は……鴉王の育ての母――大鴉が知ってるだろう。
ここが海でよかったよ。
塩辛い涙を味わったら、それこそ僕は”喪失感”という水圧でペシャンコにされていただろうから。
0
あなたにおすすめの小説
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!
くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作)
異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。
それは、最強の魔道具だった。
魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく!
すべては、憧れのスローライフのために!
エブリスタにも掲載しています。
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
【番外編】貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。
譚音アルン
ファンタジー
『貴族令嬢に生まれたからには念願のだらだらニート生活したい。』の番外編です。
本編にくっつけるとスクロールが大変そうなので別にしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる