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その13・取り残された筑前煮は、ひっそりと美味しくなる
今日は友達とゴハンを食べるから、と、朝ごはんの時、いとちゃんに告げた。
いとちゃんはトーストを食べながら、眠たそうな顔で、ふうん、とだけ答えた。その無感動そうな様子が、ちょっと物足りなかった。
学校の友達と、晩御飯を食べる。
今までのわたしにはなかったことだ。「友達」という単語が飛び出すことも、今までなかったはずだ。
「えっ、友達できたんだ。良かったね。今度うちに連れておいでよ」
と、一緒に喜んでくれたり、
「ふーん、友達……」
と、妬ましいのを必死に隠して、無表情を装って横を向くなどの反応は、いとちゃんには期待できなかった。
(そもそも、いとちゃんは友達が欲しいと思ったことがあるんだろうか)
いとちゃんのための作り置きのために、朝から筑前煮を作っている。ごとごとと鍋は小気味よい音を立て始め、ダシの匂いが台所中に漂っていた。
いとちゃんは高野豆腐が好きだから、筑前煮には細かくした高野豆腐を入れる。肉じゃがにも入れる。かさましになるので、なかなか安上がりな食の好みだ。
炊飯器に夕食と、明日の朝の分に当たる量のお米をセットして、タイマーにしておいた。
できあがった筑前煮は少し冷ましてから冷蔵庫に鍋ごと突っ込んで行こう。今日も暑くなるので、できあがったままの鍋を放置していたら、晩になるまで傷んでしまうかもしれない。
さく、さく、とトーストを噛む音を背後で聴きながら、わたしは筑前煮の煮詰まり具合を見て、コンロの火を止めた。
ぶつぶつと沸騰はしばらく続いていたが、やがて豊かな湯気を吐き出しながら表面は穏やかになる。濃い色の出汁から顔を出す根菜と鶏肉と高野豆腐が賑やかだ。
あっつあつの、できたての筑前煮。
おいしそうだけど、もうちょっと時間を置いてから食べたほうが、味が染みているはず。
煮物は出来立てよりも、少し冷めてからのほうが良い。その、煮物という料理の、「こっちの仕事は終わった。後は、任せた」という感じが凄く好きだ。時間が調味料になるところが、エコだと思う。
わたしもトーストを食べた。
いとちゃんはもぐもぐと頬張っていたが、わたしが席についた時、一瞬、眉をぎゅっとひそめた。
「んー……」
呻くようでもあり、あくびをかみ殺すような音でもある、なんともいない声を吐き出して、いとちゃんはしばらく無言だった。ぎゅうっと眉をひそめたまま、なにか嫌な虫でも見つけてしまった時のように、目を逸らしたいけれど逸らせない、といった様子で、視線を一点に釘づけていた。
流しの明かりとりの小窓から朝の光が差し込んでいる。
夏らしい明るさが台所を満たしていて、手元の影も柔らかだった。テーブルの片隅で栽培しているプチトマトも赤い実を着けていたし、ラジオからは軽快なポップが流れていた。そのうえ、台所には筑前煮の良い匂いがこもっていて、しかもわたしはできたての友達と、ごはんを食べる約束を取り付けていたのだった。
なんら嫌な予感が入り込む余地のない、わくわくするような、完璧な朝。
そのきらきらする空間の中のなにかを、いとちゃんは目をすぼめて睨んでいた。
(『糸』か)
いとちゃんの視線は、わたしがパンをちぎる手元に当てられていた。
眉間に寄った皺は、朝日の中でいよいよ深くなった。いとちゃんは、ぼそっと言った。
「……ゆめちゃんは、心の中では分かっている。けれど、抗えずに引き寄せられている」
またいつもの、わけのわからない文言が始まった。
わたしはパンを噛みながら、興味深くいとちゃんを眺めた。もしかしたら嫉妬してくれているのかもしれないな、と思ったのだ。
我ながら根性が悪いと思うけれど、そう感じたことは、ちょっとした快感だった。
しかしいとちゃんは、それ以上その仏頂面を続けることはなく、やがてすうっと眉間を解くと、また眠たそうな無表情に戻ったのである。食べ終えたトーストの皿を押しやると立ち上がり、そのまま台所を出て行ってしまった。
揺れる玉のれんの向こうで、いとちゃんがぺたぺたと歩いている。いとちゃんはスリッパをはかない。
なにか、奥歯にものが挟まったような薄気味の悪さが残った。せっかくの楽しい気持ちにミソがついて、残念な気分になった。なんだよ、嫉妬しているならそれらしい態度を見せてくれれば、まだ可愛げがあるのに。 しいちゃんを梟荘に連れてきて、いとちゃんと引き合わせて、友達の輪を広げてあげたって良かったのに――などと、わたしは心の中でぶつぶつ呟いたのだった。
不思議系のしいちゃんと、同じく不思議人間のいとちゃん。
同じカテゴリなのではないか。
……。
そう考えた瞬間、わたしは物凄い違和感にぶちあたり、一瞬、その絶望的な感覚にぎょっとしたのだった。
しいちゃんと、いとちゃん。
違う。まるで違う。決して同じではなく、ましてや引き合わせるなど。
しいちゃんの、黒目が印象的な吊り上がった目は催眠的な魅力がある。揺れる黒髪、透けるような白い肌。将来のことなど手放したかのような、無軌道で自由奔放な態度。
将来のことを手放していて、地に足がついていないのは、いとちゃんも同じだ。
なのに、この二人はどうしてこんなに違って感じるんだろう。
ゆめちゃんは、心の中では分かっている。けれど、抗えずに引き寄せられている。
いとちゃんの言葉が妙に残って、後味の悪い余韻が漂った。
ふいにわたしは、思い出していた。あの朝、いきなり母の夢を見たこと。素晴らしい寝覚めのはずが、母の声で台無しになったと憤慨していたけれど、母はなんと言っていただろう。
「敵は現実に現れる人たちではなくて、ゆめちゃんの中にある孤独感だってことに早く気づいてね。そして、そんな孤独感なんか実は気のせいだってことにも」
母の声は、いつだって微笑んでいる。ゆるっとしていて、和やかで楽しそうで、なによりも無責任ぽくて、そこが腹の立つポイントだった。
(敵は現実に現れる人たちではなくて……)
メッセージフロムマイマザー。母は占い師だ。「敵」が現れると母は言っていた。
しいちゃんと、しいちゃんの友達だというやーやちゃんが、「敵」であるらしいことは、うっすらと分かった。だけど、どういう意味での「敵」なのか、全く理解が追いつかなかった。
ここは現代日本で、外敵から身を護らねばならない原始時代でも、切り捨て御免の戦国時代でもないのだ。
(死ぬわけでもあるまいし)
と何気なく思って、わたしはまた気づいたのだった。
いつだって母が、余裕しゃくしゃくの表情で、ゆるゆると微笑していた理由を。
そうなのだ。
よほどのことがない限り、生きる死ぬの問題にはならないので、母は不吉な予言をする時も、微笑んでいられた。
(大丈夫よ、まあ、やってごらんなさい)
腕を組み、胸をそらし、遠目から見守るようにする、母の微笑みを感じた。
**
かちん。
玉のれんが最後にちいさな音を残して動きをとめ、わたしはトーストを平らげた。
皿を片づけてから、少し冷めた筑前煮の鍋を、冷蔵庫に入れた。
冷たい箱の中に置き去りにされた、煮物。
だけどお鍋の中でどんどん味は染みて行き、美味しく、濃くなってゆくのだ。
講義に行くために梟荘を出た時、一瞬ではあったが、わたしは、今夜、できたての友達との外食の約束を反故にして、あの筑前煮を、いとちゃんと一緒に食べたいと、うろたえるほど強烈に思ったのである。
いとちゃんはトーストを食べながら、眠たそうな顔で、ふうん、とだけ答えた。その無感動そうな様子が、ちょっと物足りなかった。
学校の友達と、晩御飯を食べる。
今までのわたしにはなかったことだ。「友達」という単語が飛び出すことも、今までなかったはずだ。
「えっ、友達できたんだ。良かったね。今度うちに連れておいでよ」
と、一緒に喜んでくれたり、
「ふーん、友達……」
と、妬ましいのを必死に隠して、無表情を装って横を向くなどの反応は、いとちゃんには期待できなかった。
(そもそも、いとちゃんは友達が欲しいと思ったことがあるんだろうか)
いとちゃんのための作り置きのために、朝から筑前煮を作っている。ごとごとと鍋は小気味よい音を立て始め、ダシの匂いが台所中に漂っていた。
いとちゃんは高野豆腐が好きだから、筑前煮には細かくした高野豆腐を入れる。肉じゃがにも入れる。かさましになるので、なかなか安上がりな食の好みだ。
炊飯器に夕食と、明日の朝の分に当たる量のお米をセットして、タイマーにしておいた。
できあがった筑前煮は少し冷ましてから冷蔵庫に鍋ごと突っ込んで行こう。今日も暑くなるので、できあがったままの鍋を放置していたら、晩になるまで傷んでしまうかもしれない。
さく、さく、とトーストを噛む音を背後で聴きながら、わたしは筑前煮の煮詰まり具合を見て、コンロの火を止めた。
ぶつぶつと沸騰はしばらく続いていたが、やがて豊かな湯気を吐き出しながら表面は穏やかになる。濃い色の出汁から顔を出す根菜と鶏肉と高野豆腐が賑やかだ。
あっつあつの、できたての筑前煮。
おいしそうだけど、もうちょっと時間を置いてから食べたほうが、味が染みているはず。
煮物は出来立てよりも、少し冷めてからのほうが良い。その、煮物という料理の、「こっちの仕事は終わった。後は、任せた」という感じが凄く好きだ。時間が調味料になるところが、エコだと思う。
わたしもトーストを食べた。
いとちゃんはもぐもぐと頬張っていたが、わたしが席についた時、一瞬、眉をぎゅっとひそめた。
「んー……」
呻くようでもあり、あくびをかみ殺すような音でもある、なんともいない声を吐き出して、いとちゃんはしばらく無言だった。ぎゅうっと眉をひそめたまま、なにか嫌な虫でも見つけてしまった時のように、目を逸らしたいけれど逸らせない、といった様子で、視線を一点に釘づけていた。
流しの明かりとりの小窓から朝の光が差し込んでいる。
夏らしい明るさが台所を満たしていて、手元の影も柔らかだった。テーブルの片隅で栽培しているプチトマトも赤い実を着けていたし、ラジオからは軽快なポップが流れていた。そのうえ、台所には筑前煮の良い匂いがこもっていて、しかもわたしはできたての友達と、ごはんを食べる約束を取り付けていたのだった。
なんら嫌な予感が入り込む余地のない、わくわくするような、完璧な朝。
そのきらきらする空間の中のなにかを、いとちゃんは目をすぼめて睨んでいた。
(『糸』か)
いとちゃんの視線は、わたしがパンをちぎる手元に当てられていた。
眉間に寄った皺は、朝日の中でいよいよ深くなった。いとちゃんは、ぼそっと言った。
「……ゆめちゃんは、心の中では分かっている。けれど、抗えずに引き寄せられている」
またいつもの、わけのわからない文言が始まった。
わたしはパンを噛みながら、興味深くいとちゃんを眺めた。もしかしたら嫉妬してくれているのかもしれないな、と思ったのだ。
我ながら根性が悪いと思うけれど、そう感じたことは、ちょっとした快感だった。
しかしいとちゃんは、それ以上その仏頂面を続けることはなく、やがてすうっと眉間を解くと、また眠たそうな無表情に戻ったのである。食べ終えたトーストの皿を押しやると立ち上がり、そのまま台所を出て行ってしまった。
揺れる玉のれんの向こうで、いとちゃんがぺたぺたと歩いている。いとちゃんはスリッパをはかない。
なにか、奥歯にものが挟まったような薄気味の悪さが残った。せっかくの楽しい気持ちにミソがついて、残念な気分になった。なんだよ、嫉妬しているならそれらしい態度を見せてくれれば、まだ可愛げがあるのに。 しいちゃんを梟荘に連れてきて、いとちゃんと引き合わせて、友達の輪を広げてあげたって良かったのに――などと、わたしは心の中でぶつぶつ呟いたのだった。
不思議系のしいちゃんと、同じく不思議人間のいとちゃん。
同じカテゴリなのではないか。
……。
そう考えた瞬間、わたしは物凄い違和感にぶちあたり、一瞬、その絶望的な感覚にぎょっとしたのだった。
しいちゃんと、いとちゃん。
違う。まるで違う。決して同じではなく、ましてや引き合わせるなど。
しいちゃんの、黒目が印象的な吊り上がった目は催眠的な魅力がある。揺れる黒髪、透けるような白い肌。将来のことなど手放したかのような、無軌道で自由奔放な態度。
将来のことを手放していて、地に足がついていないのは、いとちゃんも同じだ。
なのに、この二人はどうしてこんなに違って感じるんだろう。
ゆめちゃんは、心の中では分かっている。けれど、抗えずに引き寄せられている。
いとちゃんの言葉が妙に残って、後味の悪い余韻が漂った。
ふいにわたしは、思い出していた。あの朝、いきなり母の夢を見たこと。素晴らしい寝覚めのはずが、母の声で台無しになったと憤慨していたけれど、母はなんと言っていただろう。
「敵は現実に現れる人たちではなくて、ゆめちゃんの中にある孤独感だってことに早く気づいてね。そして、そんな孤独感なんか実は気のせいだってことにも」
母の声は、いつだって微笑んでいる。ゆるっとしていて、和やかで楽しそうで、なによりも無責任ぽくて、そこが腹の立つポイントだった。
(敵は現実に現れる人たちではなくて……)
メッセージフロムマイマザー。母は占い師だ。「敵」が現れると母は言っていた。
しいちゃんと、しいちゃんの友達だというやーやちゃんが、「敵」であるらしいことは、うっすらと分かった。だけど、どういう意味での「敵」なのか、全く理解が追いつかなかった。
ここは現代日本で、外敵から身を護らねばならない原始時代でも、切り捨て御免の戦国時代でもないのだ。
(死ぬわけでもあるまいし)
と何気なく思って、わたしはまた気づいたのだった。
いつだって母が、余裕しゃくしゃくの表情で、ゆるゆると微笑していた理由を。
そうなのだ。
よほどのことがない限り、生きる死ぬの問題にはならないので、母は不吉な予言をする時も、微笑んでいられた。
(大丈夫よ、まあ、やってごらんなさい)
腕を組み、胸をそらし、遠目から見守るようにする、母の微笑みを感じた。
**
かちん。
玉のれんが最後にちいさな音を残して動きをとめ、わたしはトーストを平らげた。
皿を片づけてから、少し冷めた筑前煮の鍋を、冷蔵庫に入れた。
冷たい箱の中に置き去りにされた、煮物。
だけどお鍋の中でどんどん味は染みて行き、美味しく、濃くなってゆくのだ。
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