魔王と配下の英雄譚(修正版)

るちぇ。

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第一章 英雄の序曲

第33話「聖リリス帝国からの刺客2」

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 ゾンビたちの前に立ちはだかるフェンリスは笑顔を浮かべる。それを見た誰もが思わず微笑んでしまいそうな、輝かしい太陽のような笑みだ。だがそう思ったのも束の間、背筋に寒気が走る。
それはもはや笑みではない。無理やり表現するなら、そう、狂喜。目が血走り、口角は鋭くつり上がって、高笑いし始めるその姿はまさに狂戦士であった。

「オラクル・ナイツの1人、フェンリス。行っちゃうよぉ!」

 駆け出し、近場のゾンビの頭をもぎ取って勢い良く投げる。どれだけ強く放てばあんなことになるんだ。まるで大砲を撃ったかのように、軍勢に風穴が空く。

「まだまだ……まだだよぉ!!」

 ハイキックで頭を蹴り飛ばし、近付いた別のゾンビの胸を貫いて心臓を抉って握り潰す。その返り血を浴びて真っ赤に染まった姿に、兵士たちはたじろぐ。あれを形容するためには、もはや殺人鬼という単語でも不適切。死神、殺人マシーン、いや、ここは戦場だから英雄を呼ばなくてはいけないのか。あんな化け物を。

「お……恐ろしいほどの戦闘能力だ。それにしても、最初のあの臆病さは何だったんだ?」
「恐れながら、魔王様。フェンリスはこの場にいる全てを殲滅することを恐れていたのです。武器を見れば闘争本能が掻き立てられるようでして」

 神無月に説明されてようやく思い出した。あの天使のような笑顔を見ているうちに忘れてしまったのだろう。設定には確かに記されていた。狂喜の極みの中で戦う化け物、バーサーカーと。

「あはは! 楽しいねぇ、楽しいねぇ! 殺す、殺す、死ねぇ!」

 ゾンビを食い千切り、肉片を武器にして殴り付け、血を浴びて歓喜の声をあげる。その光景を見た兵士たちは言葉になっていない悲鳴を上げながら、形振り構わず逃げ出して行った。
 呆気に取られていた魔導師はプライドがあるのか、必死にゾンビを追加で生み出していた。だが、同じ個体をいくら並べたところで全く効果などない。

「さて、次はどう来る? 早く次の策を用意しないと喉元を裂かれるぞ」
「くそ……そんなか細い女の子を戦わせて、それでも男か!?」

 どこをどう見ればそんな表現ができるんだよ。ま、それも含めてのフェンリス。俺の大切な配下だ。少しばかりショックが大きいけど受け入れていこう。
しばらく凶行、いや、戦闘を見守っているとゾンビはほぼ片付いてしまった。次のターゲットはあの魔導師になるだろう。そのタイミングで攻撃を止めて貰う。

「ふ……フェンリス、そこまでだ!」
「……は、はい! 楽しかったです、魔王様」

 フェンリスは血で汚れた顔で屈託のない笑みを浮かべる。頼もしいから別にいいけどさ、当然のように俺の声は震えていた。レベル差があるから一方的になるのは仕方ないが、あんな光景を見させられたら魔王でもおしっこ漏らすわ。
 フェンリスの頭を撫でて後ろに下がらせる。こっそりと血糊を服の裾で拭ってから、さて、後は俺の仕事だ。

「これ以上続けるか? もしそうなら遊戯は終わりだ。本気で殺しにかからせて貰う」
「ふん……良いだろう。望み通りにしてやる! お前らのような危険人物を生かしておく訳にはいかない! 全ては聖女リリス様のために!」

 聖女リリスだと。帝王の名前を叫ぶ場面じゃないのか。それにリリスという名前といい、ひょっとして王は飾りで、裏で全てを操っているのはその聖女様か
 残っていた兵士たちが前に出て来る。明らかにフェンリスを警戒しているようで、妙な距離が生まれていた。

「フェンリス、大人気だな」
「えっと……あの、喜んで良いことなんでしょうか?」
「あぁ、喜んでおけ。遊んでくれるかもしれないぞ」
「うぅ……意地悪です。御許しを頂けないと私は戦っちゃいけないのに」

 ゾンビで満足して貰わないと、俺の夢見が悪くなってしまうからな。これ以上前に出られると困る。
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