異世界列車囚人輸送

先川(あくと)

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3章 荒野の麗人

8、それで、アンナは今どこにいる?

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「待ちなさい!!」
 氷のように冷たい声が響いた。
 ユーゴは目を開けた。

 職人風の男は驚いて手を止めていた。
 視界の先でユーゴは赤いものを見た。
 ユーゴにはそれが現実の光景だとは思えなかったので、そのあまりにも鮮やかな赤は、うまく像を結ばなかった。

 それは異国の花のように透き通った赤をしており、チラチラと瞬きながら大きくなっていく。
 それが少しずつ自分に近づいて来ているのだと分かり、ようやく赤の輪郭がはっきりしはじめた。
 大通りの向こうで赤いドレスを着た女性が絞首台を見据えていた。
 その女性はあらゆる意味において異質だった。
 荒野の忘れ去られた町に、真っ赤なドレスは不釣り合いだったし、真っ赤なドレスを着ながら胸部を覆うアイアンプレートはそれ以上に不釣り合いだった。

「ジョー様?」
 ユーゴは確信が持てなかったが、それ以外の人物を思い浮かべることもできなかった。

 赤いドレス、使い古され輝きを失ったチェストプレート、鋼鉄の籠手、腰に差した両刃剣、そして、頬にわずかな横髪を残し、栗毛の髪を真っ赤なリボンでまとめている。
 噂でしか聞いたことがないが、ラッセル侯爵の長女にして、ラッセル領騎士団、領土防衛代官ジョー・ラッセルだった。
 そして、その隣に立っているのはシノだ。
 ユーゴは奇妙なめぐりあわせに、降参するようにうなだれた。
 ジョーとシノはまっすぐ絞首台に近づいてきた。

「なんだい、僕は忙しいんだが」
 オウカンが目つきを鋭くさせた。
「どういう権限があって絞首刑に処そうとしているのかしら」
 ジョーは淡々とした口調で言った。
「あいにく裁判所なんてない町なんでね。いる者がその役割を担うことになってるんだ」
「そんな法律はないわ。犯罪者を捕まえたら、判事のいる町で裁判をすることになっているはずよ」
「ふん、君たちにそんなことを言う資格が本当にあるのかな? 北の新街道を鉄道が走り始めた途端、この町のことなんかすっかり忘れ去ったくせに」

 オウカンはジョーの手前、トウセキの手下であることは伏せ、あくまで町民の一人として振舞うつもりらしかった。
「それは今回の件とは無関係よ。第一、この町が廃れたのはラッセル家のせいではありません。鉄道会社は自由な営業が保証されているもの」

「ところでこの少年は何をしたのかしら?」

 ジョーは絞首台に上がって言った。風が吹き付け、ドレスの裾が泳ぐようにはためいた。
「この男は目の前で女が自殺をしようとするのを黙って見てたんだ。止めることすらせず、彼女の自殺を見守るようにな」

「それで?」

「それでってことはないだろう。この国では自殺は大罪だ。神がお作りになった肉体を自分で滅ぼすなんて神に背く行為だ。そうだろう?」

「獣人にしては随分と信心深いのね」
「信心深いフリもできない奴はみんな殺されただけさ」
「悔みを言うつもりはないわ。《半獣半人の民》は女でも子供でも平気で皆殺しにした」
 ジョーの一言にオウカンは肩をすくめた。

「話を戻そう。僕は急ぐんでね。とにかくこの男は、他人が自殺するのを止めることもなく、そそのかすように見守ってたんだ。これは殺人より罪が重い。そう思わないかい?」
「確かにあなたのおっしゃるとおりね。でも、私が来たからには話が変わってくるわ」
「お前さんは?」
「ジョー・ラッセル。ラッセル侯爵の長女よ。ラッセル領において判事もいないところで絞首刑が行われているとしたら、見逃すわけにいかないわ」

「やはり、あなたがハンバーグ・ジョーか。じゃあ、トウセキ様を追っているのもあなたで」
「ええ、そうね」
「そうか。それなら話が早い。実は、この男が殺そうとしたのは、トウセキ様の奥さんでいらっしゃるアンナ様なんだ」

 アンナ様と聞いて、シノの瞳が大きく見開かれた。
 そして、シノは問いただすようにユーゴを睨んだ。
 ユーゴはシノの視線から逃れるように下を向いた。
 アンナと聞いて、ジョーもいささか動揺の色を見せた。
 ジョーはシノの様子を伺う。

「シノ……」
 シノはゆったりとした足取りでオウカンに近づくと、彼の胸倉を掴んで言った。

「それで、アンナは今どこにいる?」
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