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4章 最後の囚人
2、駅に向かう囚人たち
しおりを挟む「俺が――ブタの後ろに――繋がれる? ふざけるな――殺してやる――この場で、このブタを殺してやる――」
トウセキは何度もアントンを蹴り上げ、アントンは失禁して、黄色い液体が床に広がっていく。
「やめろ! やめるんだ!!」
デュアメルが銃床でトウセキを殴りつけ、歩兵銃で彼を羽交い絞めにするとそのまま床になぎ倒した。
デュアメルは無防備なトウセキに馬乗りになると彼の顔面を銃床で何度も殴打した。
「自分の立場をわきまえろ。今、ここで俺が殺してやってもいいんだぞ」
デュアメルは顔面を庇おうとするトウセキの腕もろとも銃床で打ち砕いていく。トウセキの唇が割れて、血しぶきが霧のように飛び散った。
「殺してみろよ。さあ、殺してみろ!」
「俺にハッタリは通用しないぞ」
「おうとも。この機を逃せば、次は俺がお前を殺してやる!」
肉体を打ち付ける鈍い音とともに、トウセキの耳飾りがカチャカチャと場違いな音を立てた。
デュアメルが歩兵銃を振り上げたところで、シノはその銃身を掴んだ。
「その辺にしておけ」
「隊長、こいつはどうせ吊るし首だ。わざわざベルナードまで運ばなくても、ここで殺したって誰も文句は言わねえ」
「裁判を受け、自分の犯したことの罰を受けてもらう。それが正当な手続きだ」
「いくら裁判を受けてもどうせこいつには理解できませんよ」
「これは命令だ。とにかくこいつには生きて裁判を受けさせる。そのブタも同様だ。トウセキを一番前につないでやれ」
デュアメルは乱暴に首を振った。
「それじゃあ、こいつのゴネ得ですよ」
「ブタを殺されるよりはいい。トウセキの後ろにユーゴ、その後ろにそのブタを繋ぐんだ」
名前を呼ばれ、ユーゴはシノに視線を向けた。
「ユーゴ? この小僧の名前ですか?」
デュアメルはトウセキの上から立ち上がると、ユーゴの手錠に結わえられた縄を解きはじめた。
「そうだ」
「名前をご存じなんです?」
「古い知り合いだ」
「へえ……、それはまた意外な繋がりだ」
デュアメルは興味深そうにユーゴを見たが、その場で二人の関係を聞き出すことはしなかった。
デュアメルはユーゴとアントンの縄を解くと、順番を変えて再び縄を結び始めた。
どうして俺の名前を読んだんだ? シノ……。
ユーゴは、シノが自分とのつながりを部下に明かすとは思っておらず、その真意をはかりかねていた。
だが、シノはユーゴと目を合わせようとしなかった。
ユーゴとの関係を明かすことは、シノが一連の事件の関係者だと打ち明けるようなものだ。
そうなるとシノは中立なトウセキ討伐隊の指揮官という地位を失い、この事件のある種の被害者とみなされる。
指揮官の命令に私情が入り込んでいることを知れば、部下たちは彼の命令に疑問を覚えるだろう。ユーゴにはシノが自分との関係をほのめかしたことが、賢明な選択だとは思えなかった。
それゆえ、シノはそれ以上語ろうとしなかった。
シノの後ろで成り行きを見守っていたジョーだけが、別段意外そうでもなくトウセキの姿を見つめていた。
「レナ、ブタの方はどうだ?」
「気を失ってるけど、大丈夫そうだに」
「よし、馬車に乗せろ。レナ、一緒に乗れ」
「分かったに」
宿屋を出るとすでに馬車が止まっており、御者が煙草を口にくわえながら、馬具の点検をしているところだった。
点検を終えた御者は煙草を道に投げ捨て、御者席に乗り込んだ。
「ほら、進むに!」
ユーゴはいつの間に自分の運命が狂い、縄で繋がれて馬車に乗せられることになったのだろうと思った。
ユーゴは一か月前には御者席に座っていて、コンラッド一家が町へ出かけるときなどはよくそのお供をしたものだった。
ユーゴは、自分が裁判を受ける意味が分からなかった。自殺幇助と言われても、ユーゴには止めようがなかったわけで、アンナを自殺に駆り立てたのはトウセキだ。
町を危険に晒したと言われても、罰せられるべきは報復に来る盗賊団であって、自分ではない。
自分が座るべきなのはあの御者席だ。
だが、自分を巻き込んだアンナのことになると、意外にも怒りと呼べそうなものは全く湧かず、彼女の容体は安定したのだろうか、またいつの日か、話をすることができるのだろうかと、淡い希望を抱かずにはいられなかった。
アンナに会いたい。
無事かどうか確かめたかった。
ユーゴはぼんやりと馬車を見続けた。
馬の股の間に馬糞が落ちており、そこにハトが群がっている。駄ブタのアントンはトウセキの後ろをトボトボと歩いていたが、ふいに何を思ったのか列を乱し、ユーゴを引っ張りながら馬糞の方へ進んでいった。
アントンが馬の股に頭を突っ込み、馬糞を漁り始めた。
「これ、危ないだろっ!!」
御者席から慌てて御者が降りてきて、アントンを蹴りつけた。
「ほらほら、お前たち、アントンに勝手なことをさせるなに!」
レナはユーゴの尻をパンと叩き、ユーゴは慌てて縄を引っ張った。
「ほら言っただろ? ブタは不潔で、愚鈍な生き物なんだ」
トウセキは愉快そうに笑い声をあげる。
「笑ってる暇があったら手伝ってくれよ。クソまみれの鼻でその辺つつかれることになるぞ」
ユーゴはトウセキを睨んだ。
「そうだな」
ユーゴとトウセキは抵抗するブタを馬車の前まで引きずって行った。
「早く乗るに」
レナがユーゴの背中を押した。
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