異世界列車囚人輸送

先川(あくと)

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4章 最後の囚人

3、雷雨の荒野

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     ◇

 レナとシノが、囚人と一緒に馬車に乗ることになった。
 シノは馬車に乗る直前、ふいに視線を感じて振り返った。

「オウカン……」

 夜通し、討伐隊の様子を伺っていたのだろうか。
 オウカンは、町中心部の時計台の頂点に胡坐をかいて座っており、トウセキが馬車に乗り込むのを真剣な表情で見つめていた。
 昨日はこの町の人間を装っていたが、あの形は獣人族のそれであり、トウセキの仲間であることは容易に想像できた。

 オウカンはシノと目が合うと、挑発的な笑みを浮かべた。

 それから手を拳銃の形に折り曲げ、人差し指をシノの額に向けた。

「バンっ」

 オウカンの口がそう動いたのが見えた。
 シノは自分が今死んでいた可能性について考えた。時計台から宿屋までは二百メートルほどだろうか。狙撃は十分に可能な距離だった。絶えず動く敵を狙うのは簡単なことではないし、あんな安定しない場所に座っていたら狙撃もままならないだろう。

 しかし、トウセキを救出するのに、自分たちを一度に始末する必要はないのだ。
 ベルナードにつくまでに時間はある。一人ずつ時間をかけて殺して、戦力を減らしていけばいい。

「気をつけろ。トウセキの手下がいるぞ」

 シノは舌打ちをして時計台から視線を切った。
 そして、すぐさま馬車に乗り込んだ。

 全員が馬車に乗り込むと、御者がムチを振るって馬の尻を叩いた。
 ほろの中は五、六人が座れるスペースがあったが、足元にブタがいるせいで居心地は最悪だった。

 イーシャまでの道のりは悪く、未舗装の荒野が延々と続いた。暑さのせいで馬はのろのろと走り、御者は何度も馬の尻をムチで叩いたが、その動きも気だるそうに見えた。
 途中で何度か急な斜面を登る必要があり、そのたびにユーゴたちは一度馬車を降りて、それを登らなくてはいけなかった。

 轅に繋がれた馬の尻は汗まみれになっていた。
 先頭をデュアメルとぐらぐら・ウィリーが走った。

 彼は縛り首ののちにトウセキの腹の中から龍鉱石を取り出すと言ってついてきた。
 討伐隊の下士官が馬車の後ろについた。ジョーとのっぽの兵士が最後尾についた。
 イーシャまで十キロに迫ったところで、シノは周囲が急に陰ったのに気が付いた。
 馬車の窓から外を見ると、空一面を黒い雲立ち込め、馬車に覆いかぶさってくるように思えた。

「雷が鳴り始めたに……」

 レナが本能的に危険を察知したのか、短い髪の毛をぴんと逆立たせた。
「このまま行きますかい?」
 御者は馬車の中のシノに向かって言った。

「どういう意味だ?」
「前を御覧なさい。異常な雷ですよ。あれに突っ込むことになりますよ」
 御者は馬の速度を緩めながら言った。どこかで雷雲をやり過ごすと決めつけているようだった。

「いや、そのまま進んでくれ。群盗らを突き放すチャンスだ」
 シノは昨日のダンとトウセキのやり取りを思い出していた。
 龍鉱石をトウセキが飲み込んだ時、ダンはトウセキの腹を引き裂いてでもそれを取り戻すと叫んだ。
 恐らく、群盗らは一度拠点に戻って準備を整えたのち、周辺の町にトウセキを探しに出かけただろう。
 アヴィリオンの町を出るとき、オウカンがじっと自分たちを見つめていた。
 トウセキがイーシャに向かったことが知られるのは時間の問題だ。今はまだ背後にダンの姿は見えないが、すぐ近くまで迫っているだろう。

「いいえ、兵隊さん、よく見てくださいよ。あれは普通の雷じゃない。もっと恐ろしいものですよ。魔物か何かが怒り狂ってるような、とにかく近づくべきじゃありません」

 シノが窓から首を出して前を見た。
 十数本の光の筋が空中を駆け巡って、地上に突き刺さっていく。その数があまりにも多いので、ドラゴンの体表を走る無数の血管が光り輝いているように見えた。
 雷の距離はかなり近く、ピカリと光った後に、バリバリと割れるような音が鳴り響く。

 シノは目をすがめ、前方を注意深く観察した。
 御者の言う通り、厄介な魔物が出現したのだろうか。
 それにしては、状況が飲み込めない。

 魔物が意味もなくエネルギーを発し、雷を起こしているとは考えづらく、その怒りが誰に向けられているのか興味を持った。
 周囲は草木も生えない未開の大地で、一軒の家すらもう何キロも見ていない。

「あれは……冒険者?」

 シノは雷の光に照らされて、前方に小さな人影をみとめた。その人影は剣を掲げ、何か山のようなものを駆け上がっていく。

「ドラゴン狩りか……」

 馬車が近づくにつれ、その光景はより鮮明になっていった。
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