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5章 運ばれゆく罪人
3、お姉ちゃんレナ
しおりを挟む「ハンバーグ・ジョー?」
「そうだ。この女は冷酷無残で何を目にしたって顔色一つ変えない。はじめてこの女が戦場に立ったとき、そこには何十という死体が転がっていた。そんな戦場でひときわヒドいケガを負った兵士がいたんだ。そいつは腹部を切断され、こぼれだした内臓を必死に腹の中に戻そうとしていた。落ちていく内臓を手で抱え、抱えきれない内臓がこぼれていくのを何度もすくおうとしてるんだよ」
「つまらない話はやめなさい」
「良いだろ。本当の話だ」
「俺は……別に教えてくれと頼んじゃいないけど……」
ユーゴは自分がトウセキと同じ檻にいて、否応なく顔を突き合わせなければいけないことにうんざりした。
そのためさも迷惑そうに顔をしかめ、短く返事をしては顔を背けるのだが、トウセキは全く気にしないように話をすすめた。
「まあ聞けって。長い旅になるんだ。とにかくそいつは内臓さえ腹に押し込めれば、すべての傷が元通りになると思い込んでるような調子だった。ひたすら、落ちこぼれる内臓をすくってるんだが、そいつは獣人族に伝わる二枚貝で作った籠手をしていたんだ」
ほら、これだよ、と言ってトウセキは自分の拳を見せた。手の甲には確かに分厚い二枚貝の殻で覆われており、四隅に開けた穴から紐を通して、手に巻き付けていた。
「この二枚貝の籠手がその兵士が内臓をすくいとろうとするたびにそこらじゅうを引っ掻きまわして、そいつは腹の中を自分でみじん切りにするような始末だった」
トウセキはユーゴのしかめっ面を愉快そうに眺めながら話を続けた。
「その兵士は結局、死んだ。草原の上でぐちゃぐちゃに傷ついた内臓をさらけ出して死んでいたんだ。そこにこのジョー様が現れた。敵が退却していく戦場で、ぼんやりと立ち尽くしているみたいだったが、ジョー様はこの腹ン中を引っ掻きまわして死んだ兵士を見てこう言ったんだ。ハンバーグが食べたくなってきたわねって」
「うっ……」
ユーゴは思わず呻いた。
吐き気を催して手で口を抑える。どこか吐ける場所はないかと周囲を見渡すが、檻の中に入れ物になるようなものはない。
ユーゴは喉を鳴らして吐しゃ物を押し戻した。
「それ以来、この女はハンバーグ・ジョーって呼ばれてる。戦場でぐちゃぐちゃになった死体を見て、飯のことを考えられる女だってな。だから、貴いお姫様だからって情けをかけてもらおうなんて思わないことだ」
「その点、レナの二つ名はお姉ちゃん・レナ!! しっかり者で頼りになるお姉ちゃんだから、頼ってくれていいに」
レナはユーゴの気を紛らわせようとひときわ明るい声を出した。
ユーゴはそれからこの変わり者の多い隊員の二つ名とその由来を聞かされた。
ココ・デュアメル、エルダー・レナ、ハンバーグ・ジョー。
どれも噂話や、酒場の与太話でたびたび出てくる名前だった。
それらはたいてい、一人で百人を殺したとか、一発の銃弾で三人の敵を同時に倒したとか、噂が広まるにつれて大袈裟になっていたが、彼らを見ているとその逸話があながち嘘だとは思えなかった。
「シノはなんて二つ名なんだ?」
ユーゴはシノに話しかけてみた。
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