異世界列車囚人輸送

先川(あくと)

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6章 湧き出る盗人

10、凄惨な光景

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     ◇

 凄惨な光景だった。
 バリケードの先には群盗の死体が転がり、内側では残った兵士のほとんどが負傷、あるいは戦死していた。

 あれだけ龍鉱石に固執していたぐらぐら・ウィリーも銃弾を浴びて死んでいた。
 デュアメルを抱えるようにして戻ってきたレナは足を怪我しており、シノとデュアメルは重体だった。
 ユーゴは立ち尽くしていた。

 これだけぐちゃぐちゃな状態では何からどう手を付ければいいのか分からなかった。

 トウセキは……。

 ユーゴはとっさに彼の存在を思い出し、床に転がった銃を拾って、彼に向けた。

 トウセキは兵士のポケットから煙草を抜き取ると、それに火をつけて一服していた。

「ありがとう、代わるに」
 レナがユーゴに礼を言い、トウセキの見張りを代わった。

「で、でも……」
「お姉ちゃんに任せるに。かわいい少年にそんなものは似合わないに」
「は、はい……」

 ユーゴは緊張の糸が切れ、ふらふらとよろめいてバリケードに捕まった。

「ユーゴ!! こっちに来るんだ!!」

 シノが叫び、ユーゴは突き動かされるようにしてシノのもとに駆け寄った。
 間近でシノを見れば、傷の具合がかなり悪いことはすぐに分かった。
 全身に弾を浴び、血だらけのシノがどうしてこれほど大きな声が出せるのか、ユーゴには不思議だった。

「こっちに……来い! 来るんだ……」

 シノはユーゴの胸倉を掴んで、引き寄せると、絞り出すような声で言った。

「よく聞け……群盗はなんとか撃退した。だが、すぐにまた攻めてくる。ダンが言ってただろ。……こいつらはただ貧乏な若者に過ぎないんだ。……金をちらつかせて武器を与えればいくらでも沸いてくる。トウセキの腹の中にあの石ころがある限り、何度でも奴らは攻めてくる……」
「そんなこと俺に言われても困るよ」
「聞け、ユーゴ! 泣き言を言うには早すぎるぞ!!」
 シノはジョーに気だるそうに身振りをして、体を起こすのを手伝うよう合図を送った。
 ジョーに支えられながら体を起こした、シノはポケットの中からカギを取り出し、ユーゴの手錠を外した。

「今さら俺一人増えたってどうなるって言うんだ」

 この期に及んで手錠を外されたところで、事態が良くなったとは思えなかった。

「お前は戦わなくていい。お前があの囚人を次の駅まで連れて行くんだ」

「なんだって?」
 ユーゴは耳を疑った。

「見ての通り……俺たちは動けない。デュアメルは胸を撃たれて、レナは足を撃たれた。俺はこの通り穴だらけだ」
 シノは他の人間の状態を確認しようと周囲を見渡したが、視界に入るのは死体ばかりだった。あのタフな老人のぐらぐら・ウィリーでさえも、金輪際、酒を欲しがることはないだろう。

 シノは打ちひしがれたように、かくんと頭を落とした。

「あとは……もう死んでしまった。ジョーにはここに残ってできる限り、治療をしてもらう。幸い、魔晶石はまだ少しだけ残ってるみたいだからな。群盗らの残した弾から魔晶石を抽出すれば、応急処置くらいはできるだろう」
「それなら、ケガを治したあとで……」
「間に合わない。俺たちは身を隠し、救援を待つのが精いっぱいだ」
「じゃあ、僕らも」

「だめだ!! 今すぐ、お前が二人の囚人を連れて、次の駅に向かうんだ。二人は荷が重いというならトウセキだけでも構わん」

「無理だ……無理だよ。そんなことができるわけがない」
 ユーゴは必死で首を振った。
 そんなことは考えたくもなかった。
 いや、現にまったく考えられなかったのだ。

 自分一人でトウセキをベルナードまで護送する?

 その道のりを考えようとしただけで、頭に岩を乗せられたように思考が重くなった。

 ほとんど一ミリも頭が働かなくなり、脳が考えるのを放棄しようと悲鳴をあげていた。

 シノは自分を買いかぶりすぎている。自分にそんな力はない。一人でトウセキを護送するなんて不可能だ。
 それをなんとかシノに分からせようと思った。
 しかし、シノはそれを察してか、乱暴な仕草で胸倉を掴んだ手を揺さぶった。

「頼む!! この通りだ!! お前の力を貸してくれ、あの集落のよしみだろ」
「無理だ!! 俺には無理だよ」
 ユーゴはその手を振りほどきたかった。

「お前は銃を欲しがってただろう。護衛を手伝いたがっていた」

「それはシノがいて、他にも優秀な兵士がたくさんいたからだ。俺はあんたらの力になれたらと思ったんだ。でも、これは違う。俺一人ならこんなことはしないよ」

 シノはそこで悲しそうに首を振った。

「討伐隊はもう壊滅したんだ。あとは途中で投げ出すことのできない人間が残っただけだ。俺たち二人だ。分かるだろう?」

「大体、あんたがいけなかったんだ。トウセキなんてさっさと殺して、首だけベルナードに持っていけばよかったんだ!! そしたら、こんなことにはならなかったはずだろ」

 シノは悲しそうな表情でその言葉を聞いていたが、やがて重々しく口を開いた。

「ユーゴ……俺が暗殺部隊にいたって話は知ってるな? レナが言ってただろう。あだ花のシノってやつだ……ろくなあだ名じゃないがな……」
「それがどうしたんだよ」

「俺が暗殺部隊への配属を希望したのは、トウセキを殺すためだったんだ。俺は暗殺の術を学んで、妹をかどわかしたあいつを殺してやろうと思ったんだ」
「じゃあ、すればよかっただろ……」
「ダメだった、アンナに止められたんだ……」

 そこでシノが語った話は体力気力ともに尽きて、それでも手短に語ろうとした結果、まったく容量の得ない話になっていた。

 息も絶え絶えで聞き取りづらく、主語が判別しづらかったり、時系列が無茶苦茶だったり、突然、黙りこくって長い間、一言も口をきけなくなることもあった。

 しかし、ユーゴにはそれを目に浮かぶほどはっきりと想像することができた。

 アンナが自殺の際に口にしたことを思い出したからだ。
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