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6章 湧き出る盗人
11、シノの過去
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暗殺部隊での訓練を積んだシノは、長い休暇を取得してアヴィリオンに向かった。
そこにトウセキがアンナを囲っている家があり、トウセキは週に二度はそこを訪れると知っていた。
シノはその場所を探し当て、昼間、アンナが家を出たすきにその家に侵入し、トウセキだけが飲むという酒に大量の眠り薬を流し込んだ。
そして、トウセキが来るのを待ち、夕食をとったトウセキが酒を飲んで、眠ってしまうのを待った。
アンナはいつもより早く眠ってしまったトウセキを不思議に思ったものの、あえて起こすようなことはしなかった。
不愉快な男と同じ空間にいるのが嫌で、その日はソファで寝ることにした。
二人が寝静まると、シノは鍵をあけて家の中に侵入した。
そして、トウセキの枕元に立った。
闇夜のなかでナイフが濡れたように輝いていた。
「やめて、兄さん……」
シノは振り返った。
部屋の入り口にはアンナが立っていた。
シノは真正面から彼女を見て、ひどくショックを受けた。
アンナはゆったりとした部屋着を着ていたが、それでもずいぶん太ったとシノは思った。
十二歳のアンナは痩せていて、快闊な娘だった。それが今では肉付きはいいが、どこか不健康そうな肥え方をしていた。
外出を制限されているのかもしれないし、以前のように遊んだり、畑仕事を手伝うことがないからだろう。
その顔は月夜に照らされて、幽霊かと見間違えるほどに白かった。
その瞳には表情のかけらも浮かんでいなかった。
「起きたか……音がしたか?」
「ううん、なんとなくそんな気がしただけ。その人が夕食を食べてすぐに眠ってしまうことなんて一回もなかったから」
「そうか。そっちで待っててくれ。すぐに自由にしてやる」
シノはナイフを握りなおすと、トウセキの首に突き刺さるよう刃先の角度を合わせた。
シノは凄惨な光景を妹に見せまいと思った。
しかし、アンナはその場から動こうとはせず、シノを虚ろな眼差しで見つめていた。
「やめて! 兄さん!!」
「なぜ?」
「トウセキを殺したら、きっと私たちの村は仕返しに合うわ。だって、そうでしょう? 私の住んでいる家で殺されたとしたら、私が犯人を部屋に招き入れたと思われるもの。それに私がトウセキを離れたがってるのは……みんな知ってることだから」
「いわれのない仕返しを恐れる必要はない。どうして、群盗のボスが殺されたからといって、無理やりかどわかした娘の故郷が恨まれなきゃいけないんだ?」
「そんなのが通用しない相手なのよ。奴らに大事なのは自分たちのメンツだけ」
「うちの村は大丈夫だ。やつらの縄張りからは一番遠しいし、それほど裕福じゃない」
「いいえ、兄さんも分かってるでしょう? 二度と同じことが起こらないよう、徹底的に見せしめをするのが彼らのやり方よ。自分たちが正しいかどうかは、自分たちが決める。周りが決めることじゃない」
「アンナが気にすることじゃない。君は自分が幸せになることだけを考えるんだ」
シノは言いながら、ナイフをトウセキに振りかざした。
「やめて!!」
アンナがシノに飛びついた。
シノは思わず手を止めた。
「私がどうしてここにいるか、分かってないの? お母さんとお父さんを守るためよ。二人だけじゃない。村の全員が、平和で不安なく暮らせるように。そのために私はここにいるの。だって、そうでしょう? 私が我慢できたら、それでみんなが幸せに暮らせるんだもの。私の我慢を無駄にするようなことはしないで……」
「このまま彼を野放しにしろというのか? それが正しいとでも?」
「こんなやり方はうまくいかないって言いたいの」
アンナは静かに言った。
「じゃあ、どうしろというんだ」
「トウセキを捕まえて。彼を公明正大な裁判によって裁いてちょうだい。それなら私たちの集落に恨みが向くことはないわ。お願い、兄さん。わたしがかわいそうだと思うのなら、トウセキを具体的な罪名のもとに捕まえて」
アンナは矢継ぎ早に言った。
「それなら奴らも納得するわ。裁判所を相手に復讐するなんてできっこないもの。でしょ」
「それなら、わたしは何の心配もなく村へ帰れる……それまでの間、わたしは頑張って我慢してみせるから……」
アンナの言ったことに納得したわけではなかったが、シノはそのまま帰るしかなかった。もし、ここでトウセキを殺して、彼女の言ったとおりになれば、彼女のしてきたことをすべて無駄にしてしまう。
シノはそれに耐えられなかった。
アンナはそれ以上に、深い悲しみを背負うことになるだろうと思った。
シノはその日、アンナに見送られて王都へ戻ると、暗殺部隊からの異動を願い出た。
もっと強くなるべきだと思った。潜入や、暗殺の能力ではなく、野をかけ、剣を振るい、敵を撃ち抜く能力が必要だと思った。
そうすれば、トウセキを捕まえることができる。
そのために、こういった特殊な任務に携わることのできる威力騎馬隊に入隊した。
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