62 / 71
最終章 やめられない旅人
2、夜の一幕
しおりを挟む打ちひしがれたようなうめき声にユーゴは自分が眠っていたことを悟った。
そうか、自分はやられたんだ。
ユーゴは当初、そのうめき声を自分のものだと解釈した。眠っている間にトウセキが自分を叩きのめして、銃を奪って立ち去ったのだろう。
だから、自分は完膚なきまでにやられて、弱々しいうめき声を漏らしているのだと。
あるいはもう虫の息なのかもしれない。
「ううう……クソッ……こんな体じゃなきゃ……」
声の主が苦悶の声をあげながら、そうぼやいたとき、ユーゴははじめてそれが自分の物ではないと悟った。
ヤバい、起きなきゃ。
ユーゴは目を覚まして、ホルスターに手をあて、銃を確認した。それから、トウセキの方に視線をやる。
彼はうめき声にも無頓着な様子で眠っていた。
続いてユーゴはユズキエルを見た。
彼女は自分の身体を抱くようにして、縮こまり、ガタガタ震えていた。
「どうしたんだ? ユズキエル」
「すまねえ……起こしちゃったみたいだな」
「ううん、起きてなきゃいけなかったんだ。君は?」
ユーゴはユズキエルの腕に触れた。
「冷たっ」
思わず手を離すほど彼女の身体は冷え切っていた。
無理もなかった。
夜も更けて荒野はすっかり冷えこみ、洞窟の入り口からは身のすくむような外気が入り込んでくる。
そのうえ、ユズキエルはほとんど裸の状態で、薄い鱗が大事なところを隠しているに過ぎない。
「寒いんだろう?」
「少しな……」
「ちょっと待ってて」
ユーゴはユズキエルに自分のベストを着せてやると、洞窟を出て周囲を見渡した。
月の光で外は明るかった。
ユーゴは周辺に生えていた針葉樹林の枝をナイフで切り落とすと、それを使って簡易のすだれを作り、それで洞窟の入り口を覆った。それをするだけで冷たい風が入り込んでくるのをいくらか防ぐことができた。
ユーゴはそれをすると枕にしていた背嚢の中を覗いてみた。暖を取れそうなものは一つもなかった。
火を起こすのはやめておこうと思った。
火を起こせば、煙の臭いや火の光から自分の居場所を悟られてしまう恐れがあった。
「ユズ、これを下に敷くといい」
ユーゴは背嚢の中身をとりだして、地面に敷いてやると、ユズキエルをその上に寝かせた。
それからユーゴは、洞窟の床をナイフで掘り始めた。
地面は砂利の層になっていて、ナイフを使えばなんとか掘り進めることができた。固い岩石の層でなかったのは幸いだったが、それでも必死で掘り進めていくうちに、爪に石が食い込み、手のあちこちに擦り傷ができた。
ユーゴは痛みに歯を食いしばりながら穴を掘り続けた。
ユズキエルが奇妙な眼差しを背中にあびながら、ユーゴは深さ五センチ、直径一メートルほど地面を掘り下げた。
それを終えると、息を切らしながらユズキエルの隣に座った。彼女を温めるように体を寄せる。
「ユーゴ、あんた何をしたんだ?」
「ん?」
ユーゴは激しい疲労感に苛まれていたが、満足そうな表情をしていた。
「そこに穴を掘ってさ、掘ったからには何かするんだろうと思って見てたら、そのままじゃないか。なんであんなことをしたんだよ」
「ああ……」
ユーゴは照れくさそうに笑った。
「どれくらい効果があるかは分からないんだけど、寒いときは地面を少し掘り下げておくだけで、冷たい空気をそこにためておくことができるんだ」
「冷たい空気を貯める?」
ユズキエルは顔をしかめて繰り返した。
「うん、空気は下にいくほど冷たくなるから。地面に座ると一番冷たい空気に触れていることになる。だから、冷たい空気を貯めるように、ちょっとだけ地面を掘り下げたんだよ」
「人間はみんなそうするものなのか?」
ユーゴは思わず噴き出した。
「まさか。普通は温かい家に住むんだよ。風の吹きこまない、暖炉で温められた家にね。これは生き残るための知恵だ。知っている人は少なくないかもしれないけど、実際にやる人はそう多くないだろうね」
ユーゴは懐かしそうに目を細め、自分がこの知識を得たときのことについて話し始めた。
「俺の住んでた集落は、山の上にあって冬は結構冷えるんだ。村の年寄りがよく、雪山での寒さの凌ぎ方を教えてくれたんだ。まず、雪や風を防げるような洞窟を探し、入り口を何かで塞ぐ。それから、洞窟の地面を少し掘り、一番冷たい空気を貯めて置く。それをするだけで生き延びられる可能性がずっとあがるそうなんだ」
「人間ってのは本当におかしなことを考えつくんだな」
ユーゴは燻製肉を食べたときも同じような台詞を口にしたが、今は皮肉っぽいニュアンスは含まれていなかった。
「寒いだろう。もっとそばによるといいよ」
ユーゴはユズキエルを抱き寄せ、自分にもたれかかるようにしてやった。
「君も大変だな。ドラゴンの姿なら、こんなことにはならなかっただろうに」
「まったくだよ、畜生、この傷、早くなんとかしちまわないとな……」
ユーゴは忌々しそうに悪態をつくユズキエルを見た。
「本当は今すぐ君を解放してあげたいんだけど、君もこんな荒野に放り出されても困るだろうし、悪いけど今はトウセキの枷の意味合いもあるから、不便だろうけど我慢してくれよ。ベルナードに着いたら、きっと逃がしてあげるから」
「分かってるぜ、ユーゴ。あたしもあんたがいてくれなきゃ凍え死んじまうところだからな」
「体力を消耗しないうちにもうおやすみ。明日また歩いてもらうよ」
「おう」
ユーゴはユズキエルの肩を寄せて、彼女が温かく眠れるようにしてやった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
異世界転生したおっさんが普通に生きる
カジキカジキ
ファンタジー
第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位
応援頂きありがとうございました!
異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界
主人公のゴウは異世界転生した元冒険者
引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。
知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
魔道具は歌う~パーティ追放後に最高ランクになった俺を幼馴染は信じない。後で気づいてももう遅い、今まで支えてくれた人達がいるから~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界転生者シナグルのスキルは傾聴。
音が良く聞こえるだけの取り柄のないものだった、
幼馴染と加入したパーティを追放され、魔道具に出会うまでは。
魔道具の秘密を解き明かしたシナグルは、魔道具職人と冒険者でSSSランクに登り詰めるのだった。
そして再び出会う幼馴染。
彼女は俺がSSSランクだとは信じなかった。
もういい。
密かにやってた支援も打ち切る。
俺以外にも魔道具職人はいるさ。
落ちぶれて行く追放したパーティ。
俺は客とほのぼのとした良い関係を築きながら、成長していくのだった。
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる