異世界列車囚人輸送

先川(あくと)

文字の大きさ
69 / 71
最終章 やめられない旅人

9、根源的な欲求

しおりを挟む

「ダメだ、ユズキエル!」
 ユーゴの叫びが声になって口から洩れた。

(おっと! なんなんだよ!)
 それに応じて、ユズキエルの声が内にこもる。

「殺しちゃいけない」

(ふざけるなよ! この体はあたしのものだ!)
 ユズキエルが激高し、ユーゴはあらゆる感情がユズキエルと溶け合うのを感じた。

 激しい怒りを感じているのはユーゴ自身でもあり、ユーゴの意思に反して、体はトウセキへと歩みを進める。
ユーゴはなんとか肉体を律しようとしたが、魂が身体から離れていくような心細さに襲われはじめていた。

「これは……どうなってるんだ……」

(仲良くやろうじゃないか。一つの身体を分け合ってるんだ。あんたはあたしであたしはあんたさ)
 ユーゴの精神がユズキエルに浸食されていくのが分かった。苛烈な怒り、残虐な衝動、滾る欲求に絶えず苛まれていた。

「イヤだ……俺はこんなことを望んでいない……」

(殺せ! 殺せ! 殺せ! 喉笛に食らいつき、腹を抉り、臓腑を引きずり出してやれ)
 ユズキエルの内なる声が、わんわんと耳の中で響いている。

「やめるんだ、ユズキエル……トウセキは生きたままベルナードに連れて行くんだ……。殺してしまったら、何もかもが台無しだ」
 ユーゴは体からユズキエルを追い出そうとした。
 自分の身体がこれ以上トウセキに近づかないように、腕を掴み、ひざ立ちになって、あたかも暴漢を押さえつけるように、自分を組み伏そうとした。
 しかし、ユズキエルは強い力でもってユーゴを立ち上がらせた。

 自分の肉体はいまやユズキエルの命令によく従うようになっていた。

 ユーゴは必死に抗った。
 視界は地震のように激しく縦揺れを起こし、ユーゴの理性は気だるさの中にからめとられていく。

「出て行け。頼む……出て行ってくれ!!」

 ユーゴがユズキエルの同化を拒むたびにユーゴの牙、翼、爪は縮小し、しかし、すぐにまた伸びてしまう。

 寄せては返す波のように、ユーゴの身体は目まぐるしく発達と衰退を繰り返した。

(そいつはあたしたちを殺そうとしたんだぞ!! 殺されそうになったら殺す! それのどこがいけないんだ?)

「アンナが……安心して暮らせるようにしたいんだ。群盗の陰に怯えることなく、逆恨みでなんであれ、報復を恐れることなく生きていけるようにしてやりたいんだ」

(殺してしまえばいいさ! それが一番安心だ)

「誰もが納得する方法じゃなきゃいけない。手続きが大事なんだ。公平で平等な手続きが」

(あたし、知ったことじゃないね)

「俺の身体に居座るなら、俺に従ってくれ……」

(嫌だね! あたしはこの体がすっかり気に入ったんだ。あんたの中にある美しい欲望の数々が手に取るようにわかるよ。抑えつけなくてもいい)

「黙れ!」

(はあ……この体は本当にいいなァ!! 成長盛りで官能も悪くないみたいだ。この男を殺せば、この身体はどれほどスッキリするだろうな? 動かなくなったこの男の姿を見て、どれほどときめくだろうな?)

「そんなわけないだろ!」

(暴力の悦びは根源的なものじゃないか。ネコだってネズミをなぶりものにする)

「俺にそんな趣味はない」

(嘘をつくんじゃない。どっちにしろ騙しとおすことなんかできないんだから。分からないなら言ってやろうか? この体は今激しく欲情している! 死に瀕して子孫を残そうと、女を犯し、種をまき散らし、肉欲を満たす機会をうかがっている。はあ……、この体が快楽に咽ぶ瞬間が待ち遠しいよ。早くこいつを殺して、放蕩にふけろうじゃないか)

「一瞬だけで良い。頼むから、一瞬だけ出て行ってくれないか?」
 ユーゴは言った。

「見え透いた嘘は通用しないぞ。あたしを追い出した後に、自殺するかもしれないだろう。もしくは、もう二度と同化できないようその肉体に癒着したメノウを引きちぎるつもりかもしれない」

「嘘じゃないんだ……本当に、一瞬だけ出て行ってくれ」
 ユーゴは心の底から願った。
 このわからず屋の龍に言うことを聞かせたかった。

「お断りだ!」

「出ていけと言ってるだろおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 ユーゴは怒りを爆発させ、喉がちぎれんばかりに叫んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする

ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。 リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。 これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

魔道具は歌う~パーティ追放後に最高ランクになった俺を幼馴染は信じない。後で気づいてももう遅い、今まで支えてくれた人達がいるから~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界転生者シナグルのスキルは傾聴。 音が良く聞こえるだけの取り柄のないものだった、 幼馴染と加入したパーティを追放され、魔道具に出会うまでは。 魔道具の秘密を解き明かしたシナグルは、魔道具職人と冒険者でSSSランクに登り詰めるのだった。 そして再び出会う幼馴染。 彼女は俺がSSSランクだとは信じなかった。 もういい。 密かにやってた支援も打ち切る。 俺以外にも魔道具職人はいるさ。 落ちぶれて行く追放したパーティ。 俺は客とほのぼのとした良い関係を築きながら、成長していくのだった。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

処理中です...