70 / 71
最終章 やめられない旅人
10、律儀で真面目な略奪者
しおりを挟む
理性も欲望もなく、頭の中が真っ白になるまで叫び続けた。
あらゆる思考を追い出してしまうと、悟ったように静かになる。
自分自身の中の葛藤や、不安もなく、すべてが疑いのない一つの結論を示唆していた。
ユーゴはこんなにクリアな思考を経験したことがなかった。
それは一滴の水が滴り落ちた後に訪れる余韻を含んだ静寂に似ていた。
ユズキエルはどこに行ったのか、牙、翼、爪は消滅し、ボロ布をまとった少年が一人取り残された。
ユーゴはトウセキに近づいた。
トウセキは岩の間に足を挟まれ、観念したように呆けていた。
「さっきは悪かった。もう反抗しない。また楽しい旅を続けるとしようぜ」
どこまでも余裕に満ちた表情だった。
トウセキには卑屈なところは一つもなく、まるで十年来の友人が酒の席で些細な失態を犯したかのようなそぶりだった。
「俺はあんたを信用しない」
「それはちょっと虫が良すぎねえか? ダンらを撃退したのだって、俺たちが力を合わせて戦ったからだろう。俺一人でも銃は撃てなかったし、坊主一人でも命中させることはできなかった。俺たちはあのとき確かに協力して戦った。たがいにとって信用に足る経験だったと思うね」
この男は恐れることをしないのだろうか?
それは彼の圧倒的な自信か、それとも自暴自棄なだけか。
あるいは恐怖というものがすっかり機能しなくなるほど、地獄の日々を送ってきたのかもしれない。
「あんたは人を裏切ることをなんとも思ってない。約束したといって油断した方が悪いんだろう?」
「確かにさっきはそう言った。だが、俺だって命がかかってるんだ。大人しく縛り首になるのはごめんだろ」
「縛り首になると決まったわけじゃなかった。あんたは裁判で弁明をすることができたし、弁護士を雇うことも許されていた」
「確かにそうだ。じゃあ、こうしよう。坊主が気がすむまで付き合ってやるよ。どこへでも行ってやるし、あんたが自分の仕事を成し遂げたと言えるところまで付き合ってやろうじゃねえか」
「約束するか?」
ユーゴはトウセキの目を見た。
「ああ、今度こそ約束するぜ。俺は律儀で真面目な略奪者だ。これだけは破らないって決めた、約束は何があっても破らないんだよ」
「そうかい」
「だから、この岩をどけてくれや。ちくしょう……、獣化ができれば、こんなものなんてことはねえんだが……」
トウセキは言って、血まみれの腹をさすった。
「クソ……せっかく治りかけてたって言うのに……」
思えば、腹部に弾を受けて著しく消耗していたトウセキが、一日二日、大人しくしていただけで再び獣化できるまでに回復したのだ。
恐ろしい生命力だ。
それゆえに、人間は獣人族を恐れ、徹底的に駆逐した。
ユーゴは獣人族の境遇を思い、その子孫たちが今なおさらされている数々の仕打ちを思った。
一瞬だけトウセキに憐みを覚えた。
覚悟を決めたからこそ、彼の人生に思いをはせた。
それはそれとして。
「分かった、岩をどけてやるから、動かないでくれよ」
ユーゴはトウセキに近づくと、彼の目をじっと見つめた。
「どうしたよ、早くどけてくれ」
ユーゴは黙ったまま彼を見つめ、トウセキは焦れたように言った。
「おい、まだ信用してないのか? 俺は律儀で真面目な略奪者だって言ってるだろ? 今度ばかりは坊主に従おう」
「律儀で真面目な略奪者か……」
ユーゴは一つ頷くと、素早い動作で腰に手を回した。
「だからそういってるじゃねえか――」
「そんな奴はいない」
ホルスターから輪胴式魔銃を引き抜くと、トウセキの眉間に向けて発砲した。
あらゆる思考を追い出してしまうと、悟ったように静かになる。
自分自身の中の葛藤や、不安もなく、すべてが疑いのない一つの結論を示唆していた。
ユーゴはこんなにクリアな思考を経験したことがなかった。
それは一滴の水が滴り落ちた後に訪れる余韻を含んだ静寂に似ていた。
ユズキエルはどこに行ったのか、牙、翼、爪は消滅し、ボロ布をまとった少年が一人取り残された。
ユーゴはトウセキに近づいた。
トウセキは岩の間に足を挟まれ、観念したように呆けていた。
「さっきは悪かった。もう反抗しない。また楽しい旅を続けるとしようぜ」
どこまでも余裕に満ちた表情だった。
トウセキには卑屈なところは一つもなく、まるで十年来の友人が酒の席で些細な失態を犯したかのようなそぶりだった。
「俺はあんたを信用しない」
「それはちょっと虫が良すぎねえか? ダンらを撃退したのだって、俺たちが力を合わせて戦ったからだろう。俺一人でも銃は撃てなかったし、坊主一人でも命中させることはできなかった。俺たちはあのとき確かに協力して戦った。たがいにとって信用に足る経験だったと思うね」
この男は恐れることをしないのだろうか?
それは彼の圧倒的な自信か、それとも自暴自棄なだけか。
あるいは恐怖というものがすっかり機能しなくなるほど、地獄の日々を送ってきたのかもしれない。
「あんたは人を裏切ることをなんとも思ってない。約束したといって油断した方が悪いんだろう?」
「確かにさっきはそう言った。だが、俺だって命がかかってるんだ。大人しく縛り首になるのはごめんだろ」
「縛り首になると決まったわけじゃなかった。あんたは裁判で弁明をすることができたし、弁護士を雇うことも許されていた」
「確かにそうだ。じゃあ、こうしよう。坊主が気がすむまで付き合ってやるよ。どこへでも行ってやるし、あんたが自分の仕事を成し遂げたと言えるところまで付き合ってやろうじゃねえか」
「約束するか?」
ユーゴはトウセキの目を見た。
「ああ、今度こそ約束するぜ。俺は律儀で真面目な略奪者だ。これだけは破らないって決めた、約束は何があっても破らないんだよ」
「そうかい」
「だから、この岩をどけてくれや。ちくしょう……、獣化ができれば、こんなものなんてことはねえんだが……」
トウセキは言って、血まみれの腹をさすった。
「クソ……せっかく治りかけてたって言うのに……」
思えば、腹部に弾を受けて著しく消耗していたトウセキが、一日二日、大人しくしていただけで再び獣化できるまでに回復したのだ。
恐ろしい生命力だ。
それゆえに、人間は獣人族を恐れ、徹底的に駆逐した。
ユーゴは獣人族の境遇を思い、その子孫たちが今なおさらされている数々の仕打ちを思った。
一瞬だけトウセキに憐みを覚えた。
覚悟を決めたからこそ、彼の人生に思いをはせた。
それはそれとして。
「分かった、岩をどけてやるから、動かないでくれよ」
ユーゴはトウセキに近づくと、彼の目をじっと見つめた。
「どうしたよ、早くどけてくれ」
ユーゴは黙ったまま彼を見つめ、トウセキは焦れたように言った。
「おい、まだ信用してないのか? 俺は律儀で真面目な略奪者だって言ってるだろ? 今度ばかりは坊主に従おう」
「律儀で真面目な略奪者か……」
ユーゴは一つ頷くと、素早い動作で腰に手を回した。
「だからそういってるじゃねえか――」
「そんな奴はいない」
ホルスターから輪胴式魔銃を引き抜くと、トウセキの眉間に向けて発砲した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
異世界転生したおっさんが普通に生きる
カジキカジキ
ファンタジー
第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位
応援頂きありがとうございました!
異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界
主人公のゴウは異世界転生した元冒険者
引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。
知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?
転生貴族の領地経営〜現代日本の知識で異世界を豊かにする
初
ファンタジー
ローラシア王国の北のエルラント辺境伯家には天才的な少年、リーゼンしかしその少年は現代日本から転生してきた転生者だった。
リーゼンが洗礼をしたさい、圧倒的な量の加護やスキルが与えられた。その力を見込んだ父の辺境伯は12歳のリーゼンを辺境伯家の領地の北を治める代官とした。
これはそんなリーゼンが異世界の領地を経営し、豊かにしていく物語である。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
魔道具は歌う~パーティ追放後に最高ランクになった俺を幼馴染は信じない。後で気づいてももう遅い、今まで支えてくれた人達がいるから~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界転生者シナグルのスキルは傾聴。
音が良く聞こえるだけの取り柄のないものだった、
幼馴染と加入したパーティを追放され、魔道具に出会うまでは。
魔道具の秘密を解き明かしたシナグルは、魔道具職人と冒険者でSSSランクに登り詰めるのだった。
そして再び出会う幼馴染。
彼女は俺がSSSランクだとは信じなかった。
もういい。
密かにやってた支援も打ち切る。
俺以外にも魔道具職人はいるさ。
落ちぶれて行く追放したパーティ。
俺は客とほのぼのとした良い関係を築きながら、成長していくのだった。
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる