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最終章 やめられない旅人
10、律儀で真面目な略奪者
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理性も欲望もなく、頭の中が真っ白になるまで叫び続けた。
あらゆる思考を追い出してしまうと、悟ったように静かになる。
自分自身の中の葛藤や、不安もなく、すべてが疑いのない一つの結論を示唆していた。
ユーゴはこんなにクリアな思考を経験したことがなかった。
それは一滴の水が滴り落ちた後に訪れる余韻を含んだ静寂に似ていた。
ユズキエルはどこに行ったのか、牙、翼、爪は消滅し、ボロ布をまとった少年が一人取り残された。
ユーゴはトウセキに近づいた。
トウセキは岩の間に足を挟まれ、観念したように呆けていた。
「さっきは悪かった。もう反抗しない。また楽しい旅を続けるとしようぜ」
どこまでも余裕に満ちた表情だった。
トウセキには卑屈なところは一つもなく、まるで十年来の友人が酒の席で些細な失態を犯したかのようなそぶりだった。
「俺はあんたを信用しない」
「それはちょっと虫が良すぎねえか? ダンらを撃退したのだって、俺たちが力を合わせて戦ったからだろう。俺一人でも銃は撃てなかったし、坊主一人でも命中させることはできなかった。俺たちはあのとき確かに協力して戦った。たがいにとって信用に足る経験だったと思うね」
この男は恐れることをしないのだろうか?
それは彼の圧倒的な自信か、それとも自暴自棄なだけか。
あるいは恐怖というものがすっかり機能しなくなるほど、地獄の日々を送ってきたのかもしれない。
「あんたは人を裏切ることをなんとも思ってない。約束したといって油断した方が悪いんだろう?」
「確かにさっきはそう言った。だが、俺だって命がかかってるんだ。大人しく縛り首になるのはごめんだろ」
「縛り首になると決まったわけじゃなかった。あんたは裁判で弁明をすることができたし、弁護士を雇うことも許されていた」
「確かにそうだ。じゃあ、こうしよう。坊主が気がすむまで付き合ってやるよ。どこへでも行ってやるし、あんたが自分の仕事を成し遂げたと言えるところまで付き合ってやろうじゃねえか」
「約束するか?」
ユーゴはトウセキの目を見た。
「ああ、今度こそ約束するぜ。俺は律儀で真面目な略奪者だ。これだけは破らないって決めた、約束は何があっても破らないんだよ」
「そうかい」
「だから、この岩をどけてくれや。ちくしょう……、獣化ができれば、こんなものなんてことはねえんだが……」
トウセキは言って、血まみれの腹をさすった。
「クソ……せっかく治りかけてたって言うのに……」
思えば、腹部に弾を受けて著しく消耗していたトウセキが、一日二日、大人しくしていただけで再び獣化できるまでに回復したのだ。
恐ろしい生命力だ。
それゆえに、人間は獣人族を恐れ、徹底的に駆逐した。
ユーゴは獣人族の境遇を思い、その子孫たちが今なおさらされている数々の仕打ちを思った。
一瞬だけトウセキに憐みを覚えた。
覚悟を決めたからこそ、彼の人生に思いをはせた。
それはそれとして。
「分かった、岩をどけてやるから、動かないでくれよ」
ユーゴはトウセキに近づくと、彼の目をじっと見つめた。
「どうしたよ、早くどけてくれ」
ユーゴは黙ったまま彼を見つめ、トウセキは焦れたように言った。
「おい、まだ信用してないのか? 俺は律儀で真面目な略奪者だって言ってるだろ? 今度ばかりは坊主に従おう」
「律儀で真面目な略奪者か……」
ユーゴは一つ頷くと、素早い動作で腰に手を回した。
「だからそういってるじゃねえか――」
「そんな奴はいない」
ホルスターから輪胴式魔銃を引き抜くと、トウセキの眉間に向けて発砲した。
あらゆる思考を追い出してしまうと、悟ったように静かになる。
自分自身の中の葛藤や、不安もなく、すべてが疑いのない一つの結論を示唆していた。
ユーゴはこんなにクリアな思考を経験したことがなかった。
それは一滴の水が滴り落ちた後に訪れる余韻を含んだ静寂に似ていた。
ユズキエルはどこに行ったのか、牙、翼、爪は消滅し、ボロ布をまとった少年が一人取り残された。
ユーゴはトウセキに近づいた。
トウセキは岩の間に足を挟まれ、観念したように呆けていた。
「さっきは悪かった。もう反抗しない。また楽しい旅を続けるとしようぜ」
どこまでも余裕に満ちた表情だった。
トウセキには卑屈なところは一つもなく、まるで十年来の友人が酒の席で些細な失態を犯したかのようなそぶりだった。
「俺はあんたを信用しない」
「それはちょっと虫が良すぎねえか? ダンらを撃退したのだって、俺たちが力を合わせて戦ったからだろう。俺一人でも銃は撃てなかったし、坊主一人でも命中させることはできなかった。俺たちはあのとき確かに協力して戦った。たがいにとって信用に足る経験だったと思うね」
この男は恐れることをしないのだろうか?
それは彼の圧倒的な自信か、それとも自暴自棄なだけか。
あるいは恐怖というものがすっかり機能しなくなるほど、地獄の日々を送ってきたのかもしれない。
「あんたは人を裏切ることをなんとも思ってない。約束したといって油断した方が悪いんだろう?」
「確かにさっきはそう言った。だが、俺だって命がかかってるんだ。大人しく縛り首になるのはごめんだろ」
「縛り首になると決まったわけじゃなかった。あんたは裁判で弁明をすることができたし、弁護士を雇うことも許されていた」
「確かにそうだ。じゃあ、こうしよう。坊主が気がすむまで付き合ってやるよ。どこへでも行ってやるし、あんたが自分の仕事を成し遂げたと言えるところまで付き合ってやろうじゃねえか」
「約束するか?」
ユーゴはトウセキの目を見た。
「ああ、今度こそ約束するぜ。俺は律儀で真面目な略奪者だ。これだけは破らないって決めた、約束は何があっても破らないんだよ」
「そうかい」
「だから、この岩をどけてくれや。ちくしょう……、獣化ができれば、こんなものなんてことはねえんだが……」
トウセキは言って、血まみれの腹をさすった。
「クソ……せっかく治りかけてたって言うのに……」
思えば、腹部に弾を受けて著しく消耗していたトウセキが、一日二日、大人しくしていただけで再び獣化できるまでに回復したのだ。
恐ろしい生命力だ。
それゆえに、人間は獣人族を恐れ、徹底的に駆逐した。
ユーゴは獣人族の境遇を思い、その子孫たちが今なおさらされている数々の仕打ちを思った。
一瞬だけトウセキに憐みを覚えた。
覚悟を決めたからこそ、彼の人生に思いをはせた。
それはそれとして。
「分かった、岩をどけてやるから、動かないでくれよ」
ユーゴはトウセキに近づくと、彼の目をじっと見つめた。
「どうしたよ、早くどけてくれ」
ユーゴは黙ったまま彼を見つめ、トウセキは焦れたように言った。
「おい、まだ信用してないのか? 俺は律儀で真面目な略奪者だって言ってるだろ? 今度ばかりは坊主に従おう」
「律儀で真面目な略奪者か……」
ユーゴは一つ頷くと、素早い動作で腰に手を回した。
「だからそういってるじゃねえか――」
「そんな奴はいない」
ホルスターから輪胴式魔銃を引き抜くと、トウセキの眉間に向けて発砲した。
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