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二章 秘宝「ジェタクの果印」
23話 アキモモのお茶について
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「つ、ついた……」
山頂についた俺はその場に座り込んでしまった。
激しい運動に足は重く、いかれちまったようにブルブルと震えている。一度、バラバラになった足腰をセロハンテープで貼り付けているみたいなのだ。
「お疲れさまでした! はい、お茶」
ミーノは俺に水筒を手渡した。
「あ、ありがと……」
俺は水筒を受け取ると、ミーノの目を盗んで、ケツに差し込んだ。口がお尻についているんだから仕方ない。俺は水筒を傾けて、むさぼるようにお茶を飲む。
緑茶ではなかった。味としてはジャスミンティーに近いのだろうか。薬草の香りとわずかな苦みが口に広がる。疲れていてもゴクゴク飲める味だ。
「ぷはーっ。上手いなあ。なんていうお茶だ」
「お茶に名前なんてありません。お茶はお茶です」
ミーノは不思議そうに首を傾けた。
「そうか。じゃあ、どうやって作るんだ?」
「庭に生えているアキモモの若葉を摘んで煮だすんですよ」
「へー、そのアキモモ。そいつは、このあたりじゃよく生えてるものなのか?」
「はい、私たちの村ではどこの家でも、庭にアキモモの樹を植えているんです。ちょうど田植えを始める一週間くらい前ですかね、アキモモの葉を摘んで、乾燥させておくんです。大体、夏が終わるころにはなくなっちゃうんですけど、それまでは美味しいお茶が飲めるんですよ?」
「じゃあ、もう少しで終わりなわけだ」
「はい」
ミーノによれば、この世界にも四季があるという。冬の寒さは厳しく、夏はそれほど暑くない。今はその涼しい夏にあたるという。それでも久しぶりの運動で、俺はかなりの汗をかいていた。
「アキモモはお茶も美味しいんですけど、秋になるととっても甘い実をつけるんですよ? わたし、それが大好きなんです」
「へえ、食べてみたいな」
俺がそのアキモモの味を聞こうとしたときだった。突然、地鳴りのような音がして、山の中腹で煙があがった。
「始まりましたね」
「戦闘か」
優秀な冒険者たちが、メインクエストである魔獣討伐を開始したようだ。今回の魔獣は相当手ごわく、ジェタクの果印を探している場合ではないようだ。
「なあ、俺たちが戦いに巻き込まれることはないのか?」
俺はミーノに聞いた。
「ランスさんのチームは結界を貼りながら、徐々に魔獣を追い詰めていくと言っていました。結界に入らない限りは、大丈夫なんじゃないでしょうか? ただ……」
「ただ?」
「戦闘が激しくなりますと、山全体に緊張が走ります。殺気だったクマやイノシシに襲われる可能性はありますね」
魔獣に勝てないのは言うまでもないが、俺にとっては、クマやイノシシだってじゅうぶん恐ろしい。
俺は腰に刺したサバイバルナイフを取り出し、刃先を眺めた。さきほど、ここに来る前に街で買ったものだ。
俺はヴァーギンとの飲み比べに勝ち、ヴァーギンの勝ちに賭けていた冒険者から八千リラを巻き上げた。そこから二千リラをギルドに返し、手元には六千リラが残ったのだが、そのうちの千リラを使って、軽い防具や、サバイバルナイフを買っていた。
太刀やハンマーは重すぎて振り回すこともできない。弓矢は振り絞る力もなければ、的に当てるだけの技術もない。結局、今扱えるのはサバイバルナイフしかなかった。といっても、戦闘に関してはド素人だ。それほど役に立つとは思えない。
あとはミーノがどこまでやれるかだが……。
俺はミーノに目をやった。
彼女は今日も薄汚れた無地のワンピースを着ている。麻袋を胸に抱いてちょこんと座る姿はあまり冒険者らしくない。
それでも、俺は心強かった。ミーノは俺よりも一週間早く冒険者になったのだ。
「職業は農民って言ったけど、農民って何ができるんだ?」
山頂についた俺はその場に座り込んでしまった。
激しい運動に足は重く、いかれちまったようにブルブルと震えている。一度、バラバラになった足腰をセロハンテープで貼り付けているみたいなのだ。
「お疲れさまでした! はい、お茶」
ミーノは俺に水筒を手渡した。
「あ、ありがと……」
俺は水筒を受け取ると、ミーノの目を盗んで、ケツに差し込んだ。口がお尻についているんだから仕方ない。俺は水筒を傾けて、むさぼるようにお茶を飲む。
緑茶ではなかった。味としてはジャスミンティーに近いのだろうか。薬草の香りとわずかな苦みが口に広がる。疲れていてもゴクゴク飲める味だ。
「ぷはーっ。上手いなあ。なんていうお茶だ」
「お茶に名前なんてありません。お茶はお茶です」
ミーノは不思議そうに首を傾けた。
「そうか。じゃあ、どうやって作るんだ?」
「庭に生えているアキモモの若葉を摘んで煮だすんですよ」
「へー、そのアキモモ。そいつは、このあたりじゃよく生えてるものなのか?」
「はい、私たちの村ではどこの家でも、庭にアキモモの樹を植えているんです。ちょうど田植えを始める一週間くらい前ですかね、アキモモの葉を摘んで、乾燥させておくんです。大体、夏が終わるころにはなくなっちゃうんですけど、それまでは美味しいお茶が飲めるんですよ?」
「じゃあ、もう少しで終わりなわけだ」
「はい」
ミーノによれば、この世界にも四季があるという。冬の寒さは厳しく、夏はそれほど暑くない。今はその涼しい夏にあたるという。それでも久しぶりの運動で、俺はかなりの汗をかいていた。
「アキモモはお茶も美味しいんですけど、秋になるととっても甘い実をつけるんですよ? わたし、それが大好きなんです」
「へえ、食べてみたいな」
俺がそのアキモモの味を聞こうとしたときだった。突然、地鳴りのような音がして、山の中腹で煙があがった。
「始まりましたね」
「戦闘か」
優秀な冒険者たちが、メインクエストである魔獣討伐を開始したようだ。今回の魔獣は相当手ごわく、ジェタクの果印を探している場合ではないようだ。
「なあ、俺たちが戦いに巻き込まれることはないのか?」
俺はミーノに聞いた。
「ランスさんのチームは結界を貼りながら、徐々に魔獣を追い詰めていくと言っていました。結界に入らない限りは、大丈夫なんじゃないでしょうか? ただ……」
「ただ?」
「戦闘が激しくなりますと、山全体に緊張が走ります。殺気だったクマやイノシシに襲われる可能性はありますね」
魔獣に勝てないのは言うまでもないが、俺にとっては、クマやイノシシだってじゅうぶん恐ろしい。
俺は腰に刺したサバイバルナイフを取り出し、刃先を眺めた。さきほど、ここに来る前に街で買ったものだ。
俺はヴァーギンとの飲み比べに勝ち、ヴァーギンの勝ちに賭けていた冒険者から八千リラを巻き上げた。そこから二千リラをギルドに返し、手元には六千リラが残ったのだが、そのうちの千リラを使って、軽い防具や、サバイバルナイフを買っていた。
太刀やハンマーは重すぎて振り回すこともできない。弓矢は振り絞る力もなければ、的に当てるだけの技術もない。結局、今扱えるのはサバイバルナイフしかなかった。といっても、戦闘に関してはド素人だ。それほど役に立つとは思えない。
あとはミーノがどこまでやれるかだが……。
俺はミーノに目をやった。
彼女は今日も薄汚れた無地のワンピースを着ている。麻袋を胸に抱いてちょこんと座る姿はあまり冒険者らしくない。
それでも、俺は心強かった。ミーノは俺よりも一週間早く冒険者になったのだ。
「職業は農民って言ったけど、農民って何ができるんだ?」
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