53 / 97
三章 クジ引き国王とツンデレメイドゾンビの幽霊
53話 ヤケ酒とミーノの訪問
しおりを挟む
「何を言う!! 大体……私みたいな卑しい身分のものと、陛下が釣り合うわけないのだ。恋愛感情を持つこと自体おこがましいのだ!!」
「そうですか? 国王も案外コフネさんのことが好きだったりして」
「す、スキ!? ……………………あり得ん、あり得ん、あり得ん!! ヤグラ、私をからかいに来たのか?」
「いや、別にからかってるわけじゃ……」
俺はそこで押し黙ってしまった。コフネさんの顔が気の毒なほど赤くなっていた。切れ長の目尻が下がり、泣きそうな表情になる。彼女は自分が取り乱していることに、酷く戸惑っていた。
コフネさんはしばらくのあいだ、手で火照った顔をあおいでいた。だけど、いつの間にか陰鬱な表情が、彼女の恥じらいを覆い隠してしまった。
「正直なところ、私の感情が何かなんて、どうでもいいんだよ。恋だろうが、憐みだろうが、それは私の問題であって、陛下には関係がない。でも、陛下を救ってあげられないのは苦しいんだ。これから先、陛下は大きな選択を迫られるたびに神判を実施し、神の意向と周りを納得させながら、マツリゴトを行っていく。その虚しさを思うと、気が遠くなるよ。誰かが陛下の判断を支持し、尊重しなければならない。だけど、私はただの下役人。陛下が王になると分かっていれば私ももっと出世を望んだのになあ」
コフネさんはなげやりに本を閉じた。
コフネさんの話を聞くと、フリアーナ六世はそれほど悪い人ではないように思えた。そして、彼の葛藤も痛いほど理解できた。
純粋な悪などどこにも存在しなかった。
悪逆非道な王もいない。ミタカさんの熱湯裁判だって、後継者争いを未然に防ぐためのものだ。後継者争いが泥沼の内戦を引き起こした例は山ほどある。伊達や酔狂でやっているわけではない。
だからといって、ミタカさんの子どもを殺してしまえばいいという問題ではない。子どもの血統をはっきりさせたうえで、皇位継承の優先度を確立し、内戦の芽を摘まなければいけない。
それが理想だろう。それで周囲が納得しないからと言って、すでに死んだミタカさんに肉体を与えたうえで、神明裁判にかけるのは残酷だ。
俺は宿屋の一室でヤケ酒に溺れていた。
誰か悪者を決めて、ソイツの罪を糾弾できれば、俺が罪悪感を抱くこともないだろう。
だが実際には完璧な悪は存在しない。フリアーナ六世はただ誰もが納得する選択をしなければいけないだけだ。
なんであれ、俺がミタカさんを守れていれば、こんな事態になることはなかった。
もっと早くミタカさんを逃がしていれば……。
誰かが尾行している可能性を考慮していれば……。
あのときあの男たちに勝っていれば……。
俺さえしっかりしていれば、誰が何と言おうとミタカさんを守ることができたのだ。
俺だって、ここに来てから徐々に力をつけている。体力は現世と比べ物にならないほど上がっているし、格闘やナイフの扱いも覚えつつある。
オバケカボチャの種を使えば、魔獣を狩ることだってできる。
それでも周りの冒険者や傭兵の方が一日の長がある。自分の中ではこれ以上ないくらい頑張っているのだ。だが、周りと比べればモブキャラとそれほど変わらない。人より優れているものといれば、消化器官の蠕動運動くらいだ。
俺は酒屋で買ってきたツマミを食い、酒を飲んだ。
酒を飲んでぼんやりとすれば、嫌なことは考えずに済んだ。
俺はワインを一気飲みし、グラスを空けると、また壺を傾け、グラスにワインを注いだ。
すでにまっすぐ歩けないほど酔っぱらっていたが、まだ飲みたかった。
ドンドンッ!!
そのとき勢いよく扉をたたく音がした。
「ヤグラ君っ!! 入りますよー」
聞きなれた幼い声がして、ドアが開いた。
「そうですか? 国王も案外コフネさんのことが好きだったりして」
「す、スキ!? ……………………あり得ん、あり得ん、あり得ん!! ヤグラ、私をからかいに来たのか?」
「いや、別にからかってるわけじゃ……」
俺はそこで押し黙ってしまった。コフネさんの顔が気の毒なほど赤くなっていた。切れ長の目尻が下がり、泣きそうな表情になる。彼女は自分が取り乱していることに、酷く戸惑っていた。
コフネさんはしばらくのあいだ、手で火照った顔をあおいでいた。だけど、いつの間にか陰鬱な表情が、彼女の恥じらいを覆い隠してしまった。
「正直なところ、私の感情が何かなんて、どうでもいいんだよ。恋だろうが、憐みだろうが、それは私の問題であって、陛下には関係がない。でも、陛下を救ってあげられないのは苦しいんだ。これから先、陛下は大きな選択を迫られるたびに神判を実施し、神の意向と周りを納得させながら、マツリゴトを行っていく。その虚しさを思うと、気が遠くなるよ。誰かが陛下の判断を支持し、尊重しなければならない。だけど、私はただの下役人。陛下が王になると分かっていれば私ももっと出世を望んだのになあ」
コフネさんはなげやりに本を閉じた。
コフネさんの話を聞くと、フリアーナ六世はそれほど悪い人ではないように思えた。そして、彼の葛藤も痛いほど理解できた。
純粋な悪などどこにも存在しなかった。
悪逆非道な王もいない。ミタカさんの熱湯裁判だって、後継者争いを未然に防ぐためのものだ。後継者争いが泥沼の内戦を引き起こした例は山ほどある。伊達や酔狂でやっているわけではない。
だからといって、ミタカさんの子どもを殺してしまえばいいという問題ではない。子どもの血統をはっきりさせたうえで、皇位継承の優先度を確立し、内戦の芽を摘まなければいけない。
それが理想だろう。それで周囲が納得しないからと言って、すでに死んだミタカさんに肉体を与えたうえで、神明裁判にかけるのは残酷だ。
俺は宿屋の一室でヤケ酒に溺れていた。
誰か悪者を決めて、ソイツの罪を糾弾できれば、俺が罪悪感を抱くこともないだろう。
だが実際には完璧な悪は存在しない。フリアーナ六世はただ誰もが納得する選択をしなければいけないだけだ。
なんであれ、俺がミタカさんを守れていれば、こんな事態になることはなかった。
もっと早くミタカさんを逃がしていれば……。
誰かが尾行している可能性を考慮していれば……。
あのときあの男たちに勝っていれば……。
俺さえしっかりしていれば、誰が何と言おうとミタカさんを守ることができたのだ。
俺だって、ここに来てから徐々に力をつけている。体力は現世と比べ物にならないほど上がっているし、格闘やナイフの扱いも覚えつつある。
オバケカボチャの種を使えば、魔獣を狩ることだってできる。
それでも周りの冒険者や傭兵の方が一日の長がある。自分の中ではこれ以上ないくらい頑張っているのだ。だが、周りと比べればモブキャラとそれほど変わらない。人より優れているものといれば、消化器官の蠕動運動くらいだ。
俺は酒屋で買ってきたツマミを食い、酒を飲んだ。
酒を飲んでぼんやりとすれば、嫌なことは考えずに済んだ。
俺はワインを一気飲みし、グラスを空けると、また壺を傾け、グラスにワインを注いだ。
すでにまっすぐ歩けないほど酔っぱらっていたが、まだ飲みたかった。
ドンドンッ!!
そのとき勢いよく扉をたたく音がした。
「ヤグラ君っ!! 入りますよー」
聞きなれた幼い声がして、ドアが開いた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。
そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。
【カクヨムにも投稿してます】
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者
哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。
何も成し遂げることなく35年……
ついに前世の年齢を超えた。
※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。
※この小説は他サイトにも投稿しています。
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-
ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。
困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。
はい、ご注文は?
調味料、それとも武器ですか?
カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。
村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。
いずれは世界へ通じる道を繋げるために。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる