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4.観光地の事情
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「気分転換しよ」
わたしはそういうと、スマホで動画を見始める。
『今日も呪われてるかーい』
画面の向こうでは男性がそういって、ノリノリで配信をはじめた。
明るく始まったけれど、この男性――ノロ・ノロイさんは、ホラー専門のヨ―チューバ―だ。
心霊スポットを巡ったり、呪われている品を見つけてきて調査をしたりしている。
たまーに普通の旅行の配信もあるけれど、大抵は心霊関係。
ここしばらくホラーや心霊がマイブームのわたしは、彼の動画を観てドキドキハラハラしている。
あーあ、わたしもヨ―チューブはじめようかなあ。
この超能力は、動画で披露したらきっと注目される。
でも、そうしたら大騒ぎになって、その挙句、極秘の研究所に連れて行かれて実験台にされるかもしれない。
そう考えて、わたしは背筋がぶるっと震える。
今日は疲れたし、早く寝よう。
次の日の朝。
昇降口でスニーカーから上履きにはきかえている西園寺に聞いてみた。
今お兄さんが海外なら、わたしたちが探すのは無理なのでは、と。
すると、西園寺はさらっとそう答えたのだ。
「今、日本にいるらしいんだよ」
「お兄さんがそういってきたの?」
「いや、数日前にヨ―チューバ―の動画に出てた。ゲストとして招かれたらしい」
「そのヨ―チューバは、日本にいる人で、だから今は日本にいるだろう、ってこと?」
西園寺がうなずいたので、わたしはスニーカーを靴箱に入れながらいう。
「じゃあ連絡とればいいじゃん。それで解決」
「兄貴、スマホの電源切ってるっぽい」
「なんで?」
「さあ。居場所を知られたくないんだろ」
西園寺はそれだけいうと、歩き出す。
「昔から自由奔放な兄貴だったからな」
そういい終えるが早いか、階段を上がっていった。
なーんだ。日本にいるんだ……。それなら放っておけば近いうちに帰ってきそうだけど。
スマホの電源を切ってるってことは、探されたくないのでは?
それでも西園寺は、お兄さんを見つけたいらしい。
ってことは、西園寺(兄)探しを手伝わなきゃダメかあ。
やりたくないけど、どうせヒマだしなあ。
ぼんやりしながら六年一組の教室にたどり着く。
「おはよう、萌乃香」
そういって、うれしそうに声をかけてくれたのは、姫宮苺。
動くフランス人形。気さくな天使。
周囲がそんな呼び方をするほどに、苺はかわいい。
指定のセーラー服も、苺が着ると絵画のように美しい。
そんな苺が、笑顔で挨拶をしてくれたので、途端に機嫌が直った。
西園寺の手伝いをしなきゃいけないことなんて、どこかへ吹き飛ぶ。
「苺、おはよう~。今日も天使みたいにかわいい。いや、天使より上!」
「やだなあもう、うちのパ――じゃない、お父さんみたいなこといわないでよ」
クスクスと笑う苺を見ていると、異変に気付いた。
目の下にくまがある。
「苺、最近ちゃんと寝てる?」
わたしがそう聞くと、彼女は慌てた様子でいう。
「えっ? 寝てるよ?」
そういってにっこり笑った。
「でも、なんかこう、寝不足っぽい」
わたしがそう言葉をにごすのは、乙女の目の下にくまがある、なんていうのは失礼な気がするからだ。しかも、ここは教室だし。
苺は、わたしのいわんとすることに気づいたらしく、ハッとして目の下を手で隠しながらいう。
「うん、本当に大丈夫だから」
そういった苺の表情は、大丈夫ではなさそうだ。
深く追求する前に、ホームルームの始まりを告げるチャイムが鳴った。
今日の放課後に遊びに誘って、何か悩みでもあるのかさり気なく聞いてみよう。
「ごめんね。今日はお店の手伝いがあるの。本当にごめんね」
苺が、何度も謝ってくる。
お昼休みに、今日の放課後にいっしょに遊ぼう、と提案したらそういわれたのだ。
「いいのいいの! お店のお手伝いが優先だよ。わたしと遊ぶことはいつでもできるからいいよ」
わたしが笑っていうと、苺はホッとしたような表情をする。
あーあ、昨日から西園寺と話しているせいか、ストレスがたまってるんだよね。
わたしを癒せるのは苺だけだと思ってたけど、お店があるならしかたがない。
ヒマを持て余しているわたしとちがう。
このクラス……いや、この学校の生徒たちは、放課後は忙しい子が多い。
そもそも、わたしの家が異質なのだ。
うちのクラスメイトの親は、何かしらの店を経営している。
カフェとか、レストランとか、和菓子屋とか。
苺も、老舗和菓子屋の『ひめみや』の娘だし。
西園寺は老舗旅館『西園寺旅館』の息子。
中でもクラスのボス的存在が、ワンダーランドの経営者の娘である白鳥さんだ。
そもそも、有栖町は十年前は閑古鳥が鳴くほどの寂しい温泉街だった。
だけど、今から八年ほど前に、白鳥さんのお父さんが有栖町のそばのゴルフ場を買い取り、そこを遊園地にした。
それがワンダーランド。
ワンダーランドは、あまり広い遊園地ではない。
だけど、不思議のアリスの世界観が忠実に再現されている。
うわさがうわさを呼び、ワンダーランドはままたくまに大繁盛。
商店街をワンダーランドに寄せれば、温泉街も活気が戻るといったのは、白鳥さんのお父さんらしい。
そんなわけで今の有栖町があるのだ……と、お父さんから聞いた。
だから町の人は白鳥さんのお父さんに、わたしたちは白鳥さんに、だれも逆らえない。
そして店を経営していない――つまり、温泉街に何の貢献もしていない緒代家は、肩身が狭い。
誰かにいじめられれているわけじゃない。
だけど、白鳥さんには嫌われていると思う。
わたしはそういうと、スマホで動画を見始める。
『今日も呪われてるかーい』
画面の向こうでは男性がそういって、ノリノリで配信をはじめた。
明るく始まったけれど、この男性――ノロ・ノロイさんは、ホラー専門のヨ―チューバ―だ。
心霊スポットを巡ったり、呪われている品を見つけてきて調査をしたりしている。
たまーに普通の旅行の配信もあるけれど、大抵は心霊関係。
ここしばらくホラーや心霊がマイブームのわたしは、彼の動画を観てドキドキハラハラしている。
あーあ、わたしもヨ―チューブはじめようかなあ。
この超能力は、動画で披露したらきっと注目される。
でも、そうしたら大騒ぎになって、その挙句、極秘の研究所に連れて行かれて実験台にされるかもしれない。
そう考えて、わたしは背筋がぶるっと震える。
今日は疲れたし、早く寝よう。
次の日の朝。
昇降口でスニーカーから上履きにはきかえている西園寺に聞いてみた。
今お兄さんが海外なら、わたしたちが探すのは無理なのでは、と。
すると、西園寺はさらっとそう答えたのだ。
「今、日本にいるらしいんだよ」
「お兄さんがそういってきたの?」
「いや、数日前にヨ―チューバ―の動画に出てた。ゲストとして招かれたらしい」
「そのヨ―チューバは、日本にいる人で、だから今は日本にいるだろう、ってこと?」
西園寺がうなずいたので、わたしはスニーカーを靴箱に入れながらいう。
「じゃあ連絡とればいいじゃん。それで解決」
「兄貴、スマホの電源切ってるっぽい」
「なんで?」
「さあ。居場所を知られたくないんだろ」
西園寺はそれだけいうと、歩き出す。
「昔から自由奔放な兄貴だったからな」
そういい終えるが早いか、階段を上がっていった。
なーんだ。日本にいるんだ……。それなら放っておけば近いうちに帰ってきそうだけど。
スマホの電源を切ってるってことは、探されたくないのでは?
それでも西園寺は、お兄さんを見つけたいらしい。
ってことは、西園寺(兄)探しを手伝わなきゃダメかあ。
やりたくないけど、どうせヒマだしなあ。
ぼんやりしながら六年一組の教室にたどり着く。
「おはよう、萌乃香」
そういって、うれしそうに声をかけてくれたのは、姫宮苺。
動くフランス人形。気さくな天使。
周囲がそんな呼び方をするほどに、苺はかわいい。
指定のセーラー服も、苺が着ると絵画のように美しい。
そんな苺が、笑顔で挨拶をしてくれたので、途端に機嫌が直った。
西園寺の手伝いをしなきゃいけないことなんて、どこかへ吹き飛ぶ。
「苺、おはよう~。今日も天使みたいにかわいい。いや、天使より上!」
「やだなあもう、うちのパ――じゃない、お父さんみたいなこといわないでよ」
クスクスと笑う苺を見ていると、異変に気付いた。
目の下にくまがある。
「苺、最近ちゃんと寝てる?」
わたしがそう聞くと、彼女は慌てた様子でいう。
「えっ? 寝てるよ?」
そういってにっこり笑った。
「でも、なんかこう、寝不足っぽい」
わたしがそう言葉をにごすのは、乙女の目の下にくまがある、なんていうのは失礼な気がするからだ。しかも、ここは教室だし。
苺は、わたしのいわんとすることに気づいたらしく、ハッとして目の下を手で隠しながらいう。
「うん、本当に大丈夫だから」
そういった苺の表情は、大丈夫ではなさそうだ。
深く追求する前に、ホームルームの始まりを告げるチャイムが鳴った。
今日の放課後に遊びに誘って、何か悩みでもあるのかさり気なく聞いてみよう。
「ごめんね。今日はお店の手伝いがあるの。本当にごめんね」
苺が、何度も謝ってくる。
お昼休みに、今日の放課後にいっしょに遊ぼう、と提案したらそういわれたのだ。
「いいのいいの! お店のお手伝いが優先だよ。わたしと遊ぶことはいつでもできるからいいよ」
わたしが笑っていうと、苺はホッとしたような表情をする。
あーあ、昨日から西園寺と話しているせいか、ストレスがたまってるんだよね。
わたしを癒せるのは苺だけだと思ってたけど、お店があるならしかたがない。
ヒマを持て余しているわたしとちがう。
このクラス……いや、この学校の生徒たちは、放課後は忙しい子が多い。
そもそも、わたしの家が異質なのだ。
うちのクラスメイトの親は、何かしらの店を経営している。
カフェとか、レストランとか、和菓子屋とか。
苺も、老舗和菓子屋の『ひめみや』の娘だし。
西園寺は老舗旅館『西園寺旅館』の息子。
中でもクラスのボス的存在が、ワンダーランドの経営者の娘である白鳥さんだ。
そもそも、有栖町は十年前は閑古鳥が鳴くほどの寂しい温泉街だった。
だけど、今から八年ほど前に、白鳥さんのお父さんが有栖町のそばのゴルフ場を買い取り、そこを遊園地にした。
それがワンダーランド。
ワンダーランドは、あまり広い遊園地ではない。
だけど、不思議のアリスの世界観が忠実に再現されている。
うわさがうわさを呼び、ワンダーランドはままたくまに大繁盛。
商店街をワンダーランドに寄せれば、温泉街も活気が戻るといったのは、白鳥さんのお父さんらしい。
そんなわけで今の有栖町があるのだ……と、お父さんから聞いた。
だから町の人は白鳥さんのお父さんに、わたしたちは白鳥さんに、だれも逆らえない。
そして店を経営していない――つまり、温泉街に何の貢献もしていない緒代家は、肩身が狭い。
誰かにいじめられれているわけじゃない。
だけど、白鳥さんには嫌われていると思う。
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