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6.苺のヘアピン
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そして深夜一時四十分。
わたしはこっそりと自室を抜け出した。
両親はぐっすりと眠っているし、これは案外簡単に家から抜け出せるな、と思いきや――。
「……速攻でバレてんじゃねえか」
家を出ると、門の前に立っていた西園寺が呆れたように笑う。
夜中ずっとソワソワしていたわたしを見て、両親が何かあると思って寝たふりをしていたらしい。
「というわけで、私たちも着いていくね」「子どもたちだけじゃ危ないからな」とうちの両親。
両親にはワンダーランドが深夜営業しているかも、といううわさだけは話した。
「夜中に女子をひとりで歩かせるわけにはいかないと思って迎えにきたけど、必要なかったか」
そういって、西園寺は歩き出す。
「変なところで紳士だよね……」
わたしはそうつぶやいて、西園寺の後ろを歩き出す。その後ろを両親が着いてくる。
夜中の有栖町は、しんと静まり返っていた。
灯りのついている家や店はもちろんなく、街灯がティーポットを模した形のポストを不気味に照らしている。
白い塀に描かれたアリスのシルエットもなんだか不気味。
ホラー作品や怪談話は好きだけど、それでも怖いものは怖い。
両親は、「なんか出そう」とボソボソ話してるし。
やめてよ、そういうこというの~!
「ねぇ、なんか怖くない?」
わたしがそう聞いても、西園寺はなにも答えない。
「ちょっと、なんか話してよ」
「声が響くから大人しく歩いてろ」
そういった西園寺の声は、震えているようだった。
ホラーが苦手な西園寺のほうがよけいに怖いよね。
そう思ったら、なんだか気持ちが少しだけ落ち着いてきた。
ワンダーランドの門の前に着くと、中は真っ暗。
門の鍵も閉まっていて、ビクともしない。
「まあ、やってるわけがないよね」
「無駄足だったな」
西園寺がそういって、来た道を戻る。
わたしもそのあとに続こうとしてふと、足を止める。
地面にきらりと光るものが落ちていた。
それを拾いあげると、ヘアピンだった。
わたしはヘアピンをよくよく見てみる。
小さなイチゴの飾りのついたヘアピン。
これ、苺のヘアピンだ。
わたしはヘアピンを握ってみる。
途端に頭の中に映像が流れ込んできた。
わたしがアイスクリームを食べて笑っているところだ。
これは、夏休みに近所のショッピングモールで買い物をして、休憩がてらアイスを食べた時だと思う。
やっぱり苺のヘアピンだ。
だけど、なんでこんなところに……。最近、苺はワンダーランドに来たのかな。
結局、少しだけ待ってもワンダーランドは営業している様子はない。
そんなわけで帰ることにした。
「あっ。わたしのヘアピンだ。なくしたと思ってたんだ」
次の日の朝、教室でヘアピンを苺に渡した。
「拾ってくれて、ありがとう」
「ワンダーランドの門の前に落ちてたよ」
わたしがそういうと、苺がおどろいたような顔をする。
それから、目を伏せながらいう。
「そんなわけないよ……。わたし、最近はワンダーランドには行ってないから……」
「でも、ワンダーランドの門の前に落ちてたよ」
「行ってないの」
苺はそういって自分の席に戻ってしまった。
なんだか苺が急に元気がなくなった気がする。
それから苺は、あからさまにおかしくなった。
わたしを避けるのだ。
無視をされるわけじゃない。
でも、話しかけるとすぐに切り上げてしまって、トイレへ行ってしまう。
放課後は、家の手伝いだといって逃げるように帰って行った。
そんなことが丸二日も続いた。
避けられて三日目。
わたしはとうとう、苺にハッキリと聞いた。
「どうしてわたしを避けるの?」
「ちがうの……。避けてるわけじゃないの……」
そういった苺は、消えそうな声だった。
「ちがわないよ。苺、変だもん」
「それは、その、ちょっと事情があって」
「事情ってなに?」
わたしがそう聞くと、甲高い声が話に割って入ってきた。
「ケンカはみっともないわよ!」
白鳥桜子の登場だ。いちいちおせっかいな人だな。
このクラスのボスみたいな態度が、なんかモヤッとする。
「白鳥さんには関係ないでしょ!」
わたしがいうと、白鳥さんはこちらをチラッと見る。
それから、白鳥さんは苺にいう。
「あなたは間違ってないわ」
「ありがとう」
苺がそう答える。
なに? ふたりでなんの話?
「苺、なんで白鳥さんと仲良くしてるの?!」
わたしがそういうと、白鳥さんがこちらをにらみつける。
「姫宮さんは、あなただけのものではないでしょ?」
「はあ? そんなこといってないじゃん!」
わたしが姫宮さんをにらみつけると、ぬっと間に誰かが入ってきた。
「邪魔だ」
西園寺はそういうと、わたしと白鳥さんの間を通り抜け、教室のドアに手をかけた。
その姿勢のままで、こちらを振り返って西園寺は口を開く。
「例の事件、解決したぞ」
「えっ?」
わたしがいうと西園寺は、大きくうなずいた。
教室から出ていく西園寺のあとを、わたしは急いで追いかける。
ちらっと苺のほうを振り返ると、不安そうな表情でこちらを見ていた。
白鳥さんは、「気にすることないわよ」なんて苺にいっている。
いつのまに苺は白鳥さんと仲良くなったんだろう?
もしかして、ワンダーランドの門の前にヘアピンが落ちていたのって……。
こっそりワンダーランドで、白鳥さんと遊んでる?
白鳥さんがわたしのことを嫌ってること知ってて、仲良くしてるの? ひどい!
そう思うと、わたしは苺が不安そうな顔をしていることなんてどうでも良くなってくる。
だから、急いで西園寺を追いかけた。
わたしはこっそりと自室を抜け出した。
両親はぐっすりと眠っているし、これは案外簡単に家から抜け出せるな、と思いきや――。
「……速攻でバレてんじゃねえか」
家を出ると、門の前に立っていた西園寺が呆れたように笑う。
夜中ずっとソワソワしていたわたしを見て、両親が何かあると思って寝たふりをしていたらしい。
「というわけで、私たちも着いていくね」「子どもたちだけじゃ危ないからな」とうちの両親。
両親にはワンダーランドが深夜営業しているかも、といううわさだけは話した。
「夜中に女子をひとりで歩かせるわけにはいかないと思って迎えにきたけど、必要なかったか」
そういって、西園寺は歩き出す。
「変なところで紳士だよね……」
わたしはそうつぶやいて、西園寺の後ろを歩き出す。その後ろを両親が着いてくる。
夜中の有栖町は、しんと静まり返っていた。
灯りのついている家や店はもちろんなく、街灯がティーポットを模した形のポストを不気味に照らしている。
白い塀に描かれたアリスのシルエットもなんだか不気味。
ホラー作品や怪談話は好きだけど、それでも怖いものは怖い。
両親は、「なんか出そう」とボソボソ話してるし。
やめてよ、そういうこというの~!
「ねぇ、なんか怖くない?」
わたしがそう聞いても、西園寺はなにも答えない。
「ちょっと、なんか話してよ」
「声が響くから大人しく歩いてろ」
そういった西園寺の声は、震えているようだった。
ホラーが苦手な西園寺のほうがよけいに怖いよね。
そう思ったら、なんだか気持ちが少しだけ落ち着いてきた。
ワンダーランドの門の前に着くと、中は真っ暗。
門の鍵も閉まっていて、ビクともしない。
「まあ、やってるわけがないよね」
「無駄足だったな」
西園寺がそういって、来た道を戻る。
わたしもそのあとに続こうとしてふと、足を止める。
地面にきらりと光るものが落ちていた。
それを拾いあげると、ヘアピンだった。
わたしはヘアピンをよくよく見てみる。
小さなイチゴの飾りのついたヘアピン。
これ、苺のヘアピンだ。
わたしはヘアピンを握ってみる。
途端に頭の中に映像が流れ込んできた。
わたしがアイスクリームを食べて笑っているところだ。
これは、夏休みに近所のショッピングモールで買い物をして、休憩がてらアイスを食べた時だと思う。
やっぱり苺のヘアピンだ。
だけど、なんでこんなところに……。最近、苺はワンダーランドに来たのかな。
結局、少しだけ待ってもワンダーランドは営業している様子はない。
そんなわけで帰ることにした。
「あっ。わたしのヘアピンだ。なくしたと思ってたんだ」
次の日の朝、教室でヘアピンを苺に渡した。
「拾ってくれて、ありがとう」
「ワンダーランドの門の前に落ちてたよ」
わたしがそういうと、苺がおどろいたような顔をする。
それから、目を伏せながらいう。
「そんなわけないよ……。わたし、最近はワンダーランドには行ってないから……」
「でも、ワンダーランドの門の前に落ちてたよ」
「行ってないの」
苺はそういって自分の席に戻ってしまった。
なんだか苺が急に元気がなくなった気がする。
それから苺は、あからさまにおかしくなった。
わたしを避けるのだ。
無視をされるわけじゃない。
でも、話しかけるとすぐに切り上げてしまって、トイレへ行ってしまう。
放課後は、家の手伝いだといって逃げるように帰って行った。
そんなことが丸二日も続いた。
避けられて三日目。
わたしはとうとう、苺にハッキリと聞いた。
「どうしてわたしを避けるの?」
「ちがうの……。避けてるわけじゃないの……」
そういった苺は、消えそうな声だった。
「ちがわないよ。苺、変だもん」
「それは、その、ちょっと事情があって」
「事情ってなに?」
わたしがそう聞くと、甲高い声が話に割って入ってきた。
「ケンカはみっともないわよ!」
白鳥桜子の登場だ。いちいちおせっかいな人だな。
このクラスのボスみたいな態度が、なんかモヤッとする。
「白鳥さんには関係ないでしょ!」
わたしがいうと、白鳥さんはこちらをチラッと見る。
それから、白鳥さんは苺にいう。
「あなたは間違ってないわ」
「ありがとう」
苺がそう答える。
なに? ふたりでなんの話?
「苺、なんで白鳥さんと仲良くしてるの?!」
わたしがそういうと、白鳥さんがこちらをにらみつける。
「姫宮さんは、あなただけのものではないでしょ?」
「はあ? そんなこといってないじゃん!」
わたしが姫宮さんをにらみつけると、ぬっと間に誰かが入ってきた。
「邪魔だ」
西園寺はそういうと、わたしと白鳥さんの間を通り抜け、教室のドアに手をかけた。
その姿勢のままで、こちらを振り返って西園寺は口を開く。
「例の事件、解決したぞ」
「えっ?」
わたしがいうと西園寺は、大きくうなずいた。
教室から出ていく西園寺のあとを、わたしは急いで追いかける。
ちらっと苺のほうを振り返ると、不安そうな表情でこちらを見ていた。
白鳥さんは、「気にすることないわよ」なんて苺にいっている。
いつのまに苺は白鳥さんと仲良くなったんだろう?
もしかして、ワンダーランドの門の前にヘアピンが落ちていたのって……。
こっそりワンダーランドで、白鳥さんと遊んでる?
白鳥さんがわたしのことを嫌ってること知ってて、仲良くしてるの? ひどい!
そう思うと、わたしは苺が不安そうな顔をしていることなんてどうでも良くなってくる。
だから、急いで西園寺を追いかけた。
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