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7.誕生日
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昇降口にいた西園寺をつかまえる。
「事件って、例のワンダーランドが深夜に営業してるってやつだよね」
わたしの言葉に、西園寺は少しだけ考えてから口を開く。
「そうだ。だから今からおれの家――西園寺旅館に行くぞ」
「え? なんで西園寺旅館に行くの?」
「答えがそこにあるんだよ」
わたしは頭上に「?」を浮かべたままで、西園寺とともに下校した。
西園寺旅館へ行くまでの間。
わたしはただただ苺のことだけを考えていた。
明日から、どういう顔をして会えばいいんだろう?
もしかして、苺は明日から白鳥さんと仲良くしてるかもしれない。
それにしても、いつまにふたりはあんなに親しくなったんだろう。
考えればキリがない。
そうこうしている間に、西園寺旅館に着いた。
裏口から旅館へ入り、階段で三階へ。
外観はメルヘンだけど、さすが老舗旅館。
築百年越えであろう木造の廊下は、掃除や手入れが行き届いているし、使われている柱も立派だ。
我が家は築年数が三十年くらい若いのに、この違いはなんだろう……。
西園寺は、廊下の突き当りで足を止めた。
それから何かを取り出す。
「これ、見てみろよ」
そういって西園寺が見せてきたのは、スマホの画面。
画面には一枚の写真が写し出されていた。
そこには、夜の闇に浮かぶ火の玉のようなものが見える。
よくよく見てみると、それはワンダーランドだった。
夜のワンダーランドに、一か所だけ灯りがともっている場所があるのだ。
「これって……」
わたしが顔をあげると、西園寺がうなずいた。
「昨日の午後十一時に、ここで撮った写真」
西園寺の言葉に、わたしは廊下の窓を見た。
窓の外には有栖町の景色と、それからワンダーランドも見える。
「ここから、ワンダーランドがよく見えるんだな。知らなかった」
西園寺はそういうと、窓の外に視線を向けた。
「じゃあ、ワンダーランドは本当に深夜営業してるの? それとも、ここだけ灯りがついてるってことは、仕事してる人がいるの?」
「調べたら、灯りがついている場所はフードコートだ」
わたしが首を傾げていると、西園寺がいう。
「おれの推測だが」
そう前置きして、わたしを見る。
「閉店後にフードコートの灯りがついてるってことは、そこで誰かが調理をしてるってことだろ」
「まあ、そういうことかもね」
「で、一昨日、深夜にワンダーランドの前に落ちてたイチゴのヘアピン」
「うん。苺のだった……」
「おれ、昨日、母親に買い物を頼まれてな。スーパーに行ったら、こそこそしてる姫宮がいた」
「えっ? 苺が?」
「なんだか怪しいから姫宮の買い物カゴの中を見たら、薄力粉やら生クリームが入ってんだ」
「別になにも怪しくないけど……」
「ピンとこないか?」
西園寺はそういうと、無表情のままでわたしを見る。
「お店の買い物じゃないの?」
「それなら、こそこそする必要はないよな」
「西園寺には、こそこそして見えただけかもしれないし」
その時、わたしのスマホからメッセージを知らせる音がした。
差出人は、苺だった。
【急にごめんね。今から会えないかな? ってゆーか萌乃香の家の前にいるの】
「なんで苺が家に?」
「行ってやれよ」
西園寺の言葉に、わたしは「うん」といって歩き出す。
すると、背中のほうで声が聞こえた。
「そういや、誕生日おめでとう」
「ありがとう」
一週間遅れだけど。
「一週間遅れで悪かったな」
西園寺の言葉に、わたしは思わず突っ込む。
「だからエスパーかよ!」
笑うわたしに、西園寺は不思議そうに首を傾げた。
家に戻ると、苺は居間に通されていた。
「勝手に上がっちゃって、ごめんね」
部屋の隅でちょこんと座る苺に続いて、母がいう。
「いいのよぉ。この暑い中、外で待ってることないんだから」
わたしは、ちゃぶ台を隔てた苺の向かいに座る。
母は、「買い物行ってくるからお留守番お願いね」と家を出ていった。
静かになった居間で、苺がおもむろに白い箱を置く。
まるでケーキの箱みたいだ。
「これ、一週間、遅れ、なんだけど」
「えっ?」
「あ! ちがうの! 作ったのは、昨夜なの。だから賞味期限は大丈夫」
苺はそういうと、箱のふたを取る。
出てきたのは、ロールケーキだった。
一切れではなく、まるまる一本。
「これ、まさか、苺が作ったの?」
「うん。そうなの。萌乃香のために張り切ったんだよ」
「そっかぁ。わたしのために……。え、わたしのため?」
「本当は、誕生日に間に合わせたかったんだけど、なかなか納得できる生地ができなくて」
「最近、お店の手伝いが多かったのは、このロールケーキを作ってくれてたからかあ」
わたしがそう納得したところで、苺が頭を左右に振った。
「ううん、ちがうの。家では作ってないの」
「そうなの? じゃあ、どこで作ってたの?」
わたしが聞くと、苺は少しだけ考えてから答える。
「ワンダーランド」
「えっ……」
わたしはそこでハッとする。
そうだ、西園寺が見せてくれたスマホの写真。
閉園後のワンダーランドのフードコートにだけ、灯りがついてたって。
「事件って、例のワンダーランドが深夜に営業してるってやつだよね」
わたしの言葉に、西園寺は少しだけ考えてから口を開く。
「そうだ。だから今からおれの家――西園寺旅館に行くぞ」
「え? なんで西園寺旅館に行くの?」
「答えがそこにあるんだよ」
わたしは頭上に「?」を浮かべたままで、西園寺とともに下校した。
西園寺旅館へ行くまでの間。
わたしはただただ苺のことだけを考えていた。
明日から、どういう顔をして会えばいいんだろう?
もしかして、苺は明日から白鳥さんと仲良くしてるかもしれない。
それにしても、いつまにふたりはあんなに親しくなったんだろう。
考えればキリがない。
そうこうしている間に、西園寺旅館に着いた。
裏口から旅館へ入り、階段で三階へ。
外観はメルヘンだけど、さすが老舗旅館。
築百年越えであろう木造の廊下は、掃除や手入れが行き届いているし、使われている柱も立派だ。
我が家は築年数が三十年くらい若いのに、この違いはなんだろう……。
西園寺は、廊下の突き当りで足を止めた。
それから何かを取り出す。
「これ、見てみろよ」
そういって西園寺が見せてきたのは、スマホの画面。
画面には一枚の写真が写し出されていた。
そこには、夜の闇に浮かぶ火の玉のようなものが見える。
よくよく見てみると、それはワンダーランドだった。
夜のワンダーランドに、一か所だけ灯りがともっている場所があるのだ。
「これって……」
わたしが顔をあげると、西園寺がうなずいた。
「昨日の午後十一時に、ここで撮った写真」
西園寺の言葉に、わたしは廊下の窓を見た。
窓の外には有栖町の景色と、それからワンダーランドも見える。
「ここから、ワンダーランドがよく見えるんだな。知らなかった」
西園寺はそういうと、窓の外に視線を向けた。
「じゃあ、ワンダーランドは本当に深夜営業してるの? それとも、ここだけ灯りがついてるってことは、仕事してる人がいるの?」
「調べたら、灯りがついている場所はフードコートだ」
わたしが首を傾げていると、西園寺がいう。
「おれの推測だが」
そう前置きして、わたしを見る。
「閉店後にフードコートの灯りがついてるってことは、そこで誰かが調理をしてるってことだろ」
「まあ、そういうことかもね」
「で、一昨日、深夜にワンダーランドの前に落ちてたイチゴのヘアピン」
「うん。苺のだった……」
「おれ、昨日、母親に買い物を頼まれてな。スーパーに行ったら、こそこそしてる姫宮がいた」
「えっ? 苺が?」
「なんだか怪しいから姫宮の買い物カゴの中を見たら、薄力粉やら生クリームが入ってんだ」
「別になにも怪しくないけど……」
「ピンとこないか?」
西園寺はそういうと、無表情のままでわたしを見る。
「お店の買い物じゃないの?」
「それなら、こそこそする必要はないよな」
「西園寺には、こそこそして見えただけかもしれないし」
その時、わたしのスマホからメッセージを知らせる音がした。
差出人は、苺だった。
【急にごめんね。今から会えないかな? ってゆーか萌乃香の家の前にいるの】
「なんで苺が家に?」
「行ってやれよ」
西園寺の言葉に、わたしは「うん」といって歩き出す。
すると、背中のほうで声が聞こえた。
「そういや、誕生日おめでとう」
「ありがとう」
一週間遅れだけど。
「一週間遅れで悪かったな」
西園寺の言葉に、わたしは思わず突っ込む。
「だからエスパーかよ!」
笑うわたしに、西園寺は不思議そうに首を傾げた。
家に戻ると、苺は居間に通されていた。
「勝手に上がっちゃって、ごめんね」
部屋の隅でちょこんと座る苺に続いて、母がいう。
「いいのよぉ。この暑い中、外で待ってることないんだから」
わたしは、ちゃぶ台を隔てた苺の向かいに座る。
母は、「買い物行ってくるからお留守番お願いね」と家を出ていった。
静かになった居間で、苺がおもむろに白い箱を置く。
まるでケーキの箱みたいだ。
「これ、一週間、遅れ、なんだけど」
「えっ?」
「あ! ちがうの! 作ったのは、昨夜なの。だから賞味期限は大丈夫」
苺はそういうと、箱のふたを取る。
出てきたのは、ロールケーキだった。
一切れではなく、まるまる一本。
「これ、まさか、苺が作ったの?」
「うん。そうなの。萌乃香のために張り切ったんだよ」
「そっかぁ。わたしのために……。え、わたしのため?」
「本当は、誕生日に間に合わせたかったんだけど、なかなか納得できる生地ができなくて」
「最近、お店の手伝いが多かったのは、このロールケーキを作ってくれてたからかあ」
わたしがそう納得したところで、苺が頭を左右に振った。
「ううん、ちがうの。家では作ってないの」
「そうなの? じゃあ、どこで作ってたの?」
わたしが聞くと、苺は少しだけ考えてから答える。
「ワンダーランド」
「えっ……」
わたしはそこでハッとする。
そうだ、西園寺が見せてくれたスマホの写真。
閉園後のワンダーランドのフードコートにだけ、灯りがついてたって。
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