ワンダーランドのおひざもと

花千世子

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8.仲直り

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「ワンダーランドのフードコートを使ってたこと?」
「そう。フードコートにいるシェフの人で、元パティシエの人がいるの。その人に教わってたんだ」
「教わってたってすごいね」
「すごくないよ。たまたま白鳥さんのお父さんがうちの和菓子が好きだから、白鳥さんの家に大福を届けた時にね。萌乃香の誕生日ケーキを作りたいって話をしたら、タダで使わせてあげるわよ、って」
「そういうことだったんだ。でも、なんで自分の家で作らないの?」
「お父さんが、洋菓子があんまり好きじゃないから」
「えっ? そういう理由?」
「うん。だから、家だと作りにくくて……だから、お父さんには白鳥さんの家に行ってくるってうそついて、ワンダーランドに行ってたんだ」

 じゃあ、むしろ白鳥さんは協力してくれてる側だったんだ。
 わたしはてっきり、苺と白鳥さんが知らない間に仲良くなってるとばっかり……。
 ああ、わたしはなんて自己中なの!

「ごめん、苺! 今日、わたし、苺のこと責めちゃって」
「ううん。わたしのほうこそ、ごめんね。サプライズにしたくて黙ってたんだ」

 苺はそこまでいい終えると、「サプライズって難しいね」と笑う。

「サプライズ、大成功だよ。ありがとう」

 わたしはそういって笑った。

 それから、苺が切ってくれたロールケーキをふたりで食べた。
 めちゃくちゃ美味しくて、才能を感じたなあ。
 ケーキを食べたあと、苺が「実は和菓子職人じゃなくてパティシエになりたいと思ってるの」と打ち明けてくれた。

「お父さんもお母さんも、わたしが和菓子職人になると思ってるから、内緒にしてるの」

 そういった苺は、寂しそうにうつむく。
 そういえば、西園寺のキーホルダーに触れた時、見えたっけ。
 パイロットになりたいといっていた、幼い西園寺。
 もしかしたら、西園寺はパイロットの夢を叶えたくて、お兄さんを探しているのかな。
 本来は長男であるお兄さんが、旅館を継ぐはずだから。
 そして、和菓子職人じゃなくて、パティシエになりたい苺。それを両親に話せないでいる。
 わたしは、お店を経営している家の子は、幸せなんだと思っていた。
 だけど、みんな、いろいろな悩みを抱えているんだ。

「わたしは、苺の夢を応援してるからね」

 苺にそういうと、にっこり微笑んでくれた。

 その日の夜。
 西園寺にメッセージで、苺のことを伝えた。パティシエになりたいことは伏せて。
 わたしの誕生日のサプライズをするために、ワンダーランドのフードコートでケーキを焼いていた。
 苺の話によると、フードコートを使っていたのは夜九時から十時くらいまで。
 つまり、深夜にワンダーランドのアトラクションが動いていたり、二時におばけが出たりするってのは完全にうそ。
 それを報告すると、西園寺から返事がきた。

【じゃあ、うわさを流していた人物がいるというよりは、フードコートの灯りがついているのを見た誰かが勘違いしただけってことか】
【そうだね。お兄さんが関わってる可能性は低いね】
【そうみたいだな……】

 それきり返事はこなくなった。
 西園寺、ガッカリしたんだろうか。
 わたしも、お兄さんの手がかりが見つからないことにガッカリだよ。
 あーあ、まだお兄さん探しを手伝わなきゃいけないのかあ。
 別にわたしには関係ないんだけど、乗りかけた船を降りるのもなあ……。
 そんなことを考えていたら、いつの間にか眠ってしまった。

 ふと目が覚めた。
 外はまだ真っ暗なのに遠くから、ワンダーランドの間の抜けた音楽が聞こえてくる。
 空耳かと思ったんだけど、音がどんどん大きくなった。
 まさか、とつぶやいて、窓を開ける。

 ワンダーランドのほうを見れば、灯りがついていた。
 フードコートだけに灯りがついている雰囲気じゃない。ここからだと少し遠くて見えないけど。
 全部のアトラクションが動いているみたいだ。

 確かめにいこうかと思ったけれど、体が動かなかった。
 行ったらいけない気がした。どうしてなのかわからないけど。
 怖くなってきて、わたしは布団に戻る。
 スマホで時刻を確認すると深夜二時だった。
 わたしは、タオルケットを頭まですっぽりとかぶる。
 それでも、ワンダーランドの音楽がここまで聞こえてきた。

 次の日の朝、わたしはあくびをしながら登校する。
 ワンダーランドが夜中に営業しているのを見てしまって、怖くてなかなか眠れなかった。
 ホラー映画を観ても、あそこまで恐怖を感じたことはなかったのに。
 それはもしかして、あれが本当の出来事だったから?
 いやいや、まさか、夢だよね。
 そんなことを布団の中で考えていたせいか寝不足だ。
 わたしがあくびをしながら歩いていると。

「よお」

 そういって、後ろから声をかけてきた西園寺。
 彼もまた、眠そうにだるそうに歩いていた。

「おはよう。なに? 西園寺も寝不足?」
「ああ、ちょっと」

 西園寺はそういうと、こう続けた。

「昨日、いや今日か。夜中にワンダーランドの曲が外から聞こえてきてさ」
「え?」
「いや、夢だ、ただの夢」

 西園寺はきっぱりとそういいきった。
 わたしはふと振り返る。
 ワンダーランドは、まだ閉まっている。

「うん。夢だよね」 

 自分にいい聞かせるかのようにいって、歩き出す。
 その時、聞こえてきた気がした。

 ワンダーランドにおいでよ~♪
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