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10.思い出を作ろう
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「これ、大きな大きな苺、じゃないんだよ」
わたしは目の前の建物を見て、そう解説をする。
目の前にあるのは、大きな大きな苺……ではなく苺の形をした建物だ。
あれが、和菓子屋「ひめみや」で、苺(ああ、ややこしい)の両親の経営するお店。
でも、どこからどう見ても巨大な苺にしか見えない。
メルヘンな有栖町だから浮くどころかなじんでいるけど、他の観光地にあったら目立ちまくりだろうなあ。
そんなことを思いつつ、カバンをチラッと見る。
肩かけバッグからは、ぴょん太が顔を出していた。
ぴょん太の記憶を上書きするために、お出かけしている。
とりあえず、ご近所ツアー。散歩ともいう。
時刻は午前九時で、お店はオープンしたばかりだというのに、お客さんはチラホラいる。
「今日は土曜日だから、苺も忙しいんだろうなあ」
わたしがそういって、次の場所へ行こうとすると。
「萌乃香」
苺が店から慌てて出てきた。
「あれ? 苺、お店は?」
「まだそこまで忙しくないから」
「そっかあ。でも、これからお客さん増えるでしょ」
「うん。そうだけど、萌乃香、何か用があった?」
そういって首を傾げる苺は、今日も最高にかわいい。
長い髪の毛を白い後ろでまとめて、えんじの和のユニフォームに白いエプロン姿が似合っている。
「用事ってゆーか、このぴょん太に、あちこち見せて回ってるんだ」
「あっ、本当。ぴょん太だ」
苺はそういうと、カバンから顔を出すぴょん太に微笑む。
そして、エプロンのポケットから何かを取り出す。
袋に入ったいちご大福だ。
「はい。これ。お土産」
苺がそういって笑った。
「ありがとう」
「それじゃあ、またね。夜にメッセージするからね」
苺はそういうと、お店に戻っていった。
「ぴょん太、わたしの親友、かわいいでしょ~」
わたしはご機嫌で、ぴょん太に話しかけながら町を歩く。
なんだか今日はいつもより人が少ない気がする。
土曜日なんだから、いつもだったらこの倍は人がいるはずなんだけど……。まあいいか。
それから切り株の形のベンチに腰掛けて、いちご大福を食べる。
やっぱり、「ひめみや」のいちご大福は美味しい。
甘酸っぱい苺と上品な甘みのあんこが合うし、大福の餅はとても柔らかい。
このいちご大福目当てに行列ができるんだけど、並んででも食べたい気持ちはわかる。
わたしも思わず西園寺(兄)探しを手伝うくらい大好物だし。
いちご大福を食べ終えると、わたしはあちこちを回った。
カフェ、レストラン、お土産屋さん、洋菓子屋さん。
みんなメルヘンでカラフルな建物だけど、老舗の店も多い。
わたしは洋菓子屋を通り過ぎながら、ぴょん太にいう。
「この洋菓子屋さんはね、有栖町で唯一の洋菓子屋さんで、すっごく美味しいんだけど」
わたしは辺りをキョロキョロと見回してから、声のトーンを落としていう。
「苺パパの弟さんが経営してて、パティシエもやってるんだって。でも、ふたりすごく仲悪いって、苺から聞いたんだ」
だから苺は、叔父が経営する洋菓子屋ではなく、あえてワンダーランドでわたしのケーキを作ってくれたんだろう。
大人の事情に、子どもを巻き込まないでほしい。
「ちょっと休憩しよっか」
わたしはそういうと、葉っぱの形のベンチに座った。
ぴょん太の入ったバッグを膝の上に乗せ、さきほど買った缶ジュースを飲む。
まだぴょん太の記憶は、顔が黒いままの元の持ち主との思い出だ。
もちろん、たった一日で何かが変わるとは思えない。
だから、これからぴょん太といっしょに思い出をつくっていくのが一番だ。
そんなことを考えてジュースをの飲んでいたせいで、ちょっとこぼれた。
「あっ、よかった。ぴょん太にはついてない」
セーフ。
でも、手がべたべたしてる。
すぐそこに水道があるから手を洗おう、とわたしは立ち上がる。
このカバンの中身は、もうおこづかいがほとんど入ってない財布と、ぴょん太とハンカチのみ。
水道はすぐそばだから、ベンチに置いたままで誰かが取ることもないか。
「ちょっと待っててね」
わたしはぴょん太にそういうと、急いで手を洗いに行った。
「おまたせー」
ベンチに戻ると、ぴょん太の姿はなかった。
え、誰かに取られた?
そう思ったけど、カバンの中身は無事だ。
だけど、ぴょん太だけが見つからない。
ぴょん太がかわいいから、だれかが持って行った?
辺りをキョロキョロしても、ぴょん太を抱っこしている人はいない。
「どこにいっちゃったんだろう……」
ぬいぐるみだから自力で移動できるはずが……。
あっ、ぴょん太はできたな。
あちこち探してみたけれど、 ぴょん太はどこにもいなかった。
ワンダーランドの中も探したけれど、いなかった。
もしかしたら、家に帰ってるかもしれない。
そう思って、来た道を戻ることにした。
もしかしたら、また捨てられたと思って、どこか遠くへ行っちゃったのかな。
手を洗いに行く時、「手を洗うだけですぐに戻るからね」というべきだった。
だってぴょん太は、ベンチに置かれて捨てられていたのだから、きっとトラウマなのだろう。
「ああ、なんてことをしちゃったんだ」
そう思って横断歩道を渡ろうとした瞬間、うさぎのぬいぐるみが視界に入る。
わたしは横断歩道を渡るのをやめて、立ち止まる。
足元に、ぴょん太がいたのだ。
「探したんだよ!」
わたしがぴょん太を抱き上げたようとした瞬間。
キキ―ッという耳をつんざくような音。
ドンッという音がしたので、そちらを見る。
そこには、ガードレールにぶつかって停止している車があった。
横断歩道の向かい側のガードレールは大きくへこんでしまっている。
運転手が慌てて、車から出てきた。
どうやら、巻き込まれた人はいないようだ。
ホッとしていると、近くにいたおじさんがいった。
「お嬢ちゃん、よかったなあ。横断歩道を渡っていたら轢かれてたぞ」
その声にぞっとする。
確かにあのままわたしが横断歩道を渡っていたら、車に轢かれていた。
そうならなかったのは、ぴょん太がここにいてくれたから。
わたしは、ぴょん太の埃をはらう。
その瞬間、頭の中に映像が流れる。
「探したんだよ!」
わたしが心配して、ぴょん太に駆け寄るところだった。
ぴょん太の思い出は、上書きされたらしい。
じゃあ、ここにいたのは、わたしを……持ち主を事故から守ってくれたの?
「ありがとう」
わたしはそういって、ぴょん太を抱きしめた。
わたしは目の前の建物を見て、そう解説をする。
目の前にあるのは、大きな大きな苺……ではなく苺の形をした建物だ。
あれが、和菓子屋「ひめみや」で、苺(ああ、ややこしい)の両親の経営するお店。
でも、どこからどう見ても巨大な苺にしか見えない。
メルヘンな有栖町だから浮くどころかなじんでいるけど、他の観光地にあったら目立ちまくりだろうなあ。
そんなことを思いつつ、カバンをチラッと見る。
肩かけバッグからは、ぴょん太が顔を出していた。
ぴょん太の記憶を上書きするために、お出かけしている。
とりあえず、ご近所ツアー。散歩ともいう。
時刻は午前九時で、お店はオープンしたばかりだというのに、お客さんはチラホラいる。
「今日は土曜日だから、苺も忙しいんだろうなあ」
わたしがそういって、次の場所へ行こうとすると。
「萌乃香」
苺が店から慌てて出てきた。
「あれ? 苺、お店は?」
「まだそこまで忙しくないから」
「そっかあ。でも、これからお客さん増えるでしょ」
「うん。そうだけど、萌乃香、何か用があった?」
そういって首を傾げる苺は、今日も最高にかわいい。
長い髪の毛を白い後ろでまとめて、えんじの和のユニフォームに白いエプロン姿が似合っている。
「用事ってゆーか、このぴょん太に、あちこち見せて回ってるんだ」
「あっ、本当。ぴょん太だ」
苺はそういうと、カバンから顔を出すぴょん太に微笑む。
そして、エプロンのポケットから何かを取り出す。
袋に入ったいちご大福だ。
「はい。これ。お土産」
苺がそういって笑った。
「ありがとう」
「それじゃあ、またね。夜にメッセージするからね」
苺はそういうと、お店に戻っていった。
「ぴょん太、わたしの親友、かわいいでしょ~」
わたしはご機嫌で、ぴょん太に話しかけながら町を歩く。
なんだか今日はいつもより人が少ない気がする。
土曜日なんだから、いつもだったらこの倍は人がいるはずなんだけど……。まあいいか。
それから切り株の形のベンチに腰掛けて、いちご大福を食べる。
やっぱり、「ひめみや」のいちご大福は美味しい。
甘酸っぱい苺と上品な甘みのあんこが合うし、大福の餅はとても柔らかい。
このいちご大福目当てに行列ができるんだけど、並んででも食べたい気持ちはわかる。
わたしも思わず西園寺(兄)探しを手伝うくらい大好物だし。
いちご大福を食べ終えると、わたしはあちこちを回った。
カフェ、レストラン、お土産屋さん、洋菓子屋さん。
みんなメルヘンでカラフルな建物だけど、老舗の店も多い。
わたしは洋菓子屋を通り過ぎながら、ぴょん太にいう。
「この洋菓子屋さんはね、有栖町で唯一の洋菓子屋さんで、すっごく美味しいんだけど」
わたしは辺りをキョロキョロと見回してから、声のトーンを落としていう。
「苺パパの弟さんが経営してて、パティシエもやってるんだって。でも、ふたりすごく仲悪いって、苺から聞いたんだ」
だから苺は、叔父が経営する洋菓子屋ではなく、あえてワンダーランドでわたしのケーキを作ってくれたんだろう。
大人の事情に、子どもを巻き込まないでほしい。
「ちょっと休憩しよっか」
わたしはそういうと、葉っぱの形のベンチに座った。
ぴょん太の入ったバッグを膝の上に乗せ、さきほど買った缶ジュースを飲む。
まだぴょん太の記憶は、顔が黒いままの元の持ち主との思い出だ。
もちろん、たった一日で何かが変わるとは思えない。
だから、これからぴょん太といっしょに思い出をつくっていくのが一番だ。
そんなことを考えてジュースをの飲んでいたせいで、ちょっとこぼれた。
「あっ、よかった。ぴょん太にはついてない」
セーフ。
でも、手がべたべたしてる。
すぐそこに水道があるから手を洗おう、とわたしは立ち上がる。
このカバンの中身は、もうおこづかいがほとんど入ってない財布と、ぴょん太とハンカチのみ。
水道はすぐそばだから、ベンチに置いたままで誰かが取ることもないか。
「ちょっと待っててね」
わたしはぴょん太にそういうと、急いで手を洗いに行った。
「おまたせー」
ベンチに戻ると、ぴょん太の姿はなかった。
え、誰かに取られた?
そう思ったけど、カバンの中身は無事だ。
だけど、ぴょん太だけが見つからない。
ぴょん太がかわいいから、だれかが持って行った?
辺りをキョロキョロしても、ぴょん太を抱っこしている人はいない。
「どこにいっちゃったんだろう……」
ぬいぐるみだから自力で移動できるはずが……。
あっ、ぴょん太はできたな。
あちこち探してみたけれど、 ぴょん太はどこにもいなかった。
ワンダーランドの中も探したけれど、いなかった。
もしかしたら、家に帰ってるかもしれない。
そう思って、来た道を戻ることにした。
もしかしたら、また捨てられたと思って、どこか遠くへ行っちゃったのかな。
手を洗いに行く時、「手を洗うだけですぐに戻るからね」というべきだった。
だってぴょん太は、ベンチに置かれて捨てられていたのだから、きっとトラウマなのだろう。
「ああ、なんてことをしちゃったんだ」
そう思って横断歩道を渡ろうとした瞬間、うさぎのぬいぐるみが視界に入る。
わたしは横断歩道を渡るのをやめて、立ち止まる。
足元に、ぴょん太がいたのだ。
「探したんだよ!」
わたしがぴょん太を抱き上げたようとした瞬間。
キキ―ッという耳をつんざくような音。
ドンッという音がしたので、そちらを見る。
そこには、ガードレールにぶつかって停止している車があった。
横断歩道の向かい側のガードレールは大きくへこんでしまっている。
運転手が慌てて、車から出てきた。
どうやら、巻き込まれた人はいないようだ。
ホッとしていると、近くにいたおじさんがいった。
「お嬢ちゃん、よかったなあ。横断歩道を渡っていたら轢かれてたぞ」
その声にぞっとする。
確かにあのままわたしが横断歩道を渡っていたら、車に轢かれていた。
そうならなかったのは、ぴょん太がここにいてくれたから。
わたしは、ぴょん太の埃をはらう。
その瞬間、頭の中に映像が流れる。
「探したんだよ!」
わたしが心配して、ぴょん太に駆け寄るところだった。
ぴょん太の思い出は、上書きされたらしい。
じゃあ、ここにいたのは、わたしを……持ち主を事故から守ってくれたの?
「ありがとう」
わたしはそういって、ぴょん太を抱きしめた。
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