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12.犯人
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目的地はワンダーランド。
例の炎上させたアカウントが、スタッフとケンカをした場所は予想できている。
眼鏡を壊された、という写真を載せていたから、その風景で、何度も来たワンダーランドのどこなのかが、わたしたちには特定できてしまうのだ。
基本的にワンダーランドは入場料はタダで、アトラクションにお金がかかるという仕組みになっている。
その気軽さも、ワンダーランドにお客が入る要素だと聞いたことがあるけど。
平日のワンダーランドは、人がだいぶ少なかった。
「炎上の影響かなあ」
わたしがつぶやくと、西園寺がいう。
「平日だからってのもあるだろ」
「ねえ、先にケンカしたスタッフの人に当時の状況を聞いてみたほうが良くない?」
「それは無理だな。今日の炎上のアカウントが、『ワンダーランドに苦情を入れて、スタッフをクビにさせた』と書いていた」
「えっ? クビ?」
「まあ、本当かどうかわからないけどな。クビじゃなくても、しばらく休みだろ」
西園寺はそこまでいうと、足を止めた。
「ここだな」
わたしたちがいるのは、コーヒーカップの乗り物の近くにある、キャンディの形をした街灯。
この街灯の近くで、例のアカウントは壊れたメガネの写真を撮っていた。
そこをわたしと西園寺は、調べてみる。
何か落とし物がないか。
もし、例のアカウントが落とし物をしていれば、わたしがその物の記憶を読み取れる。
それが何かの証拠になるかもしれないし、持ち主を特定できるかもしれない。
でも、何も見つからなかった。
落とし物だ、と思っても子どものだったり、お年寄りのものだったりして、例のアカウントとは無関係そうなものばかりだった。
「そう都合よくは見つからないか」
西園寺がため息をつく。
「落とし物してるとは限らないよね」
「そりゃあ、まあそうだが……」
西園寺はそこまでいうと、じっと何かを見つめる。
わたしもそちらを見た。
少し離れたところに、辺りをキョロキョロ見回している女性がいる。
どこかで見たような……。
そこでわたしは、ハッとした。
「ぴょん太を捨てた人だ!」
わたしは思わず、走り出す。
「あっ、ちょっと待て!」
すぐ後ろで西園寺が止める声が聞こえた。
わたしはかまわず、女性の元へ走る。
一言いいたかった。文句じゃない。
ぴょん太はわたしが大事にしてる。
しかも、ぴょん太は、わたしの命を救ってくれた。
あんなすてきなぬいぐるみをありがとう。
そうお礼をいおうと思った。
だけど、女性はスマホを取り出すと、なにやら電話を始めてしまった。
さすがに電話中に声をかけることはできない。
「緒代、後先考えずに行動するのは、なんとかならないのか?」
後をおいかけてきた西園寺がそう聞いてくる。
女性はわたしたちに背を向け、電話をしている。
その声は異様に大きい。
「あそこまでやることないでしょ!」
どうやら女性は電話相手とケンカをしているようだ。
聞くつもりがなくても聞こえてしまう。
「はあ? 炎上するとは思ってなかった? よくいうよ……」
炎上、という言葉にわたしと西園寺は顔を見合わせる。
「わたしはもともとここが好きだったから、タケシのやり方はどうかと思う」
女性はそういうと電話を切った。
そして、こちらを振り返って首をかしげる。
「あれ、きみたちどこかで……」
女性はわたしたちを覚えていないようだ。
「お姉さん、さっきの炎上ってどういう意味ですか?」
わたしが単刀直入に聞くと、「おい」と西園寺に肩をつつかれた。
お姉さんはハッとして逃げ出した。
西園寺が、声を出さずに、「バカ」という。
わたしはお姉さんを引き留めようと、カバンをつかんだ。
その時、映像が見えた。
お姉さんと、男性が幸せそうにレストランで食事をしている。
お姉さんは男性を『タケシ』と、呼んだ。
わたしは、そこで、お姉さんの背中に叫ぶ。
「お姉さん、男の趣味悪いですね!」
「はあ?!」
お姉さんが立ち止まって振り返った。
「ワンダーランドを炎上させたアカウントは、タケシ。そのタケシさんは、お姉さんの彼氏でしょう?」
わたしが一気にいうと、お姉さんは目を丸くする。
西園寺が口を開いた。
「わざと炎上させて、ワンダーランドの評判を落とそうとするってことは……」
「そうよ。タケシが、彼氏が、『コヨーテパーク』のスタッフなのよ」
「なるほど。そういうことか」
「なんでそんなにひどいことするんですか?」
「そりゃあ、『コヨーテパーク』だってね、経営が順調ってわけじゃないのよ……。特にリニューアルオープンでだいぶお金もかかったみたいだし」
お姉さんは、「子どもにはわからないでしょうけど」と付け足す。
「そうだな。おれら小学生にはわからない。なんで、『コヨーテパーク』側の人間のあなたが、ここにいるんだよ」
西園寺の言葉に、お姉さんはうつむいた。
「ワンダーランドのこと、好きなんですよね?」
わたしがいうと、お姉さんはいう。
「炎上したっていうから、心配になって、来てみたの……」
その声は消えそうなくらいに小さかった。
それからお姉さんは、ワンダーランド側に事情を話すといってくれた。
炎上させたタケシという人物とは、既に連絡が取れなくなっていたらしい。
ワンダーランドの炎上事件から十日後。
例の炎上させたアカウントが謝罪をした。
ぴょん太の元持ち主のお姉さんの恋人、タケシだ。
タケシは、事の経緯をこう説明した。
メガネは自分で壊した。スタッフには、わざと自分がぶつかってケンカを売った。
すべては、ワンダーランドがどんどん有名になることが嫌だったから。
これは、すべて自分の独断であり、コヨーテパークからの指示ではない。
そんな謝罪文がSNSに掲載された。
なんでも、白鳥さんのお父さんが、探偵を雇ってタケシを探し出したらしい。
その謝罪は、再び炎上した。
今度はSNSだけにはとどまらず、ネットニュースにもなった。
おまけにテレビまでこの件を取り上げたのだ。
最初の炎上よりも、だいぶ大事になってしまった。
最初は炎上させた側のアカウントが、ネットでは非難を浴びた。
コヨーテパークは、このスタッフを解雇したと発表。
それにより、「それはやりすぎではないか」とコヨーテパークも非難を浴びた。
さらに、「ワンダーランドは無理に謝罪をさせる必要はなかった」とか、「実はワンダーランド側の自作自演ではないか」という声も上がったのだ。
めちゃくちゃなことをいうなあ……。
例の炎上させたアカウントが、スタッフとケンカをした場所は予想できている。
眼鏡を壊された、という写真を載せていたから、その風景で、何度も来たワンダーランドのどこなのかが、わたしたちには特定できてしまうのだ。
基本的にワンダーランドは入場料はタダで、アトラクションにお金がかかるという仕組みになっている。
その気軽さも、ワンダーランドにお客が入る要素だと聞いたことがあるけど。
平日のワンダーランドは、人がだいぶ少なかった。
「炎上の影響かなあ」
わたしがつぶやくと、西園寺がいう。
「平日だからってのもあるだろ」
「ねえ、先にケンカしたスタッフの人に当時の状況を聞いてみたほうが良くない?」
「それは無理だな。今日の炎上のアカウントが、『ワンダーランドに苦情を入れて、スタッフをクビにさせた』と書いていた」
「えっ? クビ?」
「まあ、本当かどうかわからないけどな。クビじゃなくても、しばらく休みだろ」
西園寺はそこまでいうと、足を止めた。
「ここだな」
わたしたちがいるのは、コーヒーカップの乗り物の近くにある、キャンディの形をした街灯。
この街灯の近くで、例のアカウントは壊れたメガネの写真を撮っていた。
そこをわたしと西園寺は、調べてみる。
何か落とし物がないか。
もし、例のアカウントが落とし物をしていれば、わたしがその物の記憶を読み取れる。
それが何かの証拠になるかもしれないし、持ち主を特定できるかもしれない。
でも、何も見つからなかった。
落とし物だ、と思っても子どものだったり、お年寄りのものだったりして、例のアカウントとは無関係そうなものばかりだった。
「そう都合よくは見つからないか」
西園寺がため息をつく。
「落とし物してるとは限らないよね」
「そりゃあ、まあそうだが……」
西園寺はそこまでいうと、じっと何かを見つめる。
わたしもそちらを見た。
少し離れたところに、辺りをキョロキョロ見回している女性がいる。
どこかで見たような……。
そこでわたしは、ハッとした。
「ぴょん太を捨てた人だ!」
わたしは思わず、走り出す。
「あっ、ちょっと待て!」
すぐ後ろで西園寺が止める声が聞こえた。
わたしはかまわず、女性の元へ走る。
一言いいたかった。文句じゃない。
ぴょん太はわたしが大事にしてる。
しかも、ぴょん太は、わたしの命を救ってくれた。
あんなすてきなぬいぐるみをありがとう。
そうお礼をいおうと思った。
だけど、女性はスマホを取り出すと、なにやら電話を始めてしまった。
さすがに電話中に声をかけることはできない。
「緒代、後先考えずに行動するのは、なんとかならないのか?」
後をおいかけてきた西園寺がそう聞いてくる。
女性はわたしたちに背を向け、電話をしている。
その声は異様に大きい。
「あそこまでやることないでしょ!」
どうやら女性は電話相手とケンカをしているようだ。
聞くつもりがなくても聞こえてしまう。
「はあ? 炎上するとは思ってなかった? よくいうよ……」
炎上、という言葉にわたしと西園寺は顔を見合わせる。
「わたしはもともとここが好きだったから、タケシのやり方はどうかと思う」
女性はそういうと電話を切った。
そして、こちらを振り返って首をかしげる。
「あれ、きみたちどこかで……」
女性はわたしたちを覚えていないようだ。
「お姉さん、さっきの炎上ってどういう意味ですか?」
わたしが単刀直入に聞くと、「おい」と西園寺に肩をつつかれた。
お姉さんはハッとして逃げ出した。
西園寺が、声を出さずに、「バカ」という。
わたしはお姉さんを引き留めようと、カバンをつかんだ。
その時、映像が見えた。
お姉さんと、男性が幸せそうにレストランで食事をしている。
お姉さんは男性を『タケシ』と、呼んだ。
わたしは、そこで、お姉さんの背中に叫ぶ。
「お姉さん、男の趣味悪いですね!」
「はあ?!」
お姉さんが立ち止まって振り返った。
「ワンダーランドを炎上させたアカウントは、タケシ。そのタケシさんは、お姉さんの彼氏でしょう?」
わたしが一気にいうと、お姉さんは目を丸くする。
西園寺が口を開いた。
「わざと炎上させて、ワンダーランドの評判を落とそうとするってことは……」
「そうよ。タケシが、彼氏が、『コヨーテパーク』のスタッフなのよ」
「なるほど。そういうことか」
「なんでそんなにひどいことするんですか?」
「そりゃあ、『コヨーテパーク』だってね、経営が順調ってわけじゃないのよ……。特にリニューアルオープンでだいぶお金もかかったみたいだし」
お姉さんは、「子どもにはわからないでしょうけど」と付け足す。
「そうだな。おれら小学生にはわからない。なんで、『コヨーテパーク』側の人間のあなたが、ここにいるんだよ」
西園寺の言葉に、お姉さんはうつむいた。
「ワンダーランドのこと、好きなんですよね?」
わたしがいうと、お姉さんはいう。
「炎上したっていうから、心配になって、来てみたの……」
その声は消えそうなくらいに小さかった。
それからお姉さんは、ワンダーランド側に事情を話すといってくれた。
炎上させたタケシという人物とは、既に連絡が取れなくなっていたらしい。
ワンダーランドの炎上事件から十日後。
例の炎上させたアカウントが謝罪をした。
ぴょん太の元持ち主のお姉さんの恋人、タケシだ。
タケシは、事の経緯をこう説明した。
メガネは自分で壊した。スタッフには、わざと自分がぶつかってケンカを売った。
すべては、ワンダーランドがどんどん有名になることが嫌だったから。
これは、すべて自分の独断であり、コヨーテパークからの指示ではない。
そんな謝罪文がSNSに掲載された。
なんでも、白鳥さんのお父さんが、探偵を雇ってタケシを探し出したらしい。
その謝罪は、再び炎上した。
今度はSNSだけにはとどまらず、ネットニュースにもなった。
おまけにテレビまでこの件を取り上げたのだ。
最初の炎上よりも、だいぶ大事になってしまった。
最初は炎上させた側のアカウントが、ネットでは非難を浴びた。
コヨーテパークは、このスタッフを解雇したと発表。
それにより、「それはやりすぎではないか」とコヨーテパークも非難を浴びた。
さらに、「ワンダーランドは無理に謝罪をさせる必要はなかった」とか、「実はワンダーランド側の自作自演ではないか」という声も上がったのだ。
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