ワンダーランドのおひざもと

花千世子

文字の大きさ
13 / 18

13.無事、解決……?

しおりを挟む
「犯人が見つかって、めでたしめでたし、とはいかなかったね」
 わたしはスマホを操作しながら、西園寺にいう。
 朝の教室は、まだ生徒がまばらだった。
「そうだな……。実際、ワンダーランドの客足は減っている」    
「えっ? だってワンダーランドは悪くないじゃん」
「そうだけど。この炎上に便乗して、ワンダーランドのありもしないうわさを書き始めたアカウントが、あちこちにいるんだ」
「ええっ?! ありもしないうわさって、うそってこと? そんなことしてどーすんの?」
「うそついてでも目立ちたいんだろ、どうせ」

 そういってため息をついた西園寺は、どうも元気がないようだった。
 別にいつも元気いっぱい! という感じではないけど、今日は浮かない顔をしている。
 ワンダーランドにお客が戻らないと、西園寺旅館にも人が来ないもんね。
 そりゃあ、心配して元気もなくなるわけだよね。

「おれはさ、別に旅館がどうなろうとどうでもいいんだ」

 わたしの心を見透かしたかのように、西園寺がいう。
 まるで西園寺は、ひとりごとのように続ける。

「だっておれには、夢があるから。旅館を継ぐのは、本来は兄貴の役目だ」
「ああ、パイロットの夢」
「そう。でも、兄貴が旅館に帰ってこないなら、おれが継ぐしかない」
「まあ、そうなるよね」
「兄貴が帰ってくる気があるのかないのかわからないけど、もう兄貴も旅館を継ぎたくないのかもしれない」
「そんなの、まだわかんないじゃん」
「そうだけど。兄貴がやたらと海外に行くのは、旅館を継ぎたくないだけかもしれないって最近思うんだ」
「じゃあ、もしも西園寺旅館が潰れたら、西園寺は晴れてパイロットの夢を追えるよね」
「そういうことじゃないんだよな」

 西園寺はそういうと、窓の外を見た。
 わたしも窓の外に視線を向ける。
 今日は曇っていて、ワンダーランドのお城は見えない。

「誰かを不幸にすることなく、夢を叶えたいんだよ」

 西園寺がそういった時、雨が降り出した。

 元気がないのは、西園寺だけではなかった。
 苺も、あの白鳥さんまでもが、どこか落ち込んでいるようだ。
 それどころか、このクラスで元気なのは、わたしだけのように感じた。
 もちろん、わたしだって心配はしている。
 それでも、みんなのように自分のことというよりは故郷の心配、というだけだ。
 だから、みんなより危機感も薄い。
 わたしだけ蚊帳の外って感じで、寂しい気もする。

「ちょっといいかしら」

 帰り支度をしていると、そういってわたしの席に来たのは……。
 白鳥さんだった。
 セーラー服は相変わらず新品のように輝いているけど、チャームポイントのツインテールがちょっと下がっている気がする。

「なっ、なに?」

 わたしは、なにか文句でもいわれるのかと思って身構えた。

「パパから聞いたわ。あなたと西園寺くんが、ワンダーランドを炎上させた犯人を見つけてくれたって」
「いや見つけたのは、犯人の恋人のほうで……」  
「いいのよ。おかげでこっちは犯人を見つけられたんだから」

 白鳥さんはそこまでいうと、腰に手を当てて、胸を張っていう。

「お礼をいうわ。ありがとう」

 お礼をいう側のわりには、えらそうな態度だけど……。
 でも、いつもの圧はまったくない。

「でも、あれは、本当に偶然だったから」
「それでも、ワンダーランドや有栖町のために動いてくれたんでしょ? もっと堂々としてくれない?」
「はい、お嬢様」

 わたしが冗談っぽくいうと、白鳥さんはツインテールを揺らしてからため息をつく。

「わたし、あなたに嫌われてるみたいだから、話しかけたくなかったのよね」

 白鳥さんは、そういってツンと横を向いた。

「え? 嫌われてる? 白鳥さんがわたしのこと嫌ってる、の間違いでしょ」
「別に嫌ってなんかないわ。ただ……。あなたが異様にわたしを敵視してくるから嫌われてると思ってたの」
「敵視なんかしてないよ」

 そういってからふと思う。
 わたしは白鳥さんを、敵視していたわけじゃない。
 嫌われてるから、苦手意識を持っていた。
 だけど、もっと根っこのほうに、白鳥さんへの別の感情がある。
 それは、たぶん……。

「白鳥さんが、うらやましかった」

 わたしは無意識のうちに、そう口にしていた。

「うらやましい? わたしがお金持ちだから?」
「いや、そこじゃなくて……」

 わたしはちょっとだけ笑って、それから続ける。

「白鳥さんも、クラスのみんなのことも、羨ましいと思ってた」
「なんで?」
「みんな、親がお店を経営している。だけど、家は……」

 そこまでいって、わたしは黙り込んだ。
 すると、白鳥さんが少しだけ考えこんでから、口を開く。

「じゃあ、あなたが店を開けばいいじゃない」
「えっ?」
「みんなが羨ましいなら、あなたが自分で何か店を経営すればいいだけの話でしょ?」

 白鳥さんは大まじめな顔をしている。
 わたしが、お店を経営だなんて考えたこともなかった。
 おどろくわたしに、白鳥さんはいう。

「まさか、そーんなことで悩んでたの?」
「そんなことって」

 わたしがいうと、白鳥さんは小さな声でいった。

「いいじゃない、いつもパパとママが家にいるなら」

 おどろいて白鳥さんを見ると、悲しそうな顔をしている。
 だけど、すぐにいつもの強気な表情に戻った。
 白鳥さんは、「悩みがないっていいわねー」と笑って、教室を出て行った。
 まるで嵐が去っていったようだ。

 でも、胸がすっとした。
 白鳥さんに嫌われてるわけじゃないとわかったから、という理由もあるけど。
 自分でお店を経営すればいいだなんて、そんな発想はわたしじゃ出てこない。
 白鳥さん、案外すごい子かも。
 それに、さっきはすごく悲しそうな顔をしていた。
 きっと、白鳥さんには白鳥さんの悩みがあるんだろうな。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

小鳥

水翔
絵本
小鳥と少女の物語

未来スコープ  ―キスした相手がわからないって、どういうこと!?―

米田悠由
児童書・童話
「あのね、すごいもの見つけちゃったの!」 平凡な女子高生・月島彩奈が偶然手にした謎の道具「未来スコープ」。 それは、未来を“見る”だけでなく、“課題を通して導く”装置だった。 恋の予感、見知らぬ男子とのキス、そして次々に提示される不可解な課題── 彩奈は、未来スコープを通して、自分の運命に深く関わる人物と出会っていく。 未来スコープが映し出すのは、甘いだけではない未来。 誰かを想う気持ち、誰かに選ばれない痛み、そしてそれでも誰かを支えたいという願い。 夢と現実が交錯する中で、彩奈は「自分の気持ちを信じること」の意味を知っていく。 この物語は、恋と選択、そしてすれ違う想いの中で、自分の軸を見つけていく少女たちの記録です。 感情の揺らぎと、未来への確信が交錯するSFラブストーリー、シリーズ第2作。 読後、きっと「誰かを想うとはどういうことか」を考えたくなる一冊です。

星降る夜に落ちた子

千東風子
児童書・童話
 あたしは、いらなかった?  ねえ、お父さん、お母さん。  ずっと心で泣いている女の子がいました。  名前は世羅。  いつもいつも弟ばかり。  何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。  ハイキングなんて、来たくなかった!  世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。  世羅は滑るように落ち、気を失いました。  そして、目が覚めたらそこは。  住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。  気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。  二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。  全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。  苦手な方は回れ右をお願いいたします。  よろしくお願いいたします。  私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。  石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!  こちらは他サイトにも掲載しています。

【運命】と言われて困っています

桜 花音
児童書・童話
小6のはじまり。 遠山彩花のクラスである6年1組に転校生がやってきた。 男の子なのに、透き通るようにきれいな肌と、お人形さんみたいに、パッチリした茶色い瞳。 あまりにキレイすぎて、思わず教室のみんな、彼に視線が釘付けになった。 そんな彼が彩花にささやいた。 「やっと会えたね」 初めましてだと思うんだけど? 戸惑う彩花に彼はさらに秘密を教えてくれる。 彼は自らの中に“守護石”というものを宿していて、それがあると精霊と関われるようになるんだとか。 しかも、その彼の守護石の欠片を、なぜか彩花が持っているという。 どういうこと⁉

傷ついている君へ

辻堂安古市
絵本
今、傷ついている君へ 僕は何ができるだろうか

年をとりすぎた男

主道 学
児童書・童話
男は78年も生きていた。 生涯独身で、何もない。 そんなある日のこと。 銀行へ行くとかなりの額の蓄えがあった。 大人向けの童話です。

まぼろしのミッドナイトスクール

木野もくば
児童書・童話
深夜0時ちょうどに突然あらわれる不思議な学校。そこには、不思議な先生と生徒たちがいました。飼い猫との最後に後悔がある青年……。深い森の中で道に迷う少女……。人間に恋をした水の神さま……。それぞれの道に迷い、そして誰かと誰かの想いがつながったとき、暗闇の空に光る星くずの方から学校のチャイムが鳴り響いてくるのでした。

処理中です...