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13.無事、解決……?
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「犯人が見つかって、めでたしめでたし、とはいかなかったね」
わたしはスマホを操作しながら、西園寺にいう。
朝の教室は、まだ生徒がまばらだった。
「そうだな……。実際、ワンダーランドの客足は減っている」
「えっ? だってワンダーランドは悪くないじゃん」
「そうだけど。この炎上に便乗して、ワンダーランドのありもしないうわさを書き始めたアカウントが、あちこちにいるんだ」
「ええっ?! ありもしないうわさって、うそってこと? そんなことしてどーすんの?」
「うそついてでも目立ちたいんだろ、どうせ」
そういってため息をついた西園寺は、どうも元気がないようだった。
別にいつも元気いっぱい! という感じではないけど、今日は浮かない顔をしている。
ワンダーランドにお客が戻らないと、西園寺旅館にも人が来ないもんね。
そりゃあ、心配して元気もなくなるわけだよね。
「おれはさ、別に旅館がどうなろうとどうでもいいんだ」
わたしの心を見透かしたかのように、西園寺がいう。
まるで西園寺は、ひとりごとのように続ける。
「だっておれには、夢があるから。旅館を継ぐのは、本来は兄貴の役目だ」
「ああ、パイロットの夢」
「そう。でも、兄貴が旅館に帰ってこないなら、おれが継ぐしかない」
「まあ、そうなるよね」
「兄貴が帰ってくる気があるのかないのかわからないけど、もう兄貴も旅館を継ぎたくないのかもしれない」
「そんなの、まだわかんないじゃん」
「そうだけど。兄貴がやたらと海外に行くのは、旅館を継ぎたくないだけかもしれないって最近思うんだ」
「じゃあ、もしも西園寺旅館が潰れたら、西園寺は晴れてパイロットの夢を追えるよね」
「そういうことじゃないんだよな」
西園寺はそういうと、窓の外を見た。
わたしも窓の外に視線を向ける。
今日は曇っていて、ワンダーランドのお城は見えない。
「誰かを不幸にすることなく、夢を叶えたいんだよ」
西園寺がそういった時、雨が降り出した。
元気がないのは、西園寺だけではなかった。
苺も、あの白鳥さんまでもが、どこか落ち込んでいるようだ。
それどころか、このクラスで元気なのは、わたしだけのように感じた。
もちろん、わたしだって心配はしている。
それでも、みんなのように自分のことというよりは故郷の心配、というだけだ。
だから、みんなより危機感も薄い。
わたしだけ蚊帳の外って感じで、寂しい気もする。
「ちょっといいかしら」
帰り支度をしていると、そういってわたしの席に来たのは……。
白鳥さんだった。
セーラー服は相変わらず新品のように輝いているけど、チャームポイントのツインテールがちょっと下がっている気がする。
「なっ、なに?」
わたしは、なにか文句でもいわれるのかと思って身構えた。
「パパから聞いたわ。あなたと西園寺くんが、ワンダーランドを炎上させた犯人を見つけてくれたって」
「いや見つけたのは、犯人の恋人のほうで……」
「いいのよ。おかげでこっちは犯人を見つけられたんだから」
白鳥さんはそこまでいうと、腰に手を当てて、胸を張っていう。
「お礼をいうわ。ありがとう」
お礼をいう側のわりには、えらそうな態度だけど……。
でも、いつもの圧はまったくない。
「でも、あれは、本当に偶然だったから」
「それでも、ワンダーランドや有栖町のために動いてくれたんでしょ? もっと堂々としてくれない?」
「はい、お嬢様」
わたしが冗談っぽくいうと、白鳥さんはツインテールを揺らしてからため息をつく。
「わたし、あなたに嫌われてるみたいだから、話しかけたくなかったのよね」
白鳥さんは、そういってツンと横を向いた。
「え? 嫌われてる? 白鳥さんがわたしのこと嫌ってる、の間違いでしょ」
「別に嫌ってなんかないわ。ただ……。あなたが異様にわたしを敵視してくるから嫌われてると思ってたの」
「敵視なんかしてないよ」
そういってからふと思う。
わたしは白鳥さんを、敵視していたわけじゃない。
嫌われてるから、苦手意識を持っていた。
だけど、もっと根っこのほうに、白鳥さんへの別の感情がある。
それは、たぶん……。
「白鳥さんが、うらやましかった」
わたしは無意識のうちに、そう口にしていた。
「うらやましい? わたしがお金持ちだから?」
「いや、そこじゃなくて……」
わたしはちょっとだけ笑って、それから続ける。
「白鳥さんも、クラスのみんなのことも、羨ましいと思ってた」
「なんで?」
「みんな、親がお店を経営している。だけど、家は……」
そこまでいって、わたしは黙り込んだ。
すると、白鳥さんが少しだけ考えこんでから、口を開く。
「じゃあ、あなたが店を開けばいいじゃない」
「えっ?」
「みんなが羨ましいなら、あなたが自分で何か店を経営すればいいだけの話でしょ?」
白鳥さんは大まじめな顔をしている。
わたしが、お店を経営だなんて考えたこともなかった。
おどろくわたしに、白鳥さんはいう。
「まさか、そーんなことで悩んでたの?」
「そんなことって」
わたしがいうと、白鳥さんは小さな声でいった。
「いいじゃない、いつもパパとママが家にいるなら」
おどろいて白鳥さんを見ると、悲しそうな顔をしている。
だけど、すぐにいつもの強気な表情に戻った。
白鳥さんは、「悩みがないっていいわねー」と笑って、教室を出て行った。
まるで嵐が去っていったようだ。
でも、胸がすっとした。
白鳥さんに嫌われてるわけじゃないとわかったから、という理由もあるけど。
自分でお店を経営すればいいだなんて、そんな発想はわたしじゃ出てこない。
白鳥さん、案外すごい子かも。
それに、さっきはすごく悲しそうな顔をしていた。
きっと、白鳥さんには白鳥さんの悩みがあるんだろうな。
わたしはスマホを操作しながら、西園寺にいう。
朝の教室は、まだ生徒がまばらだった。
「そうだな……。実際、ワンダーランドの客足は減っている」
「えっ? だってワンダーランドは悪くないじゃん」
「そうだけど。この炎上に便乗して、ワンダーランドのありもしないうわさを書き始めたアカウントが、あちこちにいるんだ」
「ええっ?! ありもしないうわさって、うそってこと? そんなことしてどーすんの?」
「うそついてでも目立ちたいんだろ、どうせ」
そういってため息をついた西園寺は、どうも元気がないようだった。
別にいつも元気いっぱい! という感じではないけど、今日は浮かない顔をしている。
ワンダーランドにお客が戻らないと、西園寺旅館にも人が来ないもんね。
そりゃあ、心配して元気もなくなるわけだよね。
「おれはさ、別に旅館がどうなろうとどうでもいいんだ」
わたしの心を見透かしたかのように、西園寺がいう。
まるで西園寺は、ひとりごとのように続ける。
「だっておれには、夢があるから。旅館を継ぐのは、本来は兄貴の役目だ」
「ああ、パイロットの夢」
「そう。でも、兄貴が旅館に帰ってこないなら、おれが継ぐしかない」
「まあ、そうなるよね」
「兄貴が帰ってくる気があるのかないのかわからないけど、もう兄貴も旅館を継ぎたくないのかもしれない」
「そんなの、まだわかんないじゃん」
「そうだけど。兄貴がやたらと海外に行くのは、旅館を継ぎたくないだけかもしれないって最近思うんだ」
「じゃあ、もしも西園寺旅館が潰れたら、西園寺は晴れてパイロットの夢を追えるよね」
「そういうことじゃないんだよな」
西園寺はそういうと、窓の外を見た。
わたしも窓の外に視線を向ける。
今日は曇っていて、ワンダーランドのお城は見えない。
「誰かを不幸にすることなく、夢を叶えたいんだよ」
西園寺がそういった時、雨が降り出した。
元気がないのは、西園寺だけではなかった。
苺も、あの白鳥さんまでもが、どこか落ち込んでいるようだ。
それどころか、このクラスで元気なのは、わたしだけのように感じた。
もちろん、わたしだって心配はしている。
それでも、みんなのように自分のことというよりは故郷の心配、というだけだ。
だから、みんなより危機感も薄い。
わたしだけ蚊帳の外って感じで、寂しい気もする。
「ちょっといいかしら」
帰り支度をしていると、そういってわたしの席に来たのは……。
白鳥さんだった。
セーラー服は相変わらず新品のように輝いているけど、チャームポイントのツインテールがちょっと下がっている気がする。
「なっ、なに?」
わたしは、なにか文句でもいわれるのかと思って身構えた。
「パパから聞いたわ。あなたと西園寺くんが、ワンダーランドを炎上させた犯人を見つけてくれたって」
「いや見つけたのは、犯人の恋人のほうで……」
「いいのよ。おかげでこっちは犯人を見つけられたんだから」
白鳥さんはそこまでいうと、腰に手を当てて、胸を張っていう。
「お礼をいうわ。ありがとう」
お礼をいう側のわりには、えらそうな態度だけど……。
でも、いつもの圧はまったくない。
「でも、あれは、本当に偶然だったから」
「それでも、ワンダーランドや有栖町のために動いてくれたんでしょ? もっと堂々としてくれない?」
「はい、お嬢様」
わたしが冗談っぽくいうと、白鳥さんはツインテールを揺らしてからため息をつく。
「わたし、あなたに嫌われてるみたいだから、話しかけたくなかったのよね」
白鳥さんは、そういってツンと横を向いた。
「え? 嫌われてる? 白鳥さんがわたしのこと嫌ってる、の間違いでしょ」
「別に嫌ってなんかないわ。ただ……。あなたが異様にわたしを敵視してくるから嫌われてると思ってたの」
「敵視なんかしてないよ」
そういってからふと思う。
わたしは白鳥さんを、敵視していたわけじゃない。
嫌われてるから、苦手意識を持っていた。
だけど、もっと根っこのほうに、白鳥さんへの別の感情がある。
それは、たぶん……。
「白鳥さんが、うらやましかった」
わたしは無意識のうちに、そう口にしていた。
「うらやましい? わたしがお金持ちだから?」
「いや、そこじゃなくて……」
わたしはちょっとだけ笑って、それから続ける。
「白鳥さんも、クラスのみんなのことも、羨ましいと思ってた」
「なんで?」
「みんな、親がお店を経営している。だけど、家は……」
そこまでいって、わたしは黙り込んだ。
すると、白鳥さんが少しだけ考えこんでから、口を開く。
「じゃあ、あなたが店を開けばいいじゃない」
「えっ?」
「みんなが羨ましいなら、あなたが自分で何か店を経営すればいいだけの話でしょ?」
白鳥さんは大まじめな顔をしている。
わたしが、お店を経営だなんて考えたこともなかった。
おどろくわたしに、白鳥さんはいう。
「まさか、そーんなことで悩んでたの?」
「そんなことって」
わたしがいうと、白鳥さんは小さな声でいった。
「いいじゃない、いつもパパとママが家にいるなら」
おどろいて白鳥さんを見ると、悲しそうな顔をしている。
だけど、すぐにいつもの強気な表情に戻った。
白鳥さんは、「悩みがないっていいわねー」と笑って、教室を出て行った。
まるで嵐が去っていったようだ。
でも、胸がすっとした。
白鳥さんに嫌われてるわけじゃないとわかったから、という理由もあるけど。
自分でお店を経営すればいいだなんて、そんな発想はわたしじゃ出てこない。
白鳥さん、案外すごい子かも。
それに、さっきはすごく悲しそうな顔をしていた。
きっと、白鳥さんには白鳥さんの悩みがあるんだろうな。
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