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14.お店を開きたい
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家に帰ると、自分の部屋であれこれと考える。
お店をやろう! とはいっても、すぐに経営できるわけじゃない。
わたしはまだ小学生だし、両親だってそれぞれ仕事がある。
将来……たとえば、高校を卒業してから、お店をしてもいいかもしれない。
場所はそうだなあ、庭にひっそりと建つオンボロの離れの家。
今は物置き変わりだし、あそこをカフェとか雑貨屋にするのもいいな。
まずはきれいに建て直さなきゃ。そうなるとお金がかかる。お店の経営まで道のりは長いなあ……。何年かかるんだろう。
でも高校卒業まで待っていられない! 今すぐにでもお店を開きたい!
わたしはそう思って、離れの家に入った。
埃っぽくて暗いここは、家というよりは倉庫。
ごちゃごちゃと物がある中、何か売れるものでもないかと探してみる。
ここにはあまり入ったことがない。
幼い頃にかくれんぼをして、この中に入ったことがあるけど不気味で怖くてすぐに出てしまった。
それ以来、一人で入ってはいない。
以前は大掃除の時に倉庫の掃除もしていたけれど、いつの間にか手付かずの状態だし。
そんなわけで、何年ぶりかに辺りを見回してみる。
木製の棚がずらっと並んでいて、古い本やら桐の箱に入った壺、怪しげな絵など、おかしなものが所せましと置かれていた。
もしかしたら壺や絵は高いものかもしれない。
そう思って壺に触れてみる。
『これは人間国宝の陶芸家、〇〇氏の作品にそっくりですね』
『そりゃあ、そっくりに作りましたから』
そんなやりとりが見えた。
これ贋作ってやつだよ! ダメじゃん!
壺も、一番の思い出がこんなのでいいの?
なんだかちょっと可哀そうになってきたから、花瓶としてつかってあげようかなあ。
「これで、全部、かなあ」
お宝っぽいものはすべて思い出を見たけれどお金になるようなものではなかった。
そして、わたしはこの能力をつかっていて、大きなデメリットがあることに気づく。
それは、一度、物の思い出を見てしまうと、感情移入してしまうこと。
どんなに価値の高い物でも、こうして思い出を知ると売れないなあ。
まあ、価値の高い物なんてなかったけどね!
骨董品で一攫千金ではなく、もっとかわいい雑貨とかないかなあ。
それをきれいにして、売ってもいいかも、と思って棚を漁る。
古い巾着、うさぎの根付、きれいなブローチ。
レトロでいいけど、思い出を見るとどれも他に持ち主がいた。
つまり、うちの家族の物ではないってこと?
ひいおじいちゃんの世代とか、かなと思ったけど、それにしては映像がやけに新しい気がした。
「うーん。どういうことなんだろ。おじいちゃんかおばあちゃんが借りパクの常習犯……だったとは思いたくない」
そうつぶやいて、わたしは離れの家を出ることにした。
ここにいると我が家の闇を暴いてしまうかもしれないからダメだ。知らなくていいこともある。
ドアを開けようとしたその時、壁に何かが立てかけてあるのが見えた。
埃まみれのそれは、木製の看板だ。
そこにはこう書かれてある。
『落とし物預り所』
わたしがその看板にふれると、映像が見えた。
まだ若いおじいちゃんとおばあちゃんが、女性に巾着を渡している。
「探していたんです。ありがとうございます」
女性はそういって、深々とお辞儀をした。
女性と入れ替わりで、今度は男性が訪ねてくる。
「あの、鍵を落としてしまったみたいなんですが……」
「はい。どのような鍵ですか?」
おばあちゃんがニコニコしながら接客している。
おじいちゃんは棚から何かを探していた。
そこで、映像は途切れた。
「おじいちゃんとおばあちゃんが、『落とし物預り所』をしていたんだ……」
わたしは倉庫を見渡してから続ける。
「ここが、『落とし物預り所』だったんだ」
だから、他人の持ち物がいっぱいあったのか。
持ち主が現われなかった物を、まだ保管しているんだ。
ただの古びた倉庫が、なんだか輝いて見えた。
借りパクじゃなくて良かったー。
でも、落とし物預り所ってなに?
『落とし物預り所っていうのは、総合案内所の落とし物専用みたいなものよ。だから、落とし物を見つけて返したからといって、持ち主の人にお金をとるわけではないの』
マレーシアにいる祖母に『落とし物預り所』のことを電話で聞いてみたら、そんな返事がきた。
ボランティアというわけではなく、ちゃんと有栖町から補助金が出るらしいのだ。
すごい、これは立派な仕事だよ!
祖母が『落とし物預り所』をやめたのは、ここ数年くらいは能力が弱くなってきたからだそうだ。
わたしも祖母と同じ能力が開花したし、これならすぐにでも落とし物預り所を再開できるかもしれない。
そんなふうにワクワクしていたのだけど、大きな問題があった。
「お客さん、ぜんぜん戻らないね……」
「それどころか、減ってるな」
わたしと西園寺は、大通りを眺めながらつぶやく。
今日は土曜日。しかも三連休初日。
本来ならば、有栖町は観光客でにぎわうのに人はまばらだった。
「これも炎上の影響なのかなあ」
わたしが、自分の顔ぐらいあるえびせんべいにかじりつくと、西園寺はいう。
「それもあるだろうけど、今は時期が悪いんだよ」
西園寺はそこまでいうと、自分のえびせんべいをかじって、続ける。
「例の、『コヨーテパーク』がリニューアルしただろ、それから『ネズミーランド』に新エリア登場、『ORZ』はハロウィンイベントの真っ最中」
「じゃあ、お客は他のテーマパークに流れちゃうじゃん」
「どこも必死だからな。客が来るように工夫してるから流れていくのもしかたがない」
「だけど、それじゃあ困るよ。お客が戻ってきたら、わたしが落とし物預り所を再開したいと思ってたのに……」
「別に、今やればいいんじゃないのか?」
「えっ? 今やるの?」
「そう。今だって少ないながらもお客は来てるんだ。それとも、緒代は大勢のお客しか相手にしないのか?」
「ううん。そんなことない! 少なくてもお客さんはお客さんだよ!」
わたしはえびせんべいを食べ終え、ベンチを降りる。
「ありがとう、西園寺」
「ま、がんばれよ」
西園寺は無表情でそういったけれど、口調は穏やかだった。
お店をやろう! とはいっても、すぐに経営できるわけじゃない。
わたしはまだ小学生だし、両親だってそれぞれ仕事がある。
将来……たとえば、高校を卒業してから、お店をしてもいいかもしれない。
場所はそうだなあ、庭にひっそりと建つオンボロの離れの家。
今は物置き変わりだし、あそこをカフェとか雑貨屋にするのもいいな。
まずはきれいに建て直さなきゃ。そうなるとお金がかかる。お店の経営まで道のりは長いなあ……。何年かかるんだろう。
でも高校卒業まで待っていられない! 今すぐにでもお店を開きたい!
わたしはそう思って、離れの家に入った。
埃っぽくて暗いここは、家というよりは倉庫。
ごちゃごちゃと物がある中、何か売れるものでもないかと探してみる。
ここにはあまり入ったことがない。
幼い頃にかくれんぼをして、この中に入ったことがあるけど不気味で怖くてすぐに出てしまった。
それ以来、一人で入ってはいない。
以前は大掃除の時に倉庫の掃除もしていたけれど、いつの間にか手付かずの状態だし。
そんなわけで、何年ぶりかに辺りを見回してみる。
木製の棚がずらっと並んでいて、古い本やら桐の箱に入った壺、怪しげな絵など、おかしなものが所せましと置かれていた。
もしかしたら壺や絵は高いものかもしれない。
そう思って壺に触れてみる。
『これは人間国宝の陶芸家、〇〇氏の作品にそっくりですね』
『そりゃあ、そっくりに作りましたから』
そんなやりとりが見えた。
これ贋作ってやつだよ! ダメじゃん!
壺も、一番の思い出がこんなのでいいの?
なんだかちょっと可哀そうになってきたから、花瓶としてつかってあげようかなあ。
「これで、全部、かなあ」
お宝っぽいものはすべて思い出を見たけれどお金になるようなものではなかった。
そして、わたしはこの能力をつかっていて、大きなデメリットがあることに気づく。
それは、一度、物の思い出を見てしまうと、感情移入してしまうこと。
どんなに価値の高い物でも、こうして思い出を知ると売れないなあ。
まあ、価値の高い物なんてなかったけどね!
骨董品で一攫千金ではなく、もっとかわいい雑貨とかないかなあ。
それをきれいにして、売ってもいいかも、と思って棚を漁る。
古い巾着、うさぎの根付、きれいなブローチ。
レトロでいいけど、思い出を見るとどれも他に持ち主がいた。
つまり、うちの家族の物ではないってこと?
ひいおじいちゃんの世代とか、かなと思ったけど、それにしては映像がやけに新しい気がした。
「うーん。どういうことなんだろ。おじいちゃんかおばあちゃんが借りパクの常習犯……だったとは思いたくない」
そうつぶやいて、わたしは離れの家を出ることにした。
ここにいると我が家の闇を暴いてしまうかもしれないからダメだ。知らなくていいこともある。
ドアを開けようとしたその時、壁に何かが立てかけてあるのが見えた。
埃まみれのそれは、木製の看板だ。
そこにはこう書かれてある。
『落とし物預り所』
わたしがその看板にふれると、映像が見えた。
まだ若いおじいちゃんとおばあちゃんが、女性に巾着を渡している。
「探していたんです。ありがとうございます」
女性はそういって、深々とお辞儀をした。
女性と入れ替わりで、今度は男性が訪ねてくる。
「あの、鍵を落としてしまったみたいなんですが……」
「はい。どのような鍵ですか?」
おばあちゃんがニコニコしながら接客している。
おじいちゃんは棚から何かを探していた。
そこで、映像は途切れた。
「おじいちゃんとおばあちゃんが、『落とし物預り所』をしていたんだ……」
わたしは倉庫を見渡してから続ける。
「ここが、『落とし物預り所』だったんだ」
だから、他人の持ち物がいっぱいあったのか。
持ち主が現われなかった物を、まだ保管しているんだ。
ただの古びた倉庫が、なんだか輝いて見えた。
借りパクじゃなくて良かったー。
でも、落とし物預り所ってなに?
『落とし物預り所っていうのは、総合案内所の落とし物専用みたいなものよ。だから、落とし物を見つけて返したからといって、持ち主の人にお金をとるわけではないの』
マレーシアにいる祖母に『落とし物預り所』のことを電話で聞いてみたら、そんな返事がきた。
ボランティアというわけではなく、ちゃんと有栖町から補助金が出るらしいのだ。
すごい、これは立派な仕事だよ!
祖母が『落とし物預り所』をやめたのは、ここ数年くらいは能力が弱くなってきたからだそうだ。
わたしも祖母と同じ能力が開花したし、これならすぐにでも落とし物預り所を再開できるかもしれない。
そんなふうにワクワクしていたのだけど、大きな問題があった。
「お客さん、ぜんぜん戻らないね……」
「それどころか、減ってるな」
わたしと西園寺は、大通りを眺めながらつぶやく。
今日は土曜日。しかも三連休初日。
本来ならば、有栖町は観光客でにぎわうのに人はまばらだった。
「これも炎上の影響なのかなあ」
わたしが、自分の顔ぐらいあるえびせんべいにかじりつくと、西園寺はいう。
「それもあるだろうけど、今は時期が悪いんだよ」
西園寺はそこまでいうと、自分のえびせんべいをかじって、続ける。
「例の、『コヨーテパーク』がリニューアルしただろ、それから『ネズミーランド』に新エリア登場、『ORZ』はハロウィンイベントの真っ最中」
「じゃあ、お客は他のテーマパークに流れちゃうじゃん」
「どこも必死だからな。客が来るように工夫してるから流れていくのもしかたがない」
「だけど、それじゃあ困るよ。お客が戻ってきたら、わたしが落とし物預り所を再開したいと思ってたのに……」
「別に、今やればいいんじゃないのか?」
「えっ? 今やるの?」
「そう。今だって少ないながらもお客は来てるんだ。それとも、緒代は大勢のお客しか相手にしないのか?」
「ううん。そんなことない! 少なくてもお客さんはお客さんだよ!」
わたしはえびせんべいを食べ終え、ベンチを降りる。
「ありがとう、西園寺」
「ま、がんばれよ」
西園寺は無表情でそういったけれど、口調は穏やかだった。
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