ワンダーランドのおひざもと

花千世子

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16.アイデア

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 一時限目から自習の時間だったので、わたしはこっそりとスマホを取り出す。
 ちらりと教卓のほうをみると、見張りの先生は居眠りをしていた。
 スマホを操作しようとして、ふと手を止める。
 わたしはまたSNSで有栖町の悪いうわさが流れていないか、確認しようとしていた。
 でも、これをすることに何の意味が?
 だけどやっぱり、自分の蒔いた種なので気になる……。
 そんな葛藤をしていると、メッセージが届いた。
 西園寺からだ。
【有栖町に悪いイメージを持っている人ばかりじゃないみたいだ】
 そのメッセージと共に、URLが添えてあった。
 URLをタップすると、SNSのつぶやき。
 
  ここのところ、有栖町の悪い噂しか聞かないから、気になってあの町のことを調べてみた。 
  有栖町は謎が多いんだね。逆に行きたくなってきた。

 見知らぬ人のつぶやきに、わたしはうれしくなる。
 そっか。行きたくない人ばかりじゃないんだ。
 ってゆーか、なんだかんだで西園寺も有栖町のイメージ気にしてエゴサしてるんだ。
 スマホで必死で有栖町の検索をしている西園寺を想像したら、なんだかおかしくなってしまう。
 ある意味、西園寺の頭の中も有栖町の謎の一つだよ……。

「謎、かあ」

 わたしはそうつぶやいてから、ふと閃いた。
 謎、そうか、謎だよ!
 面白いアイデアが浮かんだ! これはいいかもしれない!
 いやイケる! たぶん。
 うまくいけばお客が戻るどころか、お客が前より増えるはず。
 よーし、本格的に考えよう!

「なにやってんだよ」

 早めに給食を食べて、ノートにアイデアを書いていると西園寺が覗き込んできた。
 わたしはノートを手で隠しながらいう。

「やだ! 見ないでよ!」
「じゃあ家でやれよ。宿題でもやってんのか」

 西園寺の言葉にわたしは、「ちがう」といってから、ちょっとだけ考える。
 そういえば西園寺って頭いいんだっけ。
 大抵のテストで満点を取るぐらいだし。
 それなら西園寺の力を借りたいなあ。

「ねえ、西園寺ってさ、今日の算数のテスト満点だったよね。すごいよね~」
「なんだ急に。給食のプリンならやらん」
「そうじゃなくて! ちょっと知恵を貸してほしいことが……」

 わたしの言葉に西園寺が黙り込んだので、わたしは書きかけのノートを見せた。
 ノートを見るが早いか、西園寺は口を開く。

「面白そうだけど、これ作るの相当大変だぞ」
「だから西園寺の力を借りたいんだってー」
「もう根を上げてるのか……。ま、協力してやらないこともない」
「本当?! これから西園寺さまって呼ぶね」
「おう。そうしてくれ。ついでにプリンもな」
「えー! もう食べちゃったよー!」
「じゃあ、この話はなしだな」

 西園寺がやれやれと両手を上げる。

「えー! そんなあ。西園寺さまー! 助けてくださいよー! 西園寺さまー!」
「そんなに連呼されると、むしろ嫌味っぽいな……」

 西園寺はそういって苦笑いをすると、ちょっとだけ考えてからこういう。

「ま、面白そうだし乗ってやるよ」

 そうしてわたしと西園寺は、あれこれと意見を出し始めた。

 その日の放課後は教室に遅くまで残って、西園寺とアイデアを出し合った。
 家に帰ると、メッセージのやりとりをしながらノートにアイデアをまとめていく。
 ふと自室の窓からワンダーランドのお城が見えた。

「そうだ! あのお城、爆発させよう」

 そういってわたしはニヤリと笑った。

 土曜日になると、わたしはあちこちの店を覗きにいった。
 苺の家の、『ひめみや』のあの招き猫の置き物にも、もう一度触る。
 やっぱり思い出が見えない。
 ねばってなんとか、思い出が見えないか集中していると……。
 ようやく途切れ途切れの映像が見えた。
 でも、一瞬すぎてどういう思い出なのかわからない。
 そっか。この招き猫の思い出はそこまで遠い記憶なんだ。
 わたしがあまりにも思い出を覗こうとするから、招き猫も頑張って思い出そうとしてくれたのかな。
 その結果が、途切れた映像……。
 それを思うと胸が痛む。

「大丈夫、わたしが助けてあげるからね」

 わたしは招き猫の頭をなで、次の店へと向かう。
 呉服屋の振り子時計、お土産物屋の手作りらしき布製の人形、喫茶店の黒電話。
 お店の人に頼んで、それらの物に触れて記憶を見た。
 どの物の思い出も相当古いものばかりで、なんだか胸が痛む。
 招き猫のように思い出が見えない物もあった。
 大丈夫、わたしが絶対に君たちを助けてあげるからね。
 そう思いながら、西園寺旅館にも行った。

「うちは参加しないってさ」

 旅館に着くと西園寺がそういった。

「えー! なんでー?!」
「通常ルートでは、参加しないってだけだ」

 西園寺はそういうとニヤリと笑って続ける。

「こういうのは、選択肢が多いほうが面白いだろ」
 
 こうしてわたしは、一人で町おこしのアイデアをノートにまとめた。
 まあ西園寺にも手伝ってもらったけど。
 そして明日の日曜日にある町内会に参加させてもらって、町おこしの詳細を大人たちの前で発表した。
 すごく緊張したけれど、自分の伝えたいことはしっかりいえたと思う。
 あとは、大人たちの反応だよね……。
 辺りが静かになったので、なんだか冷や冷やする。
 するとそのとき。

「うん、うん。これは面白そうだなあ!」

 真っ先に褒めてくれたのは、白鳥さんのお父さんだった。

「ですよね、面白いと思いますよ」「ぼくもそう思います」

 白鳥さんが褒めだした途端、他の大人たちも意見を合わせる声が聞こえる。
 おいおい、あんたたち白鳥さんのイエスマンかよ。
 大丈夫なの、この町……。

「萌乃香ちゃんのこの町への愛は十分に伝わった。いくらでも協力するからな!」

 白鳥パパは自分の胸をどんと叩いた。
 よかった、良い人で……。
 
 それからすぐに、有栖町のリニューアルが始まった、
 リニューアルっていっても、あまりお金をかけない方法だ。
 ちょっとした工夫で、話題作りができればそれが一番。

 わたしは人がまばらな有栖町を見渡す。
 リニューアルをしたからといって、人が戻ってくるわけじゃない。
 なんかいい方法ないかなあ、と町を歩いていると西園寺に遭遇。

「緒代、暇そうだな」
「別にそういうわけじゃないけど」
「そういや、さっきから変な人がうろうろしてるから気をつけろよ」
「変な人?」

 わたしが首を傾げたその時。

「あのー、すみません」

 背後から誰かが声をかけてきたので振り返る。
 わたしはその人の顔を見て、「あっ!」と声を出した。

「もしかして、ノロ・ノロイさんですか?!」

 わたしが興奮気味にそう聞くと、男性はにっこりとうなずく。
 有名ヨ―チューバが、目の前にいるなんて!
 それからノロ・ノロイさんはこういった。

「今日も呪われてるかーい!」

 わたしは元気に答える。

「いぇーい!」
「なんだそれ……」

 西園寺が冷めたを通り越して、氷のような瞳をわたしに向けてくる。

「えー、知らないのー? ノロ・ノロイさんの動画のあいさつだよー。いつもいうの」
「……へぇ」
「それよりきみたち、この町の子かい?」

 ノロ・ノロイさんは、そう聞いてきた。

「そうですけど」

 わたしと西園寺が答えると、ノロ・ノロイさんはうれしそうに笑った。
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