ワンダーランドのおひざもと

花千世子

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2.開花した能力

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 目の前には、白い石造りの赤い屋根の大きな大きな建物がある。
 まるで魔法学校のような見た目だけどここは正真正銘、老舗旅館だ。
 西園寺旅館の息子・西園寺航貴の家でもある。
 そう、キーホルダーの持ち主だ。
 あの映像から察するに、大事なものなんだろうから返したいんだけど、どうやって呼び出そうかなあ……。

「何の用?」

 そういって現れたのは、西園寺航貴ご本人であった。
 幼なじみであり、今は同じ六年一組のクラスメイト。
 昔と比べて、イケメンに磨きがかかって学校でも密かに人気がある。
 だけど、わたしは今の西園寺がちょっと苦手なんだよね。
 冷たい瞳をこちらに向けて無表情でわたしを見ているその顔は、何を考えているのかよくわからない。

「あっ! ちょうどいいところに!」

 わたしはそういうと、キーホルダーを差し出す。
 西園寺は、キーホルダーを見た途端にこういう。

「おれのではない」
「まだなにもいってないじゃん」
「おれのじゃない」
「いや、だから、まだわたしはなにも……」
「おれのじゃない」
「壊れたロボットじゃないんだから」
「とにかく帰れ」
「なによー。せっかく人が親切心で届けてあげたのに……」
「時間の無駄だったな」

 西園寺はそういうと、わたしに背を向けた。
 それからぴたりと動きを止める。

「いや、まて」
「なに?」
「そのキーホルダー、どこに落ちてた?」
「え? 裏通りのカフェの前」
「なんでおれのだと思った?」

 西園寺はそういうと、くるりとこちらを振り返る。

「え、いや、その……それは……」

 わたしは、返事に困った。
 まさか本当のことをいえるわけがないし、いったところで信じそうもないし。

「むかーし、西園寺が持ってるのを見たことがあって」
「本当か?」

 まあ、うそなんだけど。

「えーっと、なんか、西園寺のだって、思ったけど」

 わたしはキーホルダーをポケットにしまうって、「ちがうならいい」とだけいって歩き出そうとした。
 その瞬間、 西園寺に腕をガシッとつかまれる。

緒代おとし、まさか、あの能力が開花したのか?!」
「えっ? 能力?」

 ギクリとしたのが顔に出たらしく、西園寺はニヤリと笑っていう。

「物に触れると、持ち主の物の思い出の一部が映像として見える」

 西園寺の言葉に、わたしは言葉に詰まる。
 なんで知ってるの?!
 その言葉を慌てて飲み込んだ。
 西園寺は得意気に続ける。
 
「……そういう能力が、開花したんだろう?」

 西園寺は大まじめな顔でいった。
 わたしは思わず黙り込んだ。
 だって、わたしの能力をピタリと当ててしまったのだから。


 ちょうど一週間前、夏休み最後の日。わたしの誕生日。
 そして、おかしな能力が備わった日。

『物に触れると、その物と持ち主の思い出が映像として、わたしの頭の中に見える』

 そんな異能に目覚めてしまったのだ。
 自分がおかしくなったのかと思って青ざめながら母に話すと、あっさりとこういわれた。

「ああ、萌乃香ものかのおばあちゃんも同じ能力があったのよ」

 どうやら、これは隔世遺伝らしい。
 祖父母は今、マレーシアでのんびりと暮らしているので直接詳細は聞けないのだけど、心配するようなものではないらしい。
 とはいえ、誕生日に突然、備わった能力を、どう扱っていいのかもわからずに持て余していた。
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