10 / 40
4-1.妖精卿と魔法の練習編1【R-15:疑似性交】
しおりを挟むお互いに意思疎通に務めようと決め、さっそく俺は意見を伝えていた。
けれど早々に食い違い、ヴァルネラに抗議の声を上げられる。
「え、一緒に寝ちゃダメなんですか!? 同じ屋敷に住んでいるのに!」
「俺だって一人の時間が欲しいし、四六時中一緒は疲れるから」
今までは行為の後も一緒に寝ていたが、干渉されずに休みたい時だってある。
屋敷は豪邸と言えるくらい広いし、この程度の要求は許してほしかった。
「……分かりました、貴方が嫌なことはしません」
「寝てる間に、逃げたりなんてしないよ」
唇を尖らせながら了承したヴァルネラは、納得しきれない顔で嫌々頷く。
子供っぽい膨れ面は愛らしいが、彼は妖精卿なのでそこで終わってはくれない。
「そんなことしたら地の果てまで追いかけて、妖精化させますからね」
「不安なのは分かるけど、あんまり怖いこと言わないでよ」
不穏な発言に俺が半眼を向けると、ヴァルネラは拗ねた顔を返してくる。
本当は了承したくなかったと、その表情がありありと物語っていた。
「ずっと目の届く場所にいてほしいくらいなんです。我慢してるんですよ、私」
「ヴァルネラばかりには合わせられないし、そんな関係は続かないよ」
俺がいつ魔法を使えるかは分からないし、お互いが嫌いになるのは避けたい。
そして譲歩できる範囲で歩み寄るには、こういう細やかな調整は欠かせなかった。
「……じゃあどこまで、私は我慢し続ければいいんですか」
「それはこれから、妥協点を見つけていこう。どうせ長い付き合いになるんだしさ」
けれど俺が長期戦を覚悟しながら話を進めると、彼は途端に嬉しそうに首肯する。
綻んだ表情に嘘はなさそうだが、俺には心変わりした理由が分からなかった。
「! そうですね、えぇ、ぜひ!」
「なに、そんなに話し合いが嬉しいの?」
急に機嫌が良くなった理由がそれしか思いつかず、俺は不思議に思って尋ねる。
すると更に笑みを深くして、ヴァルネラは幸せそうに頷いた。
「はい! いつも気づくと手遅れになってるので、だから話し合いが嬉しくて!」
(力があっても、幸せにはなれないものなんだな。それでも羨ましいけど)
いっそ無垢だとも形容できる様相だが、過去の経験が彼の心を歪ませている。
重い感情は執着心に変貌し、俺をこの場に留めようという思考に繋がっていた。
「俺は勝手にはいなくならないよ。ちゃんとした魔法も教えてもらわないとだし」
「あ、じゃあ魔力の発露から試してみますか。これならすぐにできますよ」
利害の契約を交わしてからのヴァルネラは、魔法を教えることにも協力的だった。
魔力の制御が未熟な俺に合わせて、懇切丁寧に教えようと目を輝かせている。
「発露ってことは、体の外に魔力を出すってこと?」
「そうです。全ての魔法の基礎で、ここから無数の魔法に発展していくんです!」
ヴァルネラが魔力を放出すると、それは様々な姿に変化して存在を誇示した。
燭台に灯り、庭の花に降り注ぎ、積みあがった書類を舞い上がらせる。
「なら体内の魔力を感知して、外に引きずり出す感じにすればいいのかな」
「出力が大きいと怪我をするので、最初は糸のようにするといいですよ」
成果を手早く求める俺を諫めるように、ヴァルネラは優しく語りかけてくる。
彼の言うことは一理あり、俺は慎重に体内の魔力を手繰り始めた。
「……うまくいかない、なんで」
「内側で魔力が散っているみたいですね。結果として、出力量に足りていない」
けれどいくら意識をしても魔力は霧散して、指先から僅かな成果も現れない。
体ばかりが火照っていき、焦りと苛立ちで俺は唇を強く噛んだ。
「あんなに頑張って、魔力を受け入れたのに」
「まだ諦めるには早いですよ、私がお手伝いしてもいいですか」
俺の拗ねた呟きを励ますように、様子を見ていたヴァルネラが提案してくる。
魔法の知識は彼の方が間違いなく深いから、俺は素直に頷いて教えを乞う。
「うん、お願い。……え、ちょっと重いんだけど」
「私の魔力の流れを、真似した方がいいと思いまして。後ろから失礼しますよ」
俺が了承を聞いたヴァルネラが、後ろから抱き着くように覆い被さってくる。
体重は掛けられていないが、手先まで密着する体位に思わず困惑してしまった。
「ちょっと、そんなに圧し掛からないでよ。っていうかこんな体勢でやるの?」
「こっちの方が分かりやすいですから。いっそ四つん這いになりましょうか」
背後から耳元で囁かれるとくすぐったくなり、俺は膝を崩して床に這いつくばる。
その上にヴァルネラが乗っかると、自分が組み伏せられていることに気づいた。
(動物の交尾みたいで、恥ずかしいなこれ。でも自分じゃうまくできそうにないし)
魔力の感覚に疎い俺では一人で問題を解決できないし、今は他者を頼るしかない。
そうこうしている間に背中からヴァルネラの魔力が巡るのを感じ、俺は目を閉じて受け入れようと努めた。
「では心臓から腕に魔力を通すので、真似してください」
「んっ、あ、なんかあったかい……」
魔力がヴァルネラの胸から指先に向かっていき、俺は後を追いかけようと藻掻く。
体内で散っていた魔力が束ねられて、外側への道筋を辿り出した。
「ではその流れを体の外まで引き出してください。いけますか?」
「……できそう、体が熱い。 っ、あ、なんか引っ張られてる!」
指先まで到達した魔力が形を成すが、そこで塞き止められて熱が体に溜まり出す。
出口を求めるもどかしさに息が揺れて、ヴァルネラにまで興奮を促した。
「私が外側から、魔力を誘導しています。そのまま感覚を委ねて。……くっ」
「ん、あ、これ、きてる……! 魔力が溢れ、あっ、……っ!」
隙間なく密着した体勢が疑似的な行為を思わせて、ヴァルネラの腰も動き出す。
けれど本格的な動作になる前に、俺の指先から細い魔力が噴出した。
「一瞬ですけど、魔力が発露しましたね。これがいずれ、魔法になっていくのです」
初々しい魔力の発露に気づいたヴァルネラは、正気を取り戻して俺から離れる。
追っていた熱が離れたことに寂しさを感じながら、俺も床に転がった。
114
あなたにおすすめの小説
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
氷の支配者と偽りのベータ。過労で倒れたら冷徹上司(銀狼)に拾われ、極上の溺愛生活が始まりました。
水凪しおん
BL
オメガであることを隠し、メガバンクで身を粉にして働く、水瀬湊。
※この作品には、性的描写の表現が含まれています。18歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。
過労と理不尽な扱いで、心身ともに限界を迎えた夜、彼を救ったのは、冷徹で知られる超エリートα、橘蓮だった。
「君はもう、頑張らなくていい」
――それは、運命の番との出会い。
圧倒的な庇護と、独占欲に戸惑いながらも、湊の凍てついた心は、次第に溶かされていく。
理不尽な会社への華麗なる逆転劇と、極上に甘いオメガバース・オフィスラブ!
【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】
ゆらり
BL
帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。
着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。
凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。
撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。
帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。
独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。
甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。
※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。
★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!
殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?
krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」
突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。
なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!?
全力すれ違いラブコメファンタジーBL!
支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。
ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?
灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。
オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。
ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー
獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。
そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。
だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。
話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。
そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。
みたいな、大学篇と、その後の社会人編。
BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!!
※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました!
※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました!
旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」
【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった
cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。
一途なシオンと、皇帝のお話。
※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる