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7-1.妖精卿と誘拐編1【R-18:半無理やり】
しおりを挟む翅が生えてから一か月が経過し、俺は部屋からほとんど出られなくなっていた。
常に倦怠感が付きまとい、寝台から起きるのが億劫で仕方ない。
「ヴァルネラ。俺は病人じゃないんだから、そんなに世話しないで大丈夫だよ」
「私がしたいから、しているだけです。それに生えかけの翅は繊細ですから」
ヴァルネラは俺の世話を焼きながら翅を撫で、慈しむように見つめている。
暇さえあれば側に寄ってきて、愛撫だけの弱い魔力供給を行っていた。
「そんな簡単に壊れないでしょ。でも魔力をくれるのは、正直助かってる」
「翅が成長するには、膨大な魔力を要しますから。でも過剰摂取は避けましょう」
妖精翅が生えた俺は部屋を移動させられ、今は一番上等な場所で過ごしている。
元々の部屋も充分豪華だったが、ここはそれ以上に整えられていた。
(ヴァルネラ、俺に翅が生えてから本当に嬉しそうだ。でも彼の悲願だもんな)
長年足掻いても手に入らなかった存在を前に、必死になる気持ちは理解できる。
そして献身を受け入れている俺に、彼の行動をとやかく言う資格などなかった。
「魔力汚染を起こさないよう、経路拡張も続けていきましょうね」
「今からするの? まだ昼間なのに、脱がせるつもり?」
寝台に寝転がったヴァルネラをからかうと、彼は蕩けるような笑みを返してくる。
その視線は僅かにずれているが、指摘することは遂にできなかった。
「挿入はしませんから。撫でたり、魔力を絡ませて触れるだけ」
「あぅ、も、胸ばっかり……! や、あ、あんっ」
羽織っていただけの服すら奪われた俺は、ヴァルネラに好き勝手に弄ばれている。
翅が潰れないように彼の膝に座らされ、胸が赤くなるくらいに責め立てられた。
「貴方だって焦れったそうに腰を揺らしているじゃないですか。抵抗しないですし」
「俺は魔法使いになりたいから、我慢してるだけ……!」
なんだか虚しさが強くなって顔を逸らすと、ぴたりとヴァルネラの愛撫が止む。
それに訝しんで顔を上げると、動揺したように目を見開く彼と目が合った。
「ヴァルネラ、どうしたの。なんか引っかかるところあった?」
「いえ、なんでもありません。……そうですよね、最初から言ってましたもんね」
どこか拗ねたような横顔の彼が、長いため息を吐いてもたれ掛かってくる。
そして中途半端な機嫌を直さないまま、俺の首筋に顔を近づけてきた。
「あ、やぁ! なんでそんな、急に強くするの!? やだ、噛まないで!」
そのまま首筋に歯を立てられ、噛み千切られはしないが痕をつけられる。
俺からの拒絶の声を無視し、ヴァルネラは無言で傷を増やし続けた。
「やだ、痛いってば! あっ、あぁ! なんで、やめてよ!」
「グレイシス、やっぱりしましょうか。魔法の使い方も後で教えますから」
快楽を上回る痛みに俺が逃げようとするも、ヴァルネラは絶対に離そうとしない。
そして俺の体をうつ伏せに押し倒し、腰を高く上げさせた。
「うそつき、しないっていったのに! ……っあ、やぁ! そこ、やだぁ!」
なんとか抗議しようと振り返るが、その前に濡らした指を後孔に突き立てられる。
最近は心底丁寧に扱われていたのに、急に荒っぽい動きになって頭が混乱した。
(なんかヴァルネラ、話が繋がってない。でもなんで、きっかけが分からない)
一番感じる場所を指で強く擦られ、思考が快楽と恐怖で塗り潰されていく。
身の危険を感じた俺は、最近使っていなかった命令魔法を行使した。
「貴方が言っていた通り、一度くらいなら大丈夫でしょう。ほら、足を開いて」
「本当にやだ! ヴァルネラ、怖いから! 《言うこと聞いてよ》!」
俺が声を荒げるとヴァルネラは指の動きを止め、慌てて俺の体から離れた。
命令魔法と言ってもお願いと同義だから、実際は彼が自制したのだろう。
「っごめんなさい。取り乱しました!」
「そんな乱暴にしたら、翅だって潰れちゃうよ。大切にしたいでしょ、これ」
俺はヴァルネラを警戒しながら後ずさり、まだ弱々しい翅を盾に責め立てる。
それを見て我に返った彼が、血の気の引いた顔で謝ってきた。
「そう、ですね。……痛かったでしょう、魔法で治しますね」
「もうこんなことはしないでよ、本当に怖かったんだから」
ヴァルネラは愕然とした表情をしながら、俺の翅を懸命に治している。
ただ俺も翅を盾にしてる自覚はあるから、これ以上嫌がるつもりもなかった。
「……やっぱり今日は行為をやめましょうか、服も戻しましょう」
「乱暴にしないなら、続きしてもいいよ。ヴァルネラ」
怖い思いを強いられないなら、契約の対価に捧げた体は好きにすればいい。
けれどヴァルネラは首を振り、俺に身なりを整えさせて毛布を掛ける。
「いいえ、ゆっくり休んでください。私は外で頭を冷やしてきます」
「この状態で放置されると、それはそれで辛いんだけどな……」
部屋に一人取り残された俺は不満げに呟くが、ヴァルネラの足音は既に遠い。
けれど半端に行為を終えられた俺の熱は、まだ内側で燻ぶっていた。
(でも最近は魔力を発散しないで、取り入れたくなる。これも翅の影響か)
俺は部屋を見まわしながら、強い魔力を含んでいる物がないか確認していく。
自分が変わっていく怖さはあるが、魔法が使えるかもしれない希望には抗えない。
「……服とか、借りてもいいのかな。少しは魔力が残ってるはずだし」
俺は寝台から降りて椅子に掛かっていた上着を拝借し、それに顔を埋める。
すると魔力と同時に彼の匂いも感じられて、少しだけ欲求が落ち着いた。
(何度も注がれているからか、やっぱりヴァルネラの魔力は馴染みがいいな。自分でもどうかとは思うけど)
自分が染め上げられていく感覚は心地よく、同時に破滅へと突き進んでいる。
けれど俺はもう、引き返すことはできないところまで来てしまっていた。
(妖精に近しくなるほど、怖い思いをしなくて済むようになる。……ヴァルネラの願いだって叶えられるんだ)
翅が完成すれば俺は魔法を得て、ヴァルネラは妖精種の同類を得ることができる。
それが正しいのだと自分に言い聞かせて、今日も俺は問題を先送りにした。
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